58話、右も左もわからないアルバイト初日みたいなもの
本日、ルーラー達を連れて魔城へやって来ました。いつも通りの魔城攻略を見せてくれとアーサーに告げて。
するとこの馬鹿はジープに乗り込み、ルーラーを引き連れて目当ての男爵級魔城へ。沸き立てホヤホヤというので情報はあまり無い魔城の前へと車を付けた。
「よし、到着だ」
アーサーやルーラー達が続々と降りる。回復役のヴィヴィアンはまだ車に残るようだ。
降り立ったのは廃墟となった森の中の一軒家。情報では家の中が魔城化しているとなっている。
だがこんな近くに停める馬鹿はいない。まさに馬鹿正直。
「コールが監督しているからと言って気を抜くな。むしろ私達は代表から不合格を叩きつけられている。強くなった私達なら助け合えば必ず勝てる。分かっている筈だ」
「……」
「では行くぞ! ベディビエールを先頭に突入する!」
この馬鹿、龍の火で焼き殺したくなる。
「お待ちください。行かせられません」
「……どうしてだ?」
アホ面のルーラー達が最後尾の俺を振り返る。最も絶望感があるのは、ベディビエール大佐までキョトンとしている点だ。お前は理解していないといけないだろう。
「まず一から説明します」
「あ、ああ……」
「この魔城は情報が少ない。急ぐ理由が無いのですから情報収集から入るべきです」
「だがどうやって……?」
「窓があれば中は見れます。それにジープを停めた場所も魔城から丸見えです。加えてその玄関先で“では行くぞ!”などと大声を出して拳を突き上げるなど愚の骨頂です。“行くぞ!”……行かないでください。“突入する!”……しないでください」
「……す、すまない」
言いたい事はまだまだある。俯きがちなルーラー達に声を荒らげずに叱る。何が悪かったのか、どうすべきかを言語化して通達するのだ。
俺に物語を見せろ。きちんとしたストーリーを直に見せろ。その為には死ぬな。
「本来なら事前に作戦も幾つかのパターンを用意しておくべきです……してないですよね。見ていましたけど、会議も勉強もしていないですよね。悪魔や魔物を侮り過ぎです。皆さんは失敗続きの駆け出しである現実を思い出してください」
「わ、わかった……」
「最低でも魔物の種類や悪魔の居所、魔城の入口出口とタイプは調べるように。それと真正面からは行かない。お宅を訪問して営業をかけるわけではないのだから」
「……すまん」
「他のルーラーの方々も、どうして意見しないのですか? 車の中でもクッチャクッチャとガムは噛んでも何も訊ねない。やれ道が荒いだの、やれお茶が溢れただの……死にますよ?」
ちなみに運転手を務めたベディビエールのドデカい鼻歌が一番イラついた。
「私の父から何を習ったのですか?」
「……近頃、デュエルの部隊は重要な任務や魔城攻略に回されて、私達は探り探りで攻略を進めているんだ」
「……理解しました」
俺の投獄が引き金となっているようだ。
元凶はアイツである。短慮なペンドラゴンが俺を牢屋に入れた事で軍が行うべき仕事のバランスが崩れ、ルーラーの指導に隊を回す余裕が無くなったようだ。
「……少し待っていてください」
「ど、どちらへ?」
「待ち構えられた状態では攻略難度が跳ね上がります。今の皆さんには任せられない。僕が倒して来ます」
騒めきが生まれてベディビエールが肩を掴む。
「ひ、一人は危険だ! せめて私かガウェインを同行させるべきだろう!」
「いくらあなたとは言え、死にますよ……?」
焦って止めるベディビエールに加えてガラハッドも考え直すように前へ回り込んだ。
けれど冷静な者が一人だけルーラー内にも存在する。
「止めても無駄だ。コールに指揮権があるんだ。退いてやれ」
「やはりあなたが一番まともですね……ガウェインさんの言う通りです。僕の指示に従い、下がっていてください」
