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62話、誰でも簡単、ルーラー的魔城攻略

 コールの面談から五日が経過した。ルーラー達へ結果を求めるペンドラゴン代表は、彼等にある魔城の攻略を命じる判断を下す。

 アーサー等はすぐに魔城の情報を確認。コール同席の元でブリーフィングが行われた。


「……子爵級悪魔か……」


 子爵級悪魔、個体名『バフォメット』。黒い山羊の頭に、毛で覆われた分厚い上半身。細い獣の下半身で立つ人型の悪魔だ。

 子爵級によく見られる悪魔で、被害例も最も多い典型的な種類でもある。


「西と北から、二方向で攻めると決めた。一つは、私、ベディビエール、トリスタン、ヴィヴィアンで構成する」

「すると俺とガラハッド、パーシバルが組むのか」

「そうだ、そちらはガウェイン(お前)の指揮で動いてもらう。隊を分けたのは、地形から考えて混戦になる可能性が高いと考えたからだ」


 悪くない。アーサーやガウェインを主にした会議を見守り、コールは口を挟む必要がなさそうで、むしろ密かに感心していた。


 近接戦闘を得意とする隊に、回復役のヴィヴィアンを付け、銃や魔法で比較的安全に戦えるパーシバルなどをガウェインに任せている。

 魔城の形態にも考慮されており、もう少し詰めていけばブリーフィングとして形になるだろう。


「……コール、バフォメットはどのくらいのダメージで倒せると考える」

「そうですね……父から聞いた話では、人工精霊の攻撃を、最低でも二回は直撃させなければなりませんね」

「二回……」


 二度の人工精霊召喚。それは二度の致命的な隙を埋めなければならない事を意味する。

 だが、従来の悪魔駆除に比べれば格段の手軽さだ。


 現在のルーラーが引き出せる人工精霊の出力は高くない。いくらレオナルド博士の発明とは言え、まだまだ彼等は性能を引き出せないでいる。

 それでも、以前は大部隊が何時間もかけて倒していた子爵級悪魔を、二発で倒すという理解不能な発明なのだ。


「難しい話ではないでしょう。一度目は奇襲でもかければいい。二度目は、パーシバル君の人工精霊で解決です」

「……コールの提案通りにやるならば、バフォメットの位置や動きも注意深く警戒すべきだな。パーシバルに狙撃させ易いよう誘導しなければ」

「実際の魔城での任務は、戦闘というよりも作戦です。どれだけ相手に何もさせずに制圧するか。戦おうと思わず、制圧すると考えると良いでしょう」


 本来の魔城攻略はこうあるべきだろう。

 入念な情報収集と調査。正しい知識を身につけ、当日の行動や作戦の細部までを議論をする。撤退経路や緊急時の対処なども事細かに定めておく。


 部隊らしい事前準備を終え、翌日の早朝から作戦は開始された。


「……」

「……」


