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63話、不浄の和尚

 アーサー等とは対極に位置するバフォメットの背後から、途轍もない熱量が溢れる。熱だけではない。魔力も威圧感も、何もかもが跳ね上がった人型が現れる。


「【燦々たる太陽の化(ガラティーン)身】」


 炎の英雄ガウェインに宿された人工精霊、【燦々たる太陽の化(ガラティーン)身】。

 機械的な太陽を模した精霊が頭上で灯っている僅かな間、炎の魔人と化したガウェインは全てのステータスが三倍に跳ね上がる。 つまり彼は人工精霊発動中の間、段違いに格上な相手とさえ、単独で打ち倒す程の力を得る。


「【黒炎】」


 陽の如く火化粧を纏うガウェインが、悪魔の炎を焦がしながら歩み、右手に黒い炎を燃え上がらせる。その熱はこれまでと比較すら馬鹿らしい。

 ガウェインは挨拶代わりに、自身の持つ最高火力の魔法を見舞う。悪魔の魔法すら呑み込む黒炎を、勢いよく投げつけた。


『ッ――!?』


 悲痛な悪魔の絶叫すら、漆黒の爆炎は燃やし尽くす。バフォメットを丸々と呑み込んだ黒炎は巨大な火柱を立て、そこへガウェインが突っ込んだ。


「――!」


 急上昇したフィジカルで殴り付け、悪魔の巨体をいとも簡単に転がす。

 巨岩へぶつかって停止した悪魔(バフォメット)だが、更に追撃の嵐がやって来る。道となった黒炎の残り火を身に纏いながらガウェインが疾走した。


『おごぇ!?』

「――!」


 殴られた感覚から危機感を覚え、堪らず逃走を測るその眼前に、ガウェインが回り込む。

 そして岩壁に叩き込み、残る数秒の期限まで滾る炎拳を打ち込み続けた。


「――!!」


 殴る、殴る、殴る、殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る……。


『っ……』


 詰め込まれた炎拳の爆撃は、バフォメットの命をいとも簡単に刈り取る。

 背後の岩壁を溶かしながら舞い上がる爆炎。辛うじて残った焦げの中からは魔晶が覗いており、ガウェインは躊躇いもなく手を突っ込んで引き抜いた。


「ふう……やっぱ思っているよりも使える時間は短いな」

「それだけの無敵感はある……皆よくやった、任務完了だ」


 日輪が陰り、安堵の溜め息を吐く背に、アーサーが声をかけた。

 遅れて駆けつけたパーシバルとガラハッドも含め、全員がほぼ同じタイミングで一息を吐く。

 緊迫した子爵級悪魔との一戦。死に繋がる任務だったが、作戦通りに任務を達成する。今度こそ真の意味で、ルーラー達は子爵級魔城を攻略したのだった。


 あとは魔物を倒しながら車両へ戻り、帝都キャメロットへ帰還するのみ。


「最初のを、【主砲タスラム】に変えたのが良かったな」

「どちらでも良い方へ繋がっていたのかもしれないが、私の判断は正しかった。結果を出せたなら、それでいい」

「帰ろうぜ。久しぶりに代表へ良い報告ができるだろ?」

「ああ。あまり余韻に浸っていては、また遅いと言われかねないからな」


 愚痴も混じえて言うアーサーは、それほど鬱憤を抱えていたのだろう。今回の勝利は胸を撫で下ろす結果となったに違いない。

 誰もが心を晴れやかに帰路へ就いた。


「――人工精霊、想像よりも遥かに強力ですね」


 呑気にも聞こえる声音に、ルーラーが硬直する。

 集団の中央で突然に上がった不審な男の声に、誰一人動けなくなってしまう。


「これは確かにあなた方にとっては素晴らしい発明でしょう。ですが、どうですかねぇ……こちらとしては死ぬ悪魔も増えてしまいます」


 見慣れない衣装に、坊主頭の人間。糸目を含めた表情は優しげで温和な印象だ。

 だが分かってしまう。本能で悟ってしまう。

 この悪魔(・・)には絶対に勝てない。それどころか、ルーラーの生死を握っているのは、この男だと直感が囁いている。生きるか死ぬかを選ぶ……いや、今現在に選んでいるのは、この男なのだと。


「あ、そうでした。まずは何よりも自己紹介をしましょうか」


 男は各人にお辞儀をしながら、名を名乗った。


「拙僧はクカイ。周りからはクカイ和尚と呼ばれております」


 クカイと名乗る男は、明らかに普通ではない。バフォメットと違い、別次元にいる存在だ。

 だがそれほどの人物だとして、名前を聞いても心当たりがない。多くの人脈を持つアーサーも、知識が豊富なガラハッドも、裏社会に通じるパーシバルもだ。


 ならば、クカイとは何者なのだろうか。


「さてさて、話を戻しましょう。人工精霊とは、本当に関心を誘う発明であられる。しかし、見ているだけでは真のところは掴めませぬ。なので、今度は拙僧にぶつけてみてはもらえませんか?」


 耳を疑う発言からも、人ではなく悪魔の可能性が濃厚となる。

 しかも【主砲・タスラム】と【燦々たる太陽の化(ガラティーン)身】を見ていたような物言いをしていて、自身へぶつけろと言っている。

 つまりはルーラーの奥の手を使っても、死ぬ事などないだろうという最悪の現実を示唆されたのだ。


「……叶いませんか? 確かに拙僧とではレベル差があり、のちの展開を危惧されておられるのやも。では、彼等(・・)へ使いますか?」


 クカイ和尚は初めて名前以外の情報を開示した。

 身を包む着物の隙間から黒い霧のような物質を放出。霧はすぐに固形物へと姿を変え、すぐに見覚えのあるものが完成した。


「っ……」


 ルーラー達を取り囲む無数の……バフォメット。どこもかしこもから黒山羊の頭をもたげ、先程の個体とは異なり、不気味なほど静かに横長の瞳でルーラーを見下ろしている。

 クカイ和尚は体内から、子爵級悪魔を何十体も呼び出したのだ。


(体に爵位持ちの悪魔を飼っているのかっ!?)


 規格外の生命体を前に脱出プランを練っていたアーサーの、小賢しい試みは砕かれた。

 最早、万に一つも生き残る望みはなくなる。複数のバフォメット達ですら切り抜ける手立てはない。その先に、より格上と分かるクカイ和尚までいては……どうする事もできなかった。


「――あまり、僕の友人達を困らせないでください」


 嘲笑う悪魔達の前に、刀を持つ天使が舞い降りる。


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