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81話、愛犬と憂さ晴らし

 成長著しいルーラー達の快進撃は、クカイ和尚やアグラヴェイン不在という一部の憂慮すべき点を除き、順風満帆に連日連夜も続いた。

 これまでの不振続きだった魔城攻略は何処へやら。湧くように増殖する男爵級悪魔のものを中心に、都合が合うならば子爵級にも積極的に強襲をかけた。


 しかも男爵級の例を見ると、攻略法を掴んだというのが顕著に表れている。

 これまでの多人数編成と異なり、二人編成(ツーマンセル)での攻略が通常となっていたのだ。これにより魔城攻略速度は数年前までの急速に上昇した加速率を思わせるまでになっていた。


 何が彼等に変革をもたらしたのだろう。言うまでもなく急成長の理由は、コール・モードレンドの釈放だろう。彼がアーサー等に教えを授けた影響に相違ない。

 加えて、彼はある日から彼女(・・)も連れ戻した。


「今日からは真面目に参加してくれるという事なので、皆さんまたよろしくお願いします……ほら、あなたからも」

「ちっ……まあ彼の手前、やるべき事はしますので」


 あの恐るべき才能、アグラヴェインを学校へ連れて戻ったのだ。

 彼女の再編成は彼等にとって大きな戦力補強となるのは明らかだ。長距離狙撃のみならず、接近戦も得意とする万能なアグラヴェインだ。

 これでまた魔城攻略速度が上がると、不本意ながらペンドラゴンと同じ期待感を誰もが抱いていた。


 だが、これを快く思わない存在がいる。

 大悪魔ベルフェゴールだった。彼女程の強大な悪魔にとって人間など虫ケラ以下であり、これまで鼻に付く事はなかった。

 彼女にとって敵というのは、同じ悪魔でありながら魔王と呼ばれる規格外の強者達のみだ。


 しかし、ここのところの魔城攻略を見れば、彼女の支配領域が踏み荒らされているように思えて来たのだ。土足で駆け回り、養分として食い散らかし、上位生物である悪魔を雑草を除草するように駆除して回っている。

 彼女は“怒り”とは言えないまでも、若干の不満を抱いた。

 そして協力関係にある〈空の器〉へと一報を入れる。


『――精霊を使役する“(ハエ)”をどうにかせよ』


 ベルフェゴールは、蠅と女が何より嫌いなのだ。


 ♤


 悲報が届く。

 将軍、逝く……。


 正確には行方不明になったらしい。俺が始末する前に〈空の器〉から失態を咎められて、始末されたのだろう。

 つまり、今回の貴重な経験値は失われてしまったのだ。


 これほど悲しい事があるだろうか。朝まで酒を飲んで終わっただけだ。書物を読み漁り、良い上司になる方法の知識を蓄えただけに終わる。

 夜の海を望めるナイトプールで、プールサイドチェアに寝そべりながら大いに嘆く。昼間の猛暑が蓄えた体熱を、涼しい海風が優しく撫でて取り去ってくれる。ついでに経験値への未練も。


「……!」


 ……ダダダッと走り出した。

 綺麗な月と海へ向かって未練まみれで走る。


「どこ行ったん俺の経験値ぃ〜!!」

「まだご機嫌は治らない?」


 世界中を癒しているところに申し訳ないが、イライラを大自然にぶつけさせてもらった。

 そんなところに相棒がやって来る。ドエロいビキニ姿のレイチェルが、シャンパンや夕食を作って持って来てくれた。

 お得意のトマト系……しかも魚介のスパゲッティだ。あとは茹でた丸々のロブスターとも目が合った。


 ショートカットの黒髪にグラビアアイドル顔負けの肉感的な肢体を揺らして、もてなしに一切の抜かり無し。月明かりに照らされた美顔と真っ白い谷間が目を釘付けにしてくる。


「他に出来る事はないかな。久しぶりの時間を楽しく過ごしてもらいたいからね」

「いいから……レイチェルも折角の休みなんだから、ゆっくりしなさいよ。俺と違って人間関係で疲れてるだろ? 強欲な上司に無能な部下達。ストレスの荒波に揉まれてんだろ?」

「私は君に尽くす事で癒されているんだよ」


 諸々の乗ったトレーをテーブルへ置き、歩み寄る様は従順な愛犬そのもの。ブンブンと尻尾が振られているのが、目に見えるようだ。

 手慣れた様子で俺の手を取り、自慢の美巨乳へ押し付ける。言葉通りに、傷心中の俺をムッチムチに癒してくれるらしい。俺の失われた経験値(ラッカス将軍)と全く無関係なのに、どれだけ献身的なのだろうか。より一層、愛おしくなる。