 あいにくの曇天模様だが、二台の車両で荒野を並走し、やがて分岐路に差し掛かると、運転するベディビエールとガウェインが合図を交わしてそれぞれの道へ別れていく。

 アーサーが率いるアルファ部隊は魔城の北へ向かうルートに入り、ガウェインが部隊長を務めるベータ部隊が西への道を行く。


 魔城『レオナル・ランド』はすぐに目視できた。広がり続ける悪魔の魔力は荒野を侵し、紫色と黒色の混じった唯ならぬ大地へ変貌させている。


「多数の魔物を量産する魔城か……」


 黒々としたモヤを纏う犬の魔物が、遠目からにも何体も確認できる。

 しかし罠や建造物、ギミックに力を入れられた魔城よりは遥かに難易度は下がる。恐るべき個体も見当たらず、アーサーも一先ずは安堵の溜め息を吐いた。


 目的ポイントまで到達後、ガウェイン側からの無線通信が入り次第、作戦は開始される。


「ふんっ!!」


 魔城外にまで溢れた魔物は、生態系を脅かし、悪魔の手先となって人類を害す。

 腕力自慢のアーサーが大剣を振り切り、早々に襲い掛かったヘルドッグを斬り飛ばす。甲高い断末魔を余韻に残し、二つに別れた肉が背後へ飛ぶ。


「行くぞ、派手に暴れよう」

「前へ出る」


 アーサーの指示を受け、食い気味に歩を進めたのはトリスタンだ。腰元に構える刀の鯉口からは既に小さな青雷がちぢれ、彼の姿は音もなく搔き消える。

 視線は遅れて閃光に追い付く。視認した時には既に前方で、ヘルドッグが二体ともに青い稲妻の居合い切りで首を切断されていた。

 静かに落ちる獣の首。滴る血の音まで聴こえそうな静寂は、収まる刀が鞘を打つ音色をより際立たせる。


「やる気だな。結構な事だ」

「触発されたのでしょう。コール殿の刀を見て感じるものがあったとて、何ら不思議ではない」

「ベディはヴィヴィアンに付いてやるんだ。私も前へ出る」

「承知しました」


 大剣を肩に担ぎ、気も楽に歩み出したアーサー。ゴロゴロと巨岩が転がる視界悪い地形で、四方から飛び掛かるヘルドッグを、片手で操る大剣で斬り、斬り、斬る。

 酷く簡単そうに、軽々と、アーサーという人体の凄まじい潜在能力を遺憾無く見せつける。

 全員が同レベル帯であれば、最も強いのは誰か。全員が『アーサー』と答えるだろう。コールなどの例外を除けば、間違いなく彼だ。


 その後も青い【雷切】が閃けば、風が渦巻くほどの斬撃を振り撒き、魔物達を一切寄せ付けずに前進。


「【治癒(ヒール)】!!」


 多少の傷など、控える治癒魔法師任せで突貫していく。癒しのオーラに包まれながら、迫る災厄を刃により斬り伏せる。

 雷の如く鋭い刀は技巧により、疾く巧く。

 轟々と力を宿す大剣は才により、重く強く。


 方針ややるべき役割を明確化した事により、ルーラーら本来の実力が明瞭化していた。目に見えて動きが良い。子爵級とはいえ、この魔城から生まれる魔物では歯が立たないと、はっきりと分かる。


