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59話、育成にあたり面談してみた

 酒豪ナヴィに潰され、二日酔いで始まった翌日。

 あまりにも連携が取れておらず、魔城攻略の基本すら勉強していないルーラー対策を始めた。

 彼らは思っていたよりも個々の活躍に貪欲で、己の成長しか見えていない。

 アーサーが性悪なヴィヴィアンを知っていて見て見ぬ振りをしているように、物語の裏側にはゲーム時には見えていなかった感情や思惑があったのだ。


 そこで、個別に面談を行ってみた。


「あとは……アーサー様、僕が見たところ貴方には悪魔や魔城への知識が足りていません」

「それは経験していく内に、自然と身につくものではないのか?」


 学校の一室を借りて、次々に改善点を指摘する。するといちいち代表の息子らしく自信満々に的外れな返答がされる。

 なかなかに力任せな思考をするものだなと、プレイ当初から台詞などで感じてはいたが、やはりそういう性質を持っているらしい。

 おそらくは、人工精霊がロロにより完璧な調整をされた事で、より強力となった事が拍車をかけている。やはり一撃必殺級の切り札を持っているという点が、アーサーの自信を確固たるものにしているのだろう。

 結局は人工精霊を使いこなせば、なんとかなると思っている。


 ま、もうその甘い考えは打ち砕かれ始めているだろうが。


「悪魔を馬鹿にし過ぎです。彼等には知能がある。その証拠に……報告にもありましたが、今月の任務でも死にかけたんですよね?」

「……分かった。勉強する」

「アーサー様に関して言えば、ご自身の事よりも全体への指揮能力を向上させる事にこそ、尽力なさってください」

「……」


 知らなかった。アーサーは勉強が嫌いなのか……。

 死ぬぞと脅しをかけると、かなりの渋顔で了承を返される。自分よりもチームをという指示にも、かなり不満げな顔を見せ、明らかに難色を示している。

 理由は、言うまでもなくローズの存在。自身の上位互換である彼女が現れ、レベルを上げようと焦っている。だから魔城攻略が上手くいかない。


 これは無自覚かもしれないので、今ここで指摘しておいた。


 次に呼び出したのは、ガウェイン。

 こいつに関しては心配していない。ベディビエールと同じく単独でも戦えているようだし、現時点で魔戦士として最も成長している。


「ガウェインさんは順調ですね。気になるのは、ご自身の成長しか見ていない点ですが、競争心は持っていて然るべきでしょう」

「コールは誰よりも知っている事だろ。個人で生き残る力を持っていなければ、悪魔なんて相手にできないさ」

「……通常はそうかもしれませんが、皆さんには人工精霊があります」

「レオナルド博士には悪いが、当てにはしていないな。最終手段として使わせてはもらうがな」


 肩を(すく)めて(おど)けてみせるガウェインは、仕草に反してかなりストイックだった。アクセサリーや着崩した様からは考えられない程、現実が見えている。


「もういいか?」

「はい。待機室でトリスタン君を呼んでください。終わったら自由にしてもらって構いません」


 やたらと俺を警戒しているガウェインに、トリスタンを呼ばせて少し考えを巡らせる。

 ここにいない唯一のルーラーについてだ。集合にも応えない。命令も無視して学校を抜け出し、また柄の悪い連中とつるんでいるらしい。


 そう言えばストーリーでも、序盤は気分で姿を消しているキャラクターだったなと。今となっては画面上の風景が懐かしい……。


「……どうぞ」

「……」


 刃のような色合いをする銀髪の少年。無言で入室してきたトリスタンへ着席を促す。

 物語屈指の胸糞展開に利用されるキャラクターだ。流石の俺も救ってやりたいが……おそらくは不可能。


「座っても?」

「はい、着席してください」


 トリスタンは実力がまだ伴わないものの、折角なので聞きたい事を聞いてみる事にした。


「僕の父から、我が家の【雷切】に似せた技を習ったのだとか」

「電撃の魔法と掛け合わせた模造品だ」

