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56話、裏社会をゆくルーラー

「あのさ、そろそろ新しい刀の試し斬りする為に悪魔を探したいんだよね」

「あっ……そうだったんだ。言ってくれれば良かったのに。なら早く終わらせようか」

「え、行かせてくれないのっ?」


 向かい合うようにして膝の上に座り直したレイチェルが、完全に行為を始めようとする。いそいそと胸元を緩めて谷間を出し、俺の股間を撫でてくるのだ。


「……抱かないの? そんな選択肢があるの?」


 そう純真な顔付きで首を傾げられ、『おや?』と現状を整理する。

 新しい刀を手に入れて逃走中の俺がいて、勤務時間などお構いなしにやって来たレイチェルがいる。一ヶ月の期間を会っておらず、割と気温の低い寒空の下で時刻は昼間。なんと言っても他人ん家の屋上……?


「……本当だ! こんな意味わからん状況は抱くしかないやつだ!」

「そうだろう? ん〜ちゅっ」


 頬にキスされて俺の心も切り替わる。こんな訳の分からない状況で抱く事なんて滅多にできないのに、俺とした事がレイチェルに諭されて初めて気付くとは。この一ヶ月で自覚していたよりも鈍っているようだ。


「いれるよ、ご主人様……んんっ」


 なんでこいつは、こんなにエロいの? 気も楽に座る俺の膝に乗り、下着をズラして挿入するところを見せてくれる。

 手始めにレイチェルを満足させてから、やっと完全復活を果たした。


「悪魔狩りじゃあー!」

「デートがてらに害虫駆除といこうか」


 こうして艶々になったレイチェルと久しぶりの最強ツーマンセルが編成された。日も暮れた頃に編成された。

 夕食をどうしようかと考えながら、夜の帝都を子供に変装してウサギ跳びで跳び回る。相方がレイチェルなので遠慮なくスラム街や裏社会の輩が集まる場所をパトロールする。


「レイチェルのレベルって幾つだっけ」

「前にレベリングに連れて行ってもらった時から変わっていないよ?」

「あらら、じゃあまたレベル上げに連れて行ってやらんと。次のレベリングはスリリングだぞ。けど何度でも言うけど周りには上手く隠せよ。面倒に巻き込まれるからな」

「ありがと。コール君は最高のご主人様だね。飼い犬として誇らしいよ」

「だろ?」


 二人してダルタニアンの指輪で姿を偽り、慣れたもので各々別の場所を見下ろして悪魔を探す。

 レイチェルの指輪は三年くらい前の誕生日に俺がくれてやったもので、常に持ち歩いているらしく好都合。当たり前のように左手薬指にはめる可愛げもある。


「……おや? あれはルーラーの一人だよね」

「ん? こんなところにルーラーがいるわけ……ああ、アグラヴェインか」

「あそこで(ろく)でもない連中とつるんでいるね」

「時々、悪魔が入ってたりする事くらい知ってるだろうに。変わってるな。ま、あいつはそう簡単に負けないだろうけど」


 白い長髪をした目立つ美少女が柄の悪い裏社会の人間と、路地裏で駄弁(だべ)っている。悪い若者に惹かれる年頃なのだろうか。浅はかな……。


「そう言えば君の代わりじゃないけど、ルーラーを覗き見てみたんだ」


 子供レイチェルがこんな興味深い話を始めた。


「どうだった?」

「偶然だったんだけど、私が隠れて護衛していなければ死んでいたんじゃないかな。彼等が戦力になる日が来るのか疑問に思ったというのが正直なところだね」

「……死んでた?」

「おそらくね。その時はアーサーとベディビエール、あとはトリスタンがいたんだけど、私が陰から助けなければ全滅していたね」


 ここで初めて俺はルーラー達の“現実”に考えが至る。

 ゲームでさえ育てていても負けてしまう事があるのに、自然な成長に任せていては死ぬ事があるのは当たり前だ。

 あとは何よりも、ロロにより完成された人工精霊が超強力ということが、ルーラーの慢心に繋がっているのだろう。当てれば勝てるという思考が念頭にあるから、地力が育たないのだろう。


「アーサー・エンタックの指示も作戦も見ていられなかったね。自分の戦闘に手一杯で全員が別々に泥試合を繰り広げていたって感じ」


 ローズマリーの覚醒によりアーサーは精神的に乱れて焦っている。メンタル面も影響するようだ。

 考えて始めてみれば現実だから当たり前なのだが、レイチェルにより物語を楽しむならルーラー達にも気を配らなければならない事に気付いた。


「何人かを集中して育てるか……」


 第一候補は成長率が著しいガウェインだろう。遅れ気味のパーシバルも脅して連れ出すか。暫くは失ったポポタンの目鯨等のアイテム再奪取をしなければならないし、片手間にやれるのは今のうちだな。


