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60話、新たな戦技の予感

 魔の英雄、ガラハッド。一纏めの三つ編みにした緑髪の長い、真面目な女の子。

 賢者マーリンの弟子の一人であり、多くの魔法を習得可能な事から神童とされていた才媛だ。


「……あの」

「分かっていますっ!!」


 大きな声を出さないで……? 目の前に座っているんだよ?


「何が……分かっているのですか?」

「私は何をやってもダメなんです……」


 皆の前で見せる知的で気丈な彼女はいない。

 ネガティブ大盛り。そう、これが彼女が失速する原因だ。彼女は精神的に弱い。

 ゆくゆくはガラハッドのこのような脆い精神力にガウェインが気付き、ルートによっては男性陣と恋仲になったりする。仲間達のサポートで自信を取り戻していくわけだ。


 どうやらコールにはこの頃から本性を見せていたみたい。


「そんな事はありません」

「そうなんです! 分かっている癖にっ! 無責任なことを言わないでくださいっ!」

「実はレオナルド博士があなたを視察していました」

「……!?」


 超偉人の名前を挙げれば、神に出会ったかのような反応を示した。目には明らかな期待と、それ以上の不安が見える。


「博士は――」

「ルーラーから外されたぁーっ! 外されるんだぁー!」

「はや〜い」


 訳も分からず泣き出し始めるガラハッドに、思わず素が出てしまう。

 悲観的な妄想は止まらず、早くもロロがルーラーから自分を外したのだと誤解してしまった。


「……博士は上出来だと褒めていました。現時点での評価として、十分だと」


 パンツ丸出しでな。


「ほ、本当ですか……?」

「本当です。ガラハッドさんは周りを気にし過ぎです。他のルーラーとの対人戦や現在での火力で思うところがあるようですが、そんな目先のものよりも今は経験を積む事こそが重要です」

「……」


 攻撃魔法の良いところは火力。瞬間的なダメージ量だ。

 だが現在、アーサーと……何よりガウェインが最高火力を誇っているので、自信の喪失に繋がっている。


「気になるのなら、サポート系の魔法を練習しては如何ですか?」


 一足早く、この助言をしてみる。

 ガラハッドが覚醒するのは、魔法の内容を一新してから。仲間へのサポートや敵への悪影響系魔法を多く習得し、最終局面まで必須のキャラクターとなる。

 だからガラハッドを微妙だと序盤で見捨てたプレイヤーは、後から盛大に泣きを見る羽目になった。


 こんなにも居なくていい性能なら、後から当たり前に覚醒イベントがあるだろ馬鹿共がと、嘆きのコメントを見て嘲笑ったものだ。


「レベル上げにも熱心ですし、僕から言えるのはそれくらいです。結果は後から追い付きます。勉学の成績も非常に優秀で、他の方にも見習ってもらいたい。あなたは素晴らしい努力家で、疑う余地なく優秀ですよ……と、僕からは以上です」

「……」

「ガラハッドさん? 終わりましたよ」

「え、あ、ああ、分かりました……ありがとうございました。ご助言を参考に励みます」

「はい」


 コールの顔面がそうさせたのだろう。赤い顔でぼうっとしていたガラハッドを帰し、遂に最後の人物を迎え入れる。

 もしかしたら、最大の問題児かもしれないアイツだ。


「お待たせしました。さっ、座ってください」

「はい、コール様」


 ヴィヴィアンを座らせて、面談を行う。こいつは英雄には数えられていないが、貴重な回復役なのは確かだ。代表家のカリナが現場へ出られるようになるまで、こいつは必要だ。

 俺はこれまでと同様に、資料へ目を通しながら言う。


「……ヴィヴィアンさんに関して言うなら、これまで通りで構わないかと。アーサー様の指示に従って魔法を使い、これまで通りにレベルを上げれば問題ありません」

「はい」


 回復役として申し分ないと、アーサー等が言っているのであれば、俺が口を挟むべきではない。変に意識して連携が乱れても困る。

 しかも、こいつおそらく、打撃系の戦技を持っている。特性スキルも。それらを見せれば学校の成績だって良くなる筈だが、何故か隠している。


「あなたから何か質問は?」


 ヴィヴィアンはカリナ・エンタックがパーティーに編成されるまでの繋ぎだし、以降も活躍の場はあるだろうから焦る必要はない。俺の【光】もといローズマリーに関わらないのであれば、好きに過ごしてもらっていい。


