66話、たまには現地人と触れ合ってみよう
使いたい魔法を習得するには、何種類かの方法がある。
まず先天的に持っている魔法を、レベルや練度を上げる事で更なる魔法を得る手段。これが一般的だ。
それ以外にも、アイテムを使う方法や特定人物に教わる、戦技のように必要条件を満たすなどの後天的に得る手段もある。
俺は固有魔法以外では炎熱系の魔法しか使えないので、後者の方法で魔法獲得を目指そうと思う。
と、いうわけで、たまには悪魔や主要人物以外の異世界人と交流してみよう。
「――プロの仕事をするだけだ」
その為には、このように面倒な事もしなくてはならない。心地良いだけの人生など有り得ないのだ。
俺は『ダルタニアンの指輪』で変装し、知人に頼んで協会を通じてフリーの魔戦士編成に組み込まれてみた。
早速、学校をサボタージュして、協会から指定された場所でその仲間達と合流したのだが……いたのが、こいつらだ。
これから『嵐竜の山』に向かうというのに、金髪サングラスにスーツまで着る、自称プロフェッショナルの馬鹿がリーダーの四人組だ。
あまり目立ちたくないので、戦闘を積極的にやらなくてよい、そこそこ強いところを希望したのだけど……本当にやれんのか?
「みんな、分かっているだろうが、雨天は何があっても作戦中止だ。クリーニングが大変だろ?」
「ブラッド、それは却下だ。いつもとは違う。今回は同行者がいるのだから、雨ごときで中止になんて出来ないだろう?」
「濡れたスーツほど不快なものはない。考え直すんだ、ホエール」
今のところ、濡れたスーツより不快なブラッド。鼻に付く態度で、先程から定期的に『オープンカーはアホの乗り物』と、偏見と罵倒を繰り返している。乗っていて雨に濡れたことがあるらしく、やけに恨んでいる。
しかし不幸中の幸いか、まともなのも編成されているようだ。
軍用ブーツに動き易い帝国部隊のものを模した装い。分厚い手も何らかの武器をやり込んでいる証だろう。金髪と違ってロン毛でもなく短く刈っており、色黒強面ながら気遣いも出来ている。
ホエールという名前がやけに似合うこの大男は当たりだな。
「新人ねぇ……ソール君だっけ?」
「そうです。ソール・ロビンです」
「君は何が出来るのかな?」
……ブラッドが人差し指と中指で、額を指差して問うてきた。
指の脱力具合といい形といい、間延びした語調の砕け方といい、ナルシスト全開の面持ちといい、いちいち苛立たせてくる。
しかし『嵐竜の山』にはレベル二十以上かつ五人編成でなければ立ち入れない為、今日は我慢しなくてはならない。
「火魔法がクラス4です」
「クラス4っ!? ……フォーオ!?」
あ、気持ちいい。ブラッドの事が好きになれそう。
ずっこけたブラッドに好感を持ってしまうが、それは当然ながら驚くだろう。
火魔法……だけではないが、攻撃系の魔法がクラス4になるのは、通常で言うならキャラクターレベルが40以上だ。
つまりコイツらの倍くらい。魔法だけでも超格上となる。
「す、凄いな……」
「……」
桃色の髪をした女と、おっとりした茶髪の女も驚きから目を丸くしている。
歳は全員、二十歳かそこらだろう。この年齢でレベル二十を超えているなら大したものだ。
「幸運な事に、ラッキーポポタンと遭遇しまして」
「本当か? 本当にいたのか、ラッキーポポタンなんて都合の良いモンスターが……」
ホエールはラッキーポポタンのその実在すら信じていなかったらしい。
確かに伝説の生物と言われているが、その存在を信じている人は少ないようだ。これもまた気付き。
「皆さんはご友人なんですか?」
「今はそうとも言えるが、元は訓練所の同期というだけだった。仮の編成で組んでから、そのままこうしてやって来たわけだ」
「そういう人もいらっしゃるみたいですね。聞いた事があります」
「こちらからも質問をいいか?」
「もちろん」
運転手のホエールが積極的に声をかけて、打ち解けやすいように配慮している。大人だ。
「ウチは君以外、全員が前衛なんだ」
「へぇ……」
「珍しいだろう。前は違ったが、私達にはこれが合っているみたいなんだ。ソール君は武器は何か使えるのか?」
ああ……息が合わなかった時に、前衛として合わせろって事ね。もしくは決まりきった定番の話題なのか……どちらにしても返答に困るものではない。
「魔法の方が得意ですが、刀も使えます」
「お、おっと……」
「……?」
すかさず答えたのだが、ホエールは気まずそうに言葉を濁した。
対して心なしか、ブラッドと桃色髪の女は得意げな雰囲気を醸す。
この答えは、目的地の山で明らかとなる。
