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68話、贔屓の編隊を成長させてみよう

 彼女を連れて入ったのは、庶民的な価格で食事できるレストラン。

 しかし店内には品のいい者ばかりが目に付き、雰囲気はとても穏やかなものだ。言うなら趣ある老舗なレストラン。

 だからこそアシュリーは入り口付近で珍しそうに店内を見回している。


「……」

「アシュリーさん、どうぞ」


 用意された席に店員と先に到着し、彼女の椅子を引いて声をかけた。

 入り口付近で慌てたアシュリーが早足でやってくる。


「こ、こんな格好で来ていいお店なのだろうかっ……」

「僕は隣にアシュリーさんがいて、胸を張ってエスコートできますよ?」

「っ……」


 まずは男として意識してもらう。年下の世話をしているという認識から抜け出す必要があるのだ。

 好意を持っていると感じさせる事が大事。とても大事。節度と距離感を誤らず、時に引いて見せることも必要だ。


 顔を赤くしたところを見ると、第一関門は突破できたらしい。

 ヒステリックであったり、価値観や金銭感覚がとっ散らかっていたり、面倒な女ならば捨てればいい。その辺りの性分も慎重に見抜きながら、コールの容姿に頼らないスパイ育成法も会得していく。


「アシュリーさんは何を頼みますか?」

「えっと……」

「僕に任せるという手もありますよ」

「ならっ、ソール君のお任せで頼む。それがいい……」

「はい、任されました」


 そわそわと心落ち着かない様子のアシュリーに、料理を注文後に質問を投げかける。


「ところでアシュリーさんの好きな食べ物はなんですか?」

「私の好きな食べ物か……お肉、とかは好んで食べるだろうか」

「分かりました。次はお肉料理でいい店を探しておきます」

「つ、次っ……?」

「はい、次です」


 次の約束も取り付けておこう。肉食も肉食、赤身肉に齧り付くように、少々強引にアシュリーを攻める。

 ここはサバンナ。俺はライオン。こいつは……メスライオンとか。

 という、あまりにも無意味な思考を挟みつつアシュリーの日常に迫る。


「休日は何をしていますか? 趣味は?」

「……休みの日は、母の店を手伝ったりしているかな」

「お店をやられているんですね。何のお店かお聞きしても?」

「父がやっていたパン屋を引き継いだんだ。父が亡くなってからは、親族と家族経営に切り替えてやっている」

「アシュリーさんはその機会に、パン屋に転職しようとは思わなかったんですか? 魔戦士の危険な仕事よりも安定していそうなものですが」


 緊張や動揺を露わにしていたアシュリーだが、その問いには困ったような微笑を浮かべた。


「……これは踏み込んでいいものではなさそうですね。聞かなかった事にしてください」

「いや、いいんだ。大した話ではないからな」

「……」

「今のチームはなんだかんだと、気が合う奴等なんだ。だから昔、四人で目指せるだけの高みを目指そうと約束した。それが理由だ」


 気の置けない仲間達と魔戦士の仕事をしたかったから。ここまでシンプルな理由はないだろう。

 ネガティブ知らずなブラッド、頼りになるホエール、和やかな雰囲気を持つサラ、真面目なアシュリー。彼等は正しく“仲間”なのだろう。


 意味分からんけど。俺には経験値を他人と共有するという発想が理解できないが、仲間がいたら楽しいものなのだろうか。レイチェルみたいに完璧な愛犬になってくれるわけでもないのに。


「家族も背中を押してくれて、私には周囲よりも才能があった。だから私自身もどこまでやれるか試したかったし、後悔はしたくなかったんだ」

「……上を目指すなら、少しアドバイスさせてください」

「え……あ、ああ、なんだ?」


 年下の新入りが助言など、少しだけ戸惑ったようだが、当惑しながらも生意気なソールを受け入れてくれる。嫌な顔をひとつもせずに。

 外見中身……共に合格!


「皆さんはそろそろレベル上げのコツを覚えておいた方がいいかもしれせん」

「コツ……?」

「はい。仕事として依頼を発注されながら、最適なモンスターを効率よく倒すパターンを見つけるんです」


 レベリングだよね。基本だよね。

 ゲームではなく彼らには日常生活がある以上、普通にやっても時間とか足りないよね。

 つまり安全に倒せる魔物関連の依頼を受諾して、できるだけ数をこなす。民間魔戦士の常ならば、そういう発想になってしまう。


 でもそれだと入る経験値は少ない。討伐数を消化しても、日数がかさばる。時間がかかるだけだ。


「今から言う魔物を毎日、倒してください。そうすれば三ヶ月でレベル十は上昇するはずです」

「十!? そ、そんなの不可能だろうっ」

「レベルがもう二十半ばだから? レベルが上がれば上がる程、上昇率が下がるというのは迷信です」


 レベル120を近辺からは別だけど……。

 立ち入り禁止の高難度魔城に入らなければならないので、俺みたいにほぼ上がらなくなる。だからこそ、イベントやポポタンなどのラッキーチャンスはとても重要なのだ。


「僕がレベル40に到達したのは、そのコツに気付いたからで、本当はラッキーポポタンなんかじゃないんですよ」

「あ、やはりそうだったのか……そうだろうな、ラッキーポポタンなんているわけないよな、ハハっ」

「やっと笑ってくれましたね」

「っ……」


 嬉しみを込めて微笑めば、また赤い顔で俯いたアシュリー。胸まで抑えている……これ、もういけるんじゃね? 