「可愛い奴め。レイチェルのいない世の男達が不憫でならないね」

「んっ……そう思うなら、きちんと可愛がってね。コール君の飼い犬なんだから、お世話を忘れてはいけないよ?」

「これでもかってくらい可愛がってるっつうんだよ。」

「やんっ……ああ、コールくんに求められると思うと……今すぐ始めたくなって来ちゃったよ……」


 好き勝手に胸を揉んでいたら、激しく求められているとでも思ったのか、俺の事が好き過ぎるレイチェルにスイッチが入ってしまう。

 ハートマークを瞳に浮かべ、熱い待機混じりに上目遣いで誘われる。迷う事なく即決。愛犬の夜の世話も主人の仕事だ。


 明日から合宿なので、その前夜にセックスしちゃうのはどうかとも思うが、コイツの色気が理性を引っ叩いてしまった。

 今回はなんと、レイチェルへ贈り物があって来たのだ。

 だから別荘のプライベートビーチまで休暇の彼女を連れて来たのだから、癒されてばかりではいられないのだが……。


「犬耳と尻尾と、お気に入りの首輪も持って来ているから、最低でも二回はしてくれるよね? ああ、でも動きたくないなら、言ってくれたら私が全部やってあげるからね」

「その初心、大事。くれぐれも忘れないように」

「うん、肝に銘じるね」


 これを肯定しないと、ムッとしたレイチェルが拗ねてしまう。拗ねると猫みたいに絶妙な距離感で、そっぽを向いて離れてしまう。

 それで構わないでいると、それはそれでちょっかいを出される。面倒に感じない匠の匙加減で。

 つまり、どちらにしても可愛い。


 こうして経験値の未練はレイチェルの奉仕により洗い流されるだろう。

 とりあえずは、ウキウキする忠犬を連れてテーブルへ付き、まずは出来立ての夕食を取る事に。

 俺は紳士になってレイチェルを椅子に座らせ、ペスカトーレらしきスパゲッティを皿に取り分ける。密かに、俺の皿に入る貝を多めに計算しながら、二つの皿にパスタを盛る。

 

「……ふふっ。それで……今回、私はどんなスキルを覚えればいいのかな」

「今回はレベル上げに行こう。折角の休暇に何をするかなんて、レベル上げが最高に決まってるよな。それに昇進するらしいじゃん……はい、プレゼント」

「えっ……」


 向かいの椅子へ腰を下ろす俺を、親愛の眼差しで見ていたレイチェルへ差し出す。用意しておいた長細い箱を置き、サプライズに目を丸くする彼女へと、開封して物を見せてやる事にした。

 箱を開けてみれば、なんて事はないネックレスがある。


「ただのネックレスじゃないぞ。経験値アップの効果がある」


 訳あってレイチェルの昇進がほぼ確定的となった。

 なのでレベルの上がり辛くなったレイチェルへ、これを機に高めの装備を贈り物とした。

 素材を集めて加工店で作る類のアイテムで、ドロップをするまで自分で狩ったり魔戦士を雇ったり、それなりに苦労して作成した代物だ。


 仮にレイチェルが喜ばなくても、他に回せば――


「……」


 ……幸せそうに手に取って眺めているところを見れば、ここのところの苦労も報われる。何回も贈り物をしているが、毎回このように初めてのような反応をしてくれるので、こちらとしてもまたあげたいと思う……というキャバ嬢みたいなテクニックを使われている可能性もある。

 次のプレゼントは、誕生日のヨナ。その次はロロだったか。夜の世話といい出費といい、愛人のケアも大変なのだ。


「ありがとう……大切にするからね」

「戦闘で使うものだし、壊れても気にしないけどね。むしろそれが擦り切れるくらいレベル上げしてくれた方が嬉しい」

「コール君がそう命じるなら、そういう使い方をするよ……」


 使い潰せと言われて即座に従う忠誠っぷりだが、声色は寂しげだ。

 今度は普通のネックレスを用意しよう。……やっぱりコイツ、キャバ嬢みたいな事してない?


「……〈空の器〉も本格的に表立って動き出したしな。変な連中の噂もあるから、レイチェルも気合いを入れてレベル上げしないと」

「そう言えば聞こうと思っていたんだけど……将軍の次に軍内部で動くとすれば、誰になるの?」

「ん?」


 今、付けたいのかネックレスを首に回すレイチェル。アクセサリーを付けながらに訊ねられ、そう言えばまだ伝えていなかったと思い出した。


 スパゲッティを口に放り込んだ後だったので、激ウマパスタに改めて感嘆しながら、軍を辞めたらシェフでも食っていけるなと心中で太鼓判を押す。

 それから〈空の器〉の行動を話した。レイチェルが見張り易いように、それはもう詳しく説明した。俺の狙う次なる経験値の情報も添えて、後の楽しみとしてネタバレも程々に。


 するとレイチェル、今度はどんな繋がりなのか……このような話題を持ち出した。


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