表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/76

9話、嵐の海には近寄るな

 このポポタンを千匹倒すとラッキーポポタンなどのレア種が生まれる。ゲーム世界がそのまま現実となったのかは未だ分からないが、記録しながら倒した結果、この世界ではその数は(まばら)であるようだ。


「ほいほいほい!」

『ポポっ――』


 今の装備である『銀刀・セセラギ』で、ズバズバと可愛らしいポポタンを斬殺する。容赦なく、動物愛護団体に隠れて沸きに沸くポポタンを狩りまくる。

 これを繰り返して、今日で二日目。そろそろ三体目のラッキーポポタンが出てくる頃だ。


「……そろそろやってみるか」


 固有魔法の応用。デュエルと決闘した時には、【雷切】が勝敗を分けた。あれは【コールの赤雷】を局所的に使用して、刀を加速させるというもの。速度は力。刀の威力を激増させた【雷切】は、俺達モードレンドを最強たらしめる必殺技だ。

 しかし密かに問題が起きていた。

 武器の耐久値だ。名刀と言えど耐久値は打刀とそれほど変わらない。つまり速くすればするほど早く、耐久値はガクンと削られる。あの時なんて何本も折れちゃっていた。

 だから考えた。


「――えいっ」


 ♤


 実験が成功したところで、残りのポポタンを殺す。


『ポポーっ!!』


 何の罪もないポポタン達が訳も分からず虐殺されて、アンラッキーにもラッキーポポタンが出現してしまう。防御力はポポタンの倍で、大きさは二メートルを超える。

 でも斬っちゃう。


『ポポーっ!?』


 所詮はユニーク個体であると言ってもレベル五十ちょっと。デュエルに勝った俺にかかれば、現れた瞬間から唐竹に割れてしまう。


「なっ……あのラッキーポポタンまで……」

「まさか、あれがノックブランドの英雄か……?」


 驚愕して慄く観衆には悪いが、ラッキーポポタンから大量の経験値と共に目当てのブツを回収する。みんな御用達『ポポタンの目鯨』というドロップ率アップのアイテム作製に使う、ラッキーポポタンの産毛だ。

 デュエルに勝利した事により、学校に通わずに自由に過ごせる時間ができた。これは自分用に使うが、このような素材を集めながら存分に世界を楽しむ。

 要はローズマリーが洗脳されなければいいだけだから。タイミングを合わせれば、それ以外は遊んでいていいのだ。


「ふぅ……」


 また何も知らずに生まれ変わる憐れなポポタンが現れるまで、暫しの待ち時間か。


「……」


 ……暇。


 どうせ誰もポポタンを相手にしないし、競合することはない……弁当でも食べるか。そう決めるとすぐに胡座(あぐら)をかいて座り、鞄から弁当箱を取り出す。


「タララタッタラァ〜! お祖母ちゃんの作ったものとは思えない豪華な弁当ぉ!」


 早速開くとステーキ肉や野菜の煮物とチーズ、そして朝に焼いたパンなどが四角い箱に敷き詰められている。食欲任せにナイフとフォークで食い漁っていく。


「むぐむぐむぐ、あむっ……」


 そう言えば、あの名物食堂もあったか。軍学校に入ったら食い散らかしてやるぜ。


「あむあむあむあむっ……」


 次々と口へ放り込んで、昼食を堪能する。


『シュコぅっ、シュコぅっ』


 暗黒面に堕ちた選ばれし者みたいな呼吸音を出しながら、ポニーテールにした銀髪が美しいガスマスク少女が隣から見下ろしてくる。小柄ながら似つかわしくない汚れだらけの白衣を着ており、背後に腕利きであろう女の護衛を伴っている。


