57話、軍内に見え隠れする不穏な思惑
刀だけではない。俺がこつこつ集めた優れた武器は【光】により消滅したとさ。高価で高品質なゴウザとは別に、予備の安物を購入する。
打刀とリボルバー式の拳銃だ。
「……これでいいか。質も低くかなり高いですけど……」
「金は貯め込んでいるのだろう? 良い武器には金を惜しむなよ。いざという時に死を遠ざけるのは自分の腕とそれを表現する武器だ……というのは、釈迦に説法だな」
「至言にして愚問ですね」
帝都外の武器屋にて、数打ち物を購入する。
淡いライトの元で刃を照らして真剣に選ぶもあまり惹かれるものは見つからなかった。
同行してもらったランスロットお勧めの武器専用店だが、間に合わせとして使うことにする。
「それで? ビア・エンタックに悪魔を植え付けた者は見つかりましたか?」
「見つかっていれば連絡している。だが難航している……ローズマリー様のお側を離れても良いのか?」
デュエルと並んで兵士ではほぼ最高位となる滅士兵士であるランスロット。位に相応しい貫禄で悠々と車を運転している。
「もう狙うメリットは無さそうなものですが、仮に授業中のローズ様を狙っても成功率は下がるだけでしょう。魔物は馬鹿だが悪魔は馬鹿ではありません。人間の次に愚かではありますが」
「ふっ、自虐も含んでいると見た」
「私は自分を天使だと思っていますから」
「……天使様は脅迫などしない」
「兵士が浮気するくらいですから、天使だって脅迫するのでは?」
「……」
暫くの沈黙が続くも、ランスロットは咳払いを一つ挟み話題を変える。
「れ、恋愛は自由だと思わないか?」
変え切れずに情に訴えかけて来た。
「不貞を恋愛と呼んでいいのかは分かりませんが、お手伝いをしていただけたら僕から情報が漏れることはありません。自由な恋愛を、決して他の人にはバレないように」
「……肝に銘じよう」
今では移動はほぼ魔鋼車という四駆自動車と魔鋼列車になる。かなりスムーズな移動が可能で、道行く人から思い付きの襲撃を受ける事もない。
「質問だ。何故、お前はビア様に悪魔を仕込んだ者を捜さない。悪魔も脅威だが、そちらの方が懸念されるべきだろう」
ランスロットの考えでは、悪魔よりも内通者が危険であるとしている。第六感が告げているのか、得体が知れないからだ。
あながち間違いではない。俺はもちろん誰がローズの母へ悪魔を仕込んだのかを知っているが、その正体は度肝を抜かれるものだ。
「そちらは別の部隊で調査している方がいるようなんですよ。邪魔をしたら面倒なので手を出していません」
「……そういう事か」
どういう事だろう。適当にあしらったのだが、都合よく解釈してもらえたらしい。
「代表家の諜報部か、魔法省の調査員か、もしくは……確かにコールや私と言えどもお叱りが来そうな相手だな」
「叱られるのは嫌いです」
「私もだ」
心優しいおじさんランスロットと会話を弾ませ、帝都へのトンネルを駆けていく。この時間が長いのなんの……。
「このあとはどうする。どこかに寄るか?」
「軽くサンドイッチでも買って食べませんか? それから学校にお願いします」
「学校とお前が言うと、学生をやっているのだなと改めて不思議に思うな。昔からの付き合いだから、すっかり同僚という認識だ。どうだ、学生の気分は?」
「と言っても僕は授業も実習も免除されていますから。アーサー様とルーラーの指導を主に……殆ど教師ですね」
今はもうローズと日替わり“ババアのおススメ”にしか興味がない。
「気分はいいですよ? 魔城や悪魔達と遊ぶ方が楽しいですけどね」
「部活動でもしてみたらどうだ。もしくは……研究とか」
「部活動に研究、ですか……」
「最近のお前はローズ様を庇ったりと人間味が出て来たからな。友人でも見つかるんじゃないか?」
研究か。興味もないし友人が欲しいとも思わないが、折角コールになったのだから何か新しく初めてもいいかもな。
新しい戦技か魔法か。もしくはレイチェルに施したように、誰かを育成するなどか。例えばローズを魔改造して、踊り子……いや、武闘家スタイルにするとか。
「そう言えば、お前に《滅士》の称号が与えられると決定した」
「……特に興味はありませんが、公に僕が活動している事はほぼ知られていませんよね。判断材料になる功績がほとんど無いのではありませんか?」
「侵蝕人とローズマリー様奪還。そしてルーラーの面倒を見る都合上、《滅士級》の権利を持っておくべきと判断されたらしい」
「……いったい誰に?」
♤
帝国軍ロムレス基地。特別戦力兵士として特例を与えられるコール・モードレンドの犯した犯罪に対する罰則を如何にするか。一ヶ月での短期間しか監獄にいなかった事もあり、代表へ意見書を送る運びになった。
「……難しいところですな」
代表の娘であるローズマリー・エンタックを救出し、頭を悩ませる魔城をも攻略したのもまた事実。更に番犬モードレンド家であり、何より実力はデュエルや次代の導き手という地位を確立したレイチェルに勝る。
「……不問だろう。誰もがそれを望んでいる」
「ふ、不問ですか……?」
会議室内において最奥に座るマーク長官に逆らえるものはいない。
けれど、これまでコールに否定的な態度を見せていただけに、思わず聞き返す者が現れた。
「認めるしかあるまいよ、君」
「ふむ……それどころか、褒賞をとの声が大多数ですな。引退したお歴々も波風を立てるなと仰られている。必要以上に階級を上げると我等と立場が逆転してしまいますが、とりあえず罰則は無しでしょう」
「あそこまで強いと時間の問題という気がして来たがね」
会議室に集まった上層部も、コールの活躍には酷く悩まされていた。
「……マーリン様の予言では魔王級悪魔を倒せるとしたら、アーサー様とルーラーに選ばれた英雄だけとされていましたが……」
「コールがルーラーに含まれていないのが不自然で仕方ない。本当にマーリン様の予言は確かなのか?」
「はっはっは、魔法省や魔法協会に聞かれたら大問題になりますな」
「ここは生粋の実戦的兵士上がりばかりだ。心配いらんだろう」
教国や連邦といった人間を相手に、戦時を乗り超えてきた兵士達は、魔法による未来判定に不信感を拭えない。
「……やはりコールを支持して、戦技魔法に関係なく実戦で強い兵士こそが、最も優れているのだと証明すべきだろう」
「賛成です」
「異議なし」
「仰る通り。前線で戦う兵士という存在こそがもっと評価されるべきです」
拍手に包まれる会議室。こうして、コールは若くして即昇進。マーク長官の後押しにより、代表すら持て余す地位が見え始めていた。
特別戦力魔戦士という枠組みのまま、《滅士》の地位を得る。これは一部の隊長格を除き、ほぼ全ての現場で指揮権を持てる位である。