「それでも【雷切】は強力です。あなたの青い雷魔法も美しい」

「……」


 感情の荒立つ事はなく、無言で頷いて答えた。

 言葉を投げかけても返ってくるのは、心を持ち合わせていないかのような感情に起伏のないものばかり。何を求め、何が面白く、何の為に戦っているのか。


「習得には血を吐く努力が必要だった筈です」

「……」

「……あなたが命をかけて戦う理由はなんですか?」

「約束がある」


 持っているのは、大切な記憶を少しのみ。

 待っているのは、絶望的なまでに確定的な虚無のみ。


「今は眠っているイゾルデと交わした、約束がある」

「そうですか……」


 瞳に浮かんでいるのは、トリスタンが持つ強い意思。初めて目にする『彼』の色だ。

 会話すべきではなかった。ゲームへの思い入れがそうするのか、ローズマリーと同じく何か手を尽くしてやりたくなりかけている。方法がまるで思い付かないにも関わらず。


「今日はお時間を割いてくれてありがとうございました」

「……こちらこそ」


 拍子抜けしたのだろう。不機嫌になって戻ったアーサーを見ていただろうから、心構えをしていたようだ。

 しかし特に指摘する点はないので、少し不信感を露わにするトリスタンを帰らせた。

 さて、問題児達に移ろうか。紫髪をした小柄な天才だ。


「……し、失礼します」

「どうぞ、(おび)えずともいいので着席してください」


 今のところ、ペンドラゴン代表やアーサーの命令も(ろく)に聞かない。成長率も半端。才能任せに戦うという無茶を続ける厄介者。

 ゲームとの差異が生み出した異端児。プレイヤーによりレベルを上げられていたパーシバルではなく、設定通りの生きたパーシバルだ。


 銃の英雄、パーシバル……厄介だな。


「あなたはアーサー様と同量で治してもらうポイントがあります」

「……」

「まず、あなたが裏社会で殺し屋をしていた頃、あるがままで良かったのかもしれません。ですが、ここは表です」

「だ、代表は多少の問題は見逃すって!」

「表の世界では、代表の娘を殺しかける事を多少とは言いません」

「ほっぺを(かす)らせるつもりっした!」

「後からそう言っても、安全装置(セーフティー)を外した銃を撃った事実があれば、立派な『殺人未遂』ですよ」


 悪魔も人も殺しまくってる俺が言えた義理じゃないが、一応は前世で社会人だった手前、まともな教育を試みる。


「それと、レベルが低過ぎます。きちんと魔物を倒して成長してください」

「俺より弱い奴いるけど……」

「それは対人で、訓練として戦っているからです。レベルが低いという事は耐久性が低いという事で、より命の危険に晒される事に他なりません」

「当たらなきゃいいもんね」


 冷静に話している俺を見て、パーシバルが本来のお調子者の一面を覗かせ始める。幼い頃から銃を手に、暗黒街で危ない仕事をしていたが、未だに心は純真なままなのだ。


「魔城の中には、常に有毒な霧が立ち込めているというものもあります。他の方が平気でも、君だけが毒に侵される可能性が高くなるんですよ?」

「……」

「あとは学校の授業も受けてみては如何ですか?」

「大人から俺はルーラーだから受けなくていいって……!」

「せっかく舞い込んだ知らない知識を得る機会ですから、僕は授業を受ける事をお勧めします。将来の君を助けてくれる知識が豊富にあるでしょう。みんな、その為に勉強しているんです」


 一人で生きて来たからなのか、アーサー等以外と話しているところを知らない。それどころか、パーシバルを恐れる者が非常に多い。

 社会で最も大切なコミュニケーション能力を(つちか)ってもいいと思うのだが、強制するより前に自主的な取り組みを期待したい。


 なので今回は、とにかくレベルを上げる努力だけはしておきなさいと締めくくり、ガラハッドを呼び出す。


「……」

「……」


 既に涙目で眼球が右往左往している挙動不審な才女が、オロオロとしながら入室して来た。

 ……こいつもこいつで問題がある。


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