65話、アジフライとカニクリームコロッケ
死に物狂いの逃走劇であった。
片方の車両は乗り捨て、全員が搭乗したベディビエールの走らせる車は、魔城『レオナル・ランド』からアクセル全開で遠ざかる。
先程から地鳴りや火柱がレオナル・ランドから生まれ、追い風を受けるように加速して走る。小さな段差で跳び上がり、車内は激しく揺さぶられるも、文句の一つも上がらない。
早くあのクカイ和尚から逃げなければ、その一心だった。
途中、密かに控えていた救援部隊とも合流するも、コールへの加勢ではなく、退避が決断される。
速度をほとんど緩めず、帝都近辺まで帰還。会話もなく、施設へ到着するなり軍本部へ直接の報告が行われた。軍の主要な面子とアーサーが見聞きした事を擦り合わせていく予定だ。
緊急事態への対応が急がれた。
「よう、大変だったんだってな」
「父上」
その場に、一足遅れてペンドラゴン代表も現れる。
葉巻に火を付け、携えた驚くべき情報を煙と共に吐き出した。
「今、連絡があった。コールもそのクカイって奴から逃げ切ったらしい」
「っ、本当ですかっ?」
「ああ。とは言え、生まれて初めてと言っていいくらいには本気で戦って、かなり疲労が溜まったみたいだ。暫くは休むそうだ」
「アレが相手では無理もない……地震や爆発までも連発していましたから。クカイ和尚から逃げながら時間を稼いでいたのでしょう」
「お前達も作戦自体は完遂している。よくやった。ここのところの汚名は返上だな」
それだけ言うと伴う秘書に扉を開けさせ、ペンドラゴンは立ち去ろうと歩み出す。
心配して欲しいわけではないが、ローズマリー以外にはやはり無関心だなと、アーサーでさえも嘆息する始末だった。
一方でペンドラゴンは、コールの仕事の早さにこれまでの不満を発散させていた。ルーラーが明確に駒として機能し始めたのだ。
報告でも個々人の向上心も増していると聞く。
「残る問題は……」
♤
クカイ和尚は期待通りに強かった。もっと色んな悪魔を見せて欲しいところではあったが、やはり悪魔はいい……。
ロロの研究所で、泡泡のバスタブに浸かって戦闘後の余韻を楽しむ。ロロは今日も機械をイジって遊んでいるので、暇つぶしでもある。
「ふぅ〜……ぷふふっ」
久しぶりにレベルが上がって気分は最高だ。悪魔もたくさん殺せたし、今日の成果は最高と言える。
はい。主人公達の初めての負けイベントは、クカイ和尚でした。
『……また一人で笑っているのか?』
「楽しかったぁ……やっぱりアレくらい強くないと、殺し甲斐がないんだよな。また遊んでくれないかな、クカイ和尚」
地獄耳のロロに笑い声を聞かれてしまう。
だがはっきり言って、俺も和尚も同格なので遊び気分だった。置き土産はくれたものの、もう少しくらいは戯れてくれても良かったのだ。意地悪め。
やっぱり俺は人と過ごすより、悪魔と踊ってる時の方が性に合っているな。ローズと手に入れた【鋼拳】も早速活躍していたし、また新しい戦い方を身に付けられた。
次の目新しいイベントは何だっけ。ああアグラヴェインか、待ち遠しいな。
『……あんな化け物と遊ぶだなどと』
「あん?」
『相変わらず心身共に壊れた怪物だな、君は』
風呂を覗き見するエッチなロロが、ガスマスク越しにジトっとした目を向けてくる。
『爵位持ち、それも高位悪魔を何体も沸き出せるのだろう? しかも魔力まで君に負けない。おまけには、クカイ自身も強いと来ている』
……あれ? 魔力量やクカイ本体が戦える事まで報告したっけ。
はて……ま、いいや。
「別にいいだろ? ロロが戦うわけでもないんだし。あの経験値は俺の物。これから和尚より強いのもガンガン出て来るし、楽しみ楽しみ」
『あの化け物を経験値と呼べる神経が、我が輩には到底理解不能である……』
「何がぁ?」
些細な水音に混じったせいで、ロロの小声が聞き取れなかった。『我が輩は理系である』みたいなのは聴こえた。
『忘れてくれたまえ。そして早く上がるといい。注文した品が届いているよ』
「お、来たか」
さっさと風呂から上がろう。
日本企業が作ったゲームだからなのか、日本食も存在している有り難さ。ロロの研究室ならば、希望すれば秘書がロロ専用の厨房へ注文してくれる。今度の秘書はまともで助かる。
「……お前は食わないの?」
『修理が一段落したら食べるとも。カニクリームコロッケは悪くない晩餐だ』
テーブルでサクサク衣のアジフライとホカホカなカニクリームコロッケを食べる俺とは別に、熱心に破損した機械を修理している。人工精霊とも違うロボットみたいな巨大な何かだ。
「派手にぶっ壊れてんな」
『これは想定内だよ。二日で作ったにしては、上出来。役割は果たせたと言える』
なんだよ、役割って……。しかもこんな時代を間違えているロボットを二日で作るな。お前の方が化け物だ。
しかし【赤雷】が強過ぎて、アレ一本で戦えちゃうな。限定解除後の本来のレベルだとステータス的に俺自身の体に躊躇なく付与できる為、【赤雷】に頼り切りになってしまう。普通に殴るだけで悪魔をぶっ飛ばせるようになっていた。
流石に和尚相手には、一撃とはいかなかったが。
しかし龍火魔法の方は火力が高過ぎて、場所を選び始めている。これまで有耶無耶にして来たが、平時の戦闘を見直そう。刀や【鋼拳】、龍火魔法で打開できない場面での、突破口を作っておかなければ。
そうだ……趣味で魔法を増やしていこうかな。魔法系のコールというのもまた一興なのではないだろうか。そう考えたら、すぐにでも見てみたくなって来た。
『聞いているのかね?』
「ん? あ、ごめん。なんか言ってた?」
いつの間にか目の前で食事を始めようとしていたロロに呆れられる。
『まったく……醤油とソースを二つ持って来させるのは手間だろうから、今度からソースだけにしても構わないかと聞いたのだ』
「いいわけないじゃん……。アジフライには醤油で、カニクリームコロッケにはソースだろ? バカちんがぁ……二度とその提案をしてくれるな。ソースでアジフライなんて、練乳で焼肉を食うようなもんだよ」
『……我が輩はどちらもソースで食べているのだが?』
知ってる。そしてアジフライにソースでも美味しいのも知ってる。
でもごめんなさい。俺は醤油派で、これで米をかき込むのがベストだと思っているの。その後を味噌汁で追いかける愉悦を取り上げないで。