 あとラッキーポポタンは実在するけどな。レインボーポポタンも。


 というわけで、あの接近戦特化パーティーでも倒し方を教えたらいけるであろう依頼を教える。

 ただ後衛がいた方が確実ではある。


「……以前は一般的な前衛と後衛の組み合わせだったと聞きました」

「あ、ああ、そうだ。私とホエールが前衛で、ブラッドとサラが後衛だったんだ」

「ブラッドさんとサラさんは何を使われていたんですか?」

「ブラッドは銃だ。サラは魔法を使っていた」

「……とてもバランスがいいように聞こえますね」

「サラが病気になった事があって、退院してすぐの頃は魔法がスランプになったんだ。ブレッドも天候が悪い日は屋内や車内から援護するという馬鹿をしていたし、話し合って全員を前衛にしてみてはと……そういう決断を下した」


 それなら構成は変えずに、現状の状態を維持するという前提で話さねばならない。

 後衛がいれば火力が出せるので安定はするが、ホエールならば盾役として受け切れるだろう。その間に三人が短期決戦で攻撃を集めれば問題ない。


「基本的に、レベルを上げるには格上を倒さなければなりません」

「それは分かるが、危険度を考えると定石通りが理想だろう?」

「いいえ。何故ならそのやり方では一般の魔戦士は、レベル50を超えるのはほぼ不可能だからです」


 だって軍が魔城などを使って部隊をレベリングして、魔戦士よりも確実に、より先に攻略してしまうからだ。

 民間魔戦士は軍の残り物のレベル20〜30、高くてもレベル40を相手に商売をしている。


 レベル50以上ともなると、一部の選ばれた者達が総取りしている。それは父デュエルであったり、レイチェルであったり、未来のルーラー達だ。


「ここで皆さんが軍人よりも強くなるには、やはり依頼された軍のお溢れの中でも、より格上に挑まなければなりません」

「……例えば、どんな強敵を相手にすればいいんだ?」

「少し厄介かもしれませんが、ワイトですね」

「……それは無理だ。ワイトは相手にできない」


 スケルトンという人型をした骨だけの魔物がいる。自我はなく、陽の光を阻む霧が立ちこめる一定範囲を永遠に彷徨(さまよ)う亡者だ。

 ワイトは彼等の王に当たる。とは言ってもレベル35〜40のお手頃ボス。しかもワイトの良いところは、霧自体を取り除かない限り、半日で復活するところだ。つまり苦労すれば、一日に二度もボスが倒せる。

 加えてワイトが復活するまでは手下のスケルトンも討伐できるので、無駄なく経験値が稼げる。

 なんて羨ましい……。


「僕は皆さんに傷付いて欲しいわけじゃありません」

「分かっている。ソール君がそのような人間ではないと、私は既に知っている」


 大好物が経験値で、その為に悪魔を殺しまくっていると知っても言えるのだろうか。女をスパイにして野に放っていると知って、同じ事が言えるかな?


「ワイトには特定の武器がとても有効です。とてもね」

「聖なる武器だろう?」

「いいえ。実は『氷の金槌』が破格の効果を発揮してくれます」

「……本当か? そこまで珍しい武器ではないし、私達よりも低ランクの初心者が使ったりするものだが……」

「試してみてください。動きも鈍くなり、魔法も撃ってこなくなります。ただし、この情報はあなた方の間でのみ共有してください」


 絶対に骨のモンスターって、寒いの嫌いだよな。開発者の一人がそういう考えを持っていて、お茶目な遊び心を込めて出来た設定だ。

 ただ、『氷の金槌』のみが有効なのであって、並大抵の氷魔法などでは通常と同じ反応が返ってくる。

 実際に試した事もあるし、これは間違いない。


「どうしてっ、どうしてそんな貴重な情報を教えてくれるんだ……? 協会に売って、情報が確かなら大金が手に入る筈だ」

「アシュリーさんだからです」

「……」

「大人のアシュリーさんなら、意味は分かりますよね」


 問いかけに対して……小さく控えめにだが俯き気味に赤面して、しっかりと頷かれる。

 丁度その時、料理が目の前へ運ばれて来た。店員が配膳した後に、改めてアシュリーへ告げる。


「皆さんが夢を叶えるお手伝いをする代わりに、アシュリーさんにはこれからも僕とデートしてもらいます。チームメンバーの為に、犠牲になってもらいますね」

「……メンバーの為なら、仕方がないな」


 お前が恋愛ドラマ的なやり取りを楽しんでいるまさに今。そのメンバー達は働いているんだけどな。

 人間よりも悪魔が好きな俺だが、贔屓(ひいき)したりせずに世の女にも愛を与える善人。俺は天使なのだ。


 しかし分からない。どうしてあの悪魔(メンバー)はこの平凡なチームに入って、普通に魔戦士業を楽しんでいるんだろう。この口振りだと、人間関係的にも良好そうだ。

 つまり人間社会で生活をしている事になる。人間と同じように、不必要に働き、不必要に飲み食いし、不必要に人間と行動を共にしている。


 悪魔愛護団体の会長として、非常に興味がある。このチームはこれからも見守っていこう。


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