今回の任務は『嵐竜の山』に異常発生した鎌鼬という風精霊の討伐。山で作物を育てている農家や近隣を通る者等が切り付けられる事件が多発している為、国から依頼が発注された。
スズメバチが巣を作ったようなものだ。場合によれば、スズメバチの方が恐ろしいくらい。
現地に付けば、至る所に同様の魔物がいた。長細く白い体に鎌の前脚をもたげ、薄い緑色のオーラを発するそのモンスター……鎌鼬だ。
こいつが、『風玉』というレアアイテムを落とす。それが目的でやって来た。
「シッ――!」
「ハァ!!」
山の麓の森で刀と太刀を振り回し、鎌鼬と切り結ぶブラッドとアシュリー。ご自慢の刀術を存分に披露してくれている。
「どうだ、中々だろう」
「凄いですね」
本音を言えば、穴だらけだ。フォームも揃ってないし、刀の扱いが雑過ぎる。剣の使い方に近い。
それでもブラッドは口だけではないと分かる。服装を変えればより良くなるのは明らかだが、それでもスーツでよく動けている。薄暗いからサングラスを外せば、もっと視界は良好になるだろうが、それでも見事だ。
あのアシュリーとかいうのも、腕力がレベル帯以上のものだ。道理で強者編成と伝えて紹介されるわけだ。
「では私達もやろうか」
「いける? ソール君」
仲間の活躍を見て血が激ったのか、ホエールも虚空から槍を生み出し、サラもまた大鎌を“内”から取り出して構えた。
「じゃあ僕も行きます――【陽火砲】」
手の平に小さな火の玉を浮かべ、更に熟練度の高さから周囲に小さな太陽を思わせる炎級が生み出される。それは轟々と疾風を捉えて猛り、渦巻きながらその熱量を上げていく。
鎌鼬の発生原因は、淀んだ気流にある。滞留した悪しき気の流れを焼き尽くす。
「焼き払え」
火魔法では最高級の技で、ブラッド達の前方を炎で埋め尽くした。撃ち込まれる小さな太陽が、喘ぎ声すら呑み込んで風精霊の猛威を消滅させる。
「ば、馬鹿な……魔法ひとつで……」
「……すごい」
吹き付ける熱風に肌を焼きながらに、呆然自失となっている。離れた場所の二人も唖然としたように、初めて目の当たりにしたであろう上位魔法に目を釘付けにされている。
……やり過ぎたか?
え……でもレベル40だと、このくらいは出来ると思う。
もしくは魔城通いが過ぎて、一般常識が頭から飛んだかだな。
「……そろそろ火も消えるので、素材を回収してもらえます?」
「あ、ああ、承知した……!」
風玉は無事にドロップしていた。鎌鼬の霊魂が消える間際に、例外的に零れ落ちる残滓の結晶体だ。これらモンスターから残された物体は、全て一度は協会に提出しなければならず、今すぐに貰えるわけではない。
本当は民間人も協会へ持っていかなければならないのだが、その辺りは曖昧に済まされている。
一番やってはいけないのが、窃盗だ。
“内”という持ち物空間を個人で持っているだけに、この世界は容易に窃盗ができる。当然、罰則はかなり重い。疑惑を持たれる事すら、重犯罪者を見る目で見られる。
この場合も勝手に持って帰ると、窃盗に近い犯罪になってしまう。それでも取り上げられる可能性のあるアイテムを、持ち帰って高値で売る魔戦士は後を絶たないが……。
「ソール、お前を認める時が来たぜ」
「あ、ありがとうございます……」
「って事はだろ? 俺の仲間になれよ」
「遠慮します。当たり前に仕事とかあるんで……」
「いいや! なるんだ! なるんだよ、仲間に!」
スーツ刀小僧のブラッドが、まるで大海賊くらいのカリスマ性があるかのように振る舞っている。
鎌鼬討伐後、嵐竜に目を付けられると厄介なので、早急に撤収した。落ちた『風玉』は二つ。俺の取り分は文句なく一つ。残りの一つは換金して五等分らしい。
つまり、もうコイツらに用は無い。
「知ってるか? お前の目はもう俺のところに来たがってるんだぜ?」
「よく思い付きますね、次から次へとそんな言葉……」
車へ乗り込んでからも勧誘は続いた。
アシュリーやサラも熱心に誘い、ホエールは場を察して苦笑いするばかりだった。このチームの雰囲気はかなりいい。
それだけに、唯一の疑問は深まるばかりだ。
「ようニューフェイス、また明後日な」
「分かりましたよ……」
「暁の頃にな」
「はい、また朝の同じ時間に」
五人編成で乗り込まなければならない仕事は自分達と、という流れに落ち着く。ブラッド隊のお任せと妥協案を提示され、誰でもいいのなら特に問題のなかったコイツらでいいかと俺も快諾した。
泊まっている(事にしている)安宿の前で別れ、夕陽に向かう車を見送った。
「……不思議だな」
あの悪魔、何を考えているのだろう。
悪魔も乗車するブラッド隊の車を見送り、はてと首を傾げる。
「面白そ。民間人との交流も悪かないな」