早く帰りたいのでガウェインの言に乗っかって魔城へ。ノックをしてから玄関の扉を開け、お邪魔します。
『馬鹿め……あれだけ騒いで馬鹿めっ。魔物で取り囲ませたわ。嘗め過ぎた事を後悔し――』
「ごめんねぇ、あいつら馬鹿で。お詫びにこの俺が来てやったよ?」
【音無】で瞬間移動して吹き抜けの二階から見下ろす悪魔の首を刎ね、その頭を掴み上げて会話する。さっさと切先でグチュグチュと肉体をほじくり、魔晶を確保して適当に魔物を斬り飛ばしながら外へ出る。
『はぁ!?』
『ええっ!?』
大体この二パターン。バタン……バタンと扉の開け閉めをして戻ってきた俺を目が飛び出んばかりに見ている。この程度ならローズマリーでもできるっちゅうの。
「ここの魔晶です。そこまで強くない魔物を残してあるので、中で訓練したい方はどうぞ。どのような状況で待ち受けられていたのかが分かります」
「……」
四秒の攻略劇は、彼らに現実を疑わせるまでの効果を与えたようだ。
暫く固まっていたルーラー達を黙って見ていると、ガウェインから動き始めてやっと魔城へ。玄関という狭い場所に密集した蜘蛛の魔物に苦戦しながらも、どうにか生還してきた。
「つかれたぁ……」
「今のも正面玄関から突入する必要なんてありませんからね?」
注意したばかりなのに俺を真似して玄関から入ってしまう脳みそが筋肉で出来ているルーラー達。いち早く出てきて倒れ込むパーシバルを見て、この先が思いやられる。不参加のアグラヴェインが最も心配だ。
と、憂う俺だったが、案の定である、
夜には呼び出された料亭へ向かい、猿の親玉と面会する。
「……僕の報告を聞いていますか?」
「ああ……」
ペンドラゴンに報告に来たのはいいが、気もそぞろで何も耳に入っていない。
まさか、もうなのか……?
「……ルーラー達の魔城攻略が上手くいっていないのは、方法が分かっていないからです。何処かの部隊にアーサー様だけでも同行させれば改善されるでしょう。あとは数をとにかく消化させる事。僕からは以上です」
「ご苦労……ご苦労ついでに頼まれごとをしちゃくれねぇか」
「内容次第です。僕の体は一つなのですから」
高級料亭で酒を飲みながら交わされる面倒なやり取り。俺頼りで窮地に陥ったペンドラゴンに同情的になる事などない。
「アグラヴェインが不穏な動きを見せている」
来た来た。アグラヴェインの裏切りイベント。楽しみにしていたものの一つだ。何せストーリーの裏側なので俺も細部までは知らない。
しかしこの事件を境にアグラヴェインはコールの操り人形となる。何故かは分からないが、不本意な風でも命令には従っていた。プレイヤーの間では、性的な意味でも食っていたかもなどという鬼畜な噂もある。
俺は流石にそこまでするつもりはないからアグラヴェインには安心して欲しい。原作通り操り人形にはするけど。
「まだ決断まではしていないが、その時は近い。俺が許可して、お前が帝国の害になると思ったなら殺せ」
「僕の判断でよろしいのですか?」
「ああ。たとえルーラーの教育中でも、これを優先しろ。ルーラーが死んでも人工精霊はレオナルド博士の元に送られる。慎重にとは言わん」
「分かりました」
お猪口の酒を飲み干して立ち上がり、デートの約束をしているナヴィの元へ向かう。
「女に情を移すなよ」
「僕が愛しているのはこの世界だけですよ」
「……分からん奴だ」
さて、こいつなんかより手強い相手が待っている。
ナヴィはロリの癖して酒好きなので、今夜は気合いを入れて付き合わなければ。あの子……年上だけどあの子、ブランデーやウィスキーばっかり呑むから……。
この前も、安物のキャンディが合うとか言って、何杯もコニャックを呑んでいた。