『……何故、このようなところに子供がいるのだろうか。(はなは)だ疑問だよ』

「てめぇ、何歳だよ」

『十二歳だが、何か?』

「年齢なんか何の指標にもならねぇんだよ、えばんな」

『記憶力に難があるようだね。君は低脳に違いない』


 いい度胸だ、ちんちくりん。昼飯を掻き込み、全力で咀嚼(そしゃく)して飲み込む。


「ごくりっ……あんた、名前は? 俺はアレキサンダー・ニンジャマンだ」

『あからさまな偽名に体裁だけだが感謝する。では、こちらも名乗ろうではないか』


 白衣をはためかせ、少女は俺へと胸を張って名乗った。


『私は世紀の大天才、ロロ・レオナルド! 何を隠そう、“二百年先を行く者”とは私のことなのだっ!』


 こいつ、ちょっと可愛いかも。ガスマスクしているので分からないが、無邪気に訳わからないことを自慢するこの性格は好感が持てる。


「ちょっと顔見せて?」

『なっ!? ちょっ、マスクに手をかけないでもらおうか! 顔出しだけはしていないのだっ! あわわわわっ、ちょ、ホント顔だけは勘弁してッ!』

「一瞬でいいから。顔が良かったら俺の女にするだけだから」

『このガキ危ないっ!!』


 なんか面白いから気に入ってしまい、子供二人で戯れ合っていると、護衛の人が機を見て引き剥がしに来た。


「博士、そろそろ帰りましょう? 嵐になると聞きましたし」

『……ふん、ご苦労』


 白衣の乱れをこれ見よがしに整え、ロロは澄ました様子に戻って告げた。


『必要なデータは取り終えているのだ。煩わしい子供に構うなど、合理性を求める私らしくもない……』

「興味があることには妥協しない博士らしい行動でしたけど。知りたいと思ったら止まらないんですから」

『許可無き発言は控えたまえ、助手君』

「護衛です、博士」


 護衛と共に去ろうと踵を返したロロは、一歩目を踏み出すと、ふと思い出して立ち止まった。


『……なるほど、理解が追いついた。そうか、コール・モードレンドか……』

「俺もたった今、思い出した。お前があのロロ・レオナルドだったか……」

『白々しっ!? 恥ずかしくないのかね! 君のは私が名乗ったからだろうにっ!』

狼狽(うろた)えることはない。その白衣、そして挙動から自然と見えて来ただけだよ、博士」

『天才面は私だけの特権なのだ! その顔を疾く控えたまえ! 君の猿真似は不愉快極まりない! ふんす!』


 ふんぞり返って腕組みするロロは、思い切り俺を見下した後に改めて帰路へ足を向けた。


『……君も早く出口へ向かうべきだな。もうすぐ嵐だ』

「嵐?」

『そうだ。いかにコール・モードレンドと言えど危険だろう。天才の私は一足先に失礼する、ではな』


 ローズマリーと並ぶお気に入りの玩具が去っていく。しかし嵐と聞いたからには後を追えない。何故なら嵐には、奴が湧くからだ。

 それにしても……天才か、可哀想に。真の天才は人工精霊を生み出したアイザック博士だというのに。世間知らずも、もうすぐ現実を見ることになるのか。


 ♤


 エリアIは通称“海の魔人が巣食う浜”と呼ばれ、洞窟内にあって天井は開かれており、空を見上げる開放的な空間であった。砂浜も水辺も穏やかで、出没するマーマンの数も少数と初戦闘には打ってつけの場所とされている。

 晴れの日は……。


「はぁっ、はぁっ……!」

「くっ、脚を食われた! 退路は確保できたのか!?」


 四人を取り囲む青緑色の鱗を全身に持つ人型の魔物、マーマン。エラはあっても肺呼吸も可能で、分厚い尾と爪や牙は亀の甲羅も破る程だ。

 レベルは二十後半から三十後半が平均的である。


「ダメだっ! 一体も倒せやしないっ!」


 突如として嵐となったエリアIは瞬く間に浜辺から上がったマーマンに埋め尽くされ、この四人組のみならず多くの魔戦士達が群れに呑み込まれていた。


『ぎゃァァァァァ!?』


 遠くからは断末魔らしき絶叫も生まれ、確実に這い寄る死の瞬間を刻々と待つばかり。懸命に足掻(あが)くも、陣形は徐々に狭まり、背を合わせるまでの距離に達する。


「ぐぅ……だからまだ早いって言ったんだ!! リーダーが大丈夫だなんて無責任に言うからだぞッ!!」

「……!」

「えっ――」


 負傷して(うずくま)っていた男が憤然とした心情を吐露した瞬間に、自尊心の高いチームリーダーの男が激昂する。彼の肩の紐に手をかけ――マーマンへと放り出した。


「何ス、っ――ぐぁぁぁ!? タスケッ、タスケテくれぇぇぇ!!」

「な、なにをっ……!?」


 マーマンに食い千切られていく男を救おうにも、仲間達はリーダーの凶行に恐れ慄いていた。


「……」

「はんっ、責任転嫁しやがって……他に文句がある奴はいるか? どうせ死ぬんだ。お前等も放り込んでやろうか?」


 目は正気を失っており、理性もなく力の弱い女へ手を伸ばす。


「やめっ、やめてっ! 止めてッ!」

「おいっ、リーダー! イカれちまったの、か…………」


 止めに入った男の心臓に短剣を突き刺し、マーマンへと蹴り転がすと、女の首を力の限り締め付ける。


「グッ、かっ、ハッ……」

「大体よぉぉ……お前等が弱いからだろうっ……!? 俺が一番レベルが高くて、散々いい思いをさせてやったのにっ。こうなったら俺のせいかぁぁ!? あぁん!?」


 呼吸叶わず、視界が朧げになるに連れて男の声も遠のき、マーマンに脚を食いつかれながらも、酸素を求めて泡を吹き始める。

 少女はあまりに醜悪な最後に涙する。醜い呻めき声で漠然と助けを願ったのは、まだ未来を夢見る少女には必然的だった。


(たすけてっ……)


「いいよ」


 子供の声音が、願いに応えた。取り巻くマーマンの群れが細切れに弾け、リーダーの腕が肘辺りから断たれた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