「……止まれ」


 だからこそだった。

 声色を低くして発せられたアーサーの命令が、如実に警戒心の深さを物語っている。


 子爵級にしては魔物が弱い。これは最も憂慮すべき事態だろう。

 何故なら、その分だけの魔力が悪魔に残されている事に他ならないのだから。


『噂の精霊使いか……』


 溢れ出る瘴気の如き悍ましい魔力。感じ取れる量たるや、ルーラー全員の何倍だろうか。

 間違いなく、これまでで最も強大な敵であった。


「……ガウェイン、初撃をパーシバルに変更だ」


 肌で危機を感じたアーサーはすぐに作戦を変える決断を下す。即座に無線機で西のガウェインへ連絡し、三メートルはあろう巨体で歩む不気味な化け物と相対す。


『その程度でよく儂の城に踏み入ったな。貴様等のいう軒先を見ただけでは、格の違いが分からなかったか?』

「今の私達にとって、いい訓練になりそうな程良い勝手口があったのでな。無許可になるが、邪魔するぞ」

『ギハハハハハッ!』


 全力で警戒する人間達を見下ろし、態度とは真逆の口振りが琴線に触れたようだ。黒山羊の顔で哄笑を上げ、何ら脅威にはならない若い人間を愉快げに笑う。


「そんなにおかしいか?」

『そりゃそうだろう! 精霊が力を貸していたって、これだけ弱々しい奴等がデカい口を叩くんだからな!』

「そうか」

『考えてもみろ。貴様等は毒すら持たない虫に威嚇されて何を思う。答えは……何も? だろ?』

「そうだな。しかし私達は虫でも悪魔でもなく、人間だ」


 囀る人間をさも楽しそうに見下ろすバフォメット。

 警戒体勢を解いたアーサーは、まるで王が敵対勢力へ毅然と宣誓するように説く。


「何千年なのか何万年なのか知らないが、一向に進化しないお前達とは違う。私達人間は日々前に進んでいる。進歩し、成長している」

『ほほう?』

「更に私達には、お前達など比較にもならない化け物が付いている」


 勇ましく微笑むアーサーは伸ばした人差し指をこめかみへ。まるで銃で自らの頭を打つような仕草で、対話を締め括った。


「――レオナルド博士という、史上最高の人類がな」


 耳をつん裂く激音が発生。同時にバフォメットの角を破裂させ、顔面の半分も抉ってしまう。


『ギュアアアアッ――!?』


 鈍重な炸裂音から一拍後、空気を割った衝撃波が届く。アーサー達の体を吹き飛ばしそうな風圧の中で、撃ち抜かれた悪魔の悲鳴が混ざり合う。


「っ……着弾確認っ。すぐに合流しろ……!」

『了解』


 揺動をかけ、囮をしていたアルファ部隊。バフォメットの注意を引き、予定通りならばガウェインの人工精霊を使い、奇襲する計画だった。

 だが作戦変更により、パーシバルの人工精霊【主砲・タスラム】を撃ち込む事に。不可視に加え、必ず命中する必中の性質と強い貫通力を持つ精霊の弾丸が、万全のバフォメットを混乱へ陥らせた。


「トリスタン! ベディ!」

「――!」


 ここからの作戦行動は決められていた通りに進行する。

 初撃の人工精霊が命中した直後、当然ながら怯むバフォメットへ、近接戦闘を得意とする三名が集中攻撃。


「【正拳】ッ――!!」

「【雷切】……!」


 巨大な右腕の籠手(ガントレット)を突き出し、渾身の正拳を悪魔の腹に叩き込む。

 青い稲妻により加速した刃が狙うは、悪魔の脚。裏側の腱を立ち、機動力を奪う。


『グッ――!? グゥゥ儂に触るなァァーッ!!』


 右手には紫の炎、左手には白い冷気。バフォメットの溶解と凝固の能力だ。その威力は、まさしく悪魔的なものだった。

 悪魔が人類の天敵という意味を、真の意味するところを知る。


『――ッ!!』


 苦し紛れにも見えるバフォメットが右手を打ち下ろせば、溶解の炎は地面へ広がり、地は容易く溶けて海の如く波打つ。


「ぬぁぁ……!?」

「クッ……!」


 熱波のみ。それだけでベディビエールとトリスタンが瀕死となって飛ばされる。ほぼ戦闘不能の火傷を負わされ、二人の体が軽々と押し戻された。

 レベルの差は……二十。本来なら微かな可能性すらなかったのだと、再認識しながら死の危機を悟った。


「ヴィヴィアン!!」

「はいっ!」


 けれど、それすらも想定内だった。

 二人と入れ替わり、アーサーが溶ける大地を疾駆する。異常な怪力による脚力で地を爆ぜさせ、バフォメットへ進撃した。

 と共にヴィヴィアンが魔力を惜しまず二人を回復。


「オオオッ!」


 大剣を煌々と輝かせ、【勝利の王剣(エクスカリバー)】でバフォメットと殴り合うように斬り結ぶ。作戦通りに初めから全力全開で、バフォメットへダメージを蓄積させていく。


『よくもやりおったなッ! 全員まともに死ねると思うなよッ!』

「悪いがっ……! これは戦闘ではなくっ、駆除だ!」


 溶解の炎を宿す極太の腕を飛び退いて避け、また斬りつけながら叫ぶ。心臓が縮む思いを連らせ、短くも長く感じる数分間にかける。


 そして、


「――待たせたな、アーサー」


 その時が来る。


「【燦々たる太陽の化(ガラティーン)身】」


 単独戦闘に特化した人工精霊が、ガウェインを日輪の権化へと変貌させる。太陽と紅炎の覇者となって、バフォメットの前に顕現した。

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