「ご助言を頂きたい場合にすぐ連絡できるように、コール様の連絡先を教えてもらいたいのですが……」


 狙われてる。明らかにローズマリーの男を奪いに来ている。どれだけ肉食女子なのだろう。リスの皮を被ったジャガーだ。とてもとても性欲と嫉妬心が隠し切れていない。


「教えて差し上げたいところですが、僕は大抵の場合、寮にいない時は実家で寝込んでいるか病院にいますので……」

「そうでした……」


 思惑が外れて項垂れるヴィヴィアンは、肩を落として去っていった。

 さて、全員分の面談が終わった。これで事態が解決すれば言うことはない。


 もうすぐ、あと数日後に《夜の王》の側近が動く。それまでにアーサーへ作戦を立てさせ、自主練習を課しておけば問題ないだろう。

 やっとか……今からヤツに会うのが楽しみで仕方ない。


「あの、コール殿……」

「……どうかされましたか?」


 少しばかり開けた扉から巨体を控えめに覗かせ、遠慮がちに話しかける者あり。

 英雄最強のベディビエールだ。こいつだけは最初から最後まで頼り甲斐のあるナイスガイ。皆が不安定な時でもガッツとタフネスで持ち堪えて来た真の英雄だ。


「私の面接はまだだろうか……」

「大佐に面接するわけがないでしょう……?」

「無いのですかなっ?」

「当然でしょう……アーサー様の保護者みたいな方へアドバイスなどありません。過保護が過ぎるというお小言くらいです」


 二十五歳にしてはダンディな男だが、年齢を考えても優秀。指摘する点など、アーサーに甘い事くらいだろう。

 面接の順番を忘れられているとでも考えたのか、呼んでもいないのに取り残されていたベディビエールの方からやって来たようだ。


「さて、僕はこの資料を片付けて帰ることにします」

「私がやっておきましょう。本日は体力を使われた事でしょうから、これ以上はお体に障る」

「有り難い申し出なのですが、これは秘匿されている情報なので、僕の手で戻さないといけないんです」


 面倒な規則だが、破るほどのものでもない。

 ベディビエールの善意を断り、きちんと自分で特別資料室へ運んだ。


 その日の夜、俺は初めて寮で寝泊まりする事にした。

 栗鼠(ラタトスク)寮はいつでもハロウィン。毎日がホラーナイト。不気味な幽霊らしきガス体も飛び回り、無害なカボチャの魔物もそこら中にいる。

 俺はワクワクを抑えながら、ローズマリーを連れて食堂へやって来た。


「……ここの寮生って何人なの?」

「私が来る前は四十七人ね。今は五十三人に増えたわ」

「どうせお前の護衛だろ? でも六人は多いな。代表の愛か?」


 本日の『ババアのオススメ』を食べながら、向かい合うローズマリーと談笑を楽しむ。

 今日はプレートに血のように赤いオムレツや毒々しい紫のリゾットに、焦げていそうなステーキが乗っている。これがまたバカ美味い。大盛りなのだが、おかわり出来そうなくらい。


「何人なのかは私にも知らされていないわ。護衛がいる事は通達があったけれどね」

「ふ〜ん、俺の邪魔したら殺すから、身内が誰なのかは把握しておいた方がいいと思うけどな」


 至って常識的な忠告をした俺に対し、平時の澄ましたローズマリーは目を細めて不快感を返した。


「……そうやって軽々しく殺すなどと口にしないでもらえる? まるで態度だけ大きな小物みたいよ?」

「はいはい」


 流石にマナーは教え込まれている。言っている内容は厳しいが、ナイフとフォークを扱う様が洗練されていて美しい。

 これがドレスなら、皆も食事どころではなかっただろう。音楽に聞き入るように、名画に夢中になるように、彼女へ見惚れていただろう。


「そんな事より、明日は少し遠くまで行くから準備しておけよ」

「……急に何を言い出すのよ」

「明日、朝早くから、お出掛けするから、準備しておきなさい……分かったか?」


 本当は足を引っ張らないレイチェルを連れて行きたいが、忙しいみたいなのでローズマリーを連れて行く。ついでに、ちょっとした強化タイムだ。

 ところが何が不満なのか、こいつは眉を顰めて嘆息混じりとなっていた。


「そんなに唐突に言われても、対応できるわけがないわ。明日も授業や訓練があるのだから――」


 食後、取り付く島もないローズマリーを部屋に連れ込む。


「いいだろ?」

「い、いいけれど……」


 部屋に帰ってすぐに、背後から抱き着いて囁くだけで返答が百八十度も変わる。ただ抱き着くだけでは暇なので、胸も揉みながら。何故なのか、こいつの機嫌も良くなるし。


「あんっ」

「お前を逃がそうとして、強敵と戦ってたろ? あの時に思ったんだよ」

「な、なにをかしら……」


 暗黒剣士との死闘を思い起こせば、俺に足りないものは明らかだった。


「ベディビエールが覚えるような、強力な格闘スキルが必要だ。防御力を剥がして攻撃を通せるようにな」

「はぁ……はぁ……」

「ついでだから、お前も覚えなさい」

「お前と言わないでッ!!」

「うわっ、怒った……!」


 ローズを“お前”と呼ぶと、何故か怒鳴られるので注意。

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