「……コール君、あの女の胸を狙っているの?」

「ん? 違うから嫉妬すんな。お前のが一番だから競おうとするな。胸張って隣にいろ」

「レイチェル殺しの称号をあげよう。特別だよ?」


 拗ねていた忠犬が手のひら返しで腕を絡めてくる。確かにレイチェル級もあるアグラヴェインの胸は男として少し手応えだけ確かめたいとは思う。

 でも別に? って感じ。不用意に人肌には触れたくない。それより断然ポポタンやメーン博士にまた会いたい。


「さっ、そろそろデートに戻ろうよ。悪魔が涙ながらにコール君を待っているよ?」

「そうだな。俺を待つ悪魔達を早く殺してやらないと。寂しがっているに違いない」


 弱体化の影響でグイグイと引っ張るレイチェルに抗えず、悪魔探しへと戻る。

 今宵、夜の帝都に悪魔が啼く。何度も何度も。


 ♤


「代表、レオナルド博士から新たな第二世代の報告書が届きました」

「おう、寄越せ」


 ペンドラゴンがこの世で最も敵に回したくない人物はと訊かれたなら、迷う事なくロロ・レオナルドと答えるだろう。

 コールでもなく、《夜の王》でもなく……。


「博士か……真に神の頭脳を持つ芸術家だな」


 最高の待遇で飼い慣らし続けなければならない。仮に才能が潰れたとしても、万が一を考えて死ぬまでこの待遇を続けなければならない。

 人工精霊などという神の創造を成し遂げたレオナルドへ、誰よりもペンドラゴンは畏怖の情を抱いていた。


「……で、コールはどうだ」

「ローズマリー様に連れられ、学校を楽しんでいるようです」

「ちっ! 逆だろうがっ、厄介な……」


 よりにもよって最愛の愛娘が、モードレンド家……いや、帝国史上最強の危険人物に惚れ込んでしまった。

 更に最悪なのは、ロロ・レオナルドからも愛されているという点だ。今やコール・モードレンドは代表の権力を持ってしても、手の付けられない存在となっている。


「悪魔達にも動きが見られます」

「……ベルフェゴールか?」

「それと、アスタロトが姿を消しました」

「……他の魔王の元にいる可能性は」

「あれ程の悪魔なら情報が入って来る筈ですが、何の報告も上がって来ません」


 帝国近辺に存在が確認されている悪魔達には、大きく二つの勢力がある。

 一つ目は、魔王の一人でもあり“影”の一つを持つ《夜の王》の勢力。絶大な力を持つ《夜の王》の元、多くの強大な悪魔達が集っている。

 そして二つ目が、ベルフェゴールの勢力。魔王として【夜の王】に迫る実力を有しており、何よりも扱う魔法の性質から巨大な勢力を持つに至った。

 だが二巨頭がある中で、どちらにも所属しない魔王級の悪魔がいる。

 それが、アスタロトだ。ベルフェゴールとも正面から戦い、無傷でその場を凌いだともされており、その動向により悪魔達の勢力図が書き変わるとも言われている。

 つまり《夜の王》、ベルフェゴール、アスタロト、この三竦みによって保たれる秩序はアスタロト次第で崩れるということに繋がる。


「すぐに諜報部を動かせ。アスタロトの気に障らない程度で大々的に動け。人員はどれだけ割いても構わん」

「分かりました、すぐに」


 虎の尾を踏む自体は避けなければならない。諜報部ではアスタロトとの接触成功時に、いくつかの禁則事項の確認や一定限度の監視許可を取り付けている。

 何を考えているのか掴み所のないアスタロトだが、悪魔の中では温厚で理知的で、取り決めさえ破らなければ安全とされている。


「それと……」

「……何だ、さっさと言え」


 言い辛そうに口元を動かし、何と告げるべきかと逡巡する秘書へ催促した。


「……ルーラーの一人が不穏な動きを見せています」

「……」


 想定していた可能性だとしても、人工精霊が絡む自体は厳重に当たらなければならない。帝国で優先されるのはレオナルド博士、次いで代表とコール……ルーラーは博士の恩恵により価値があるだけの存在に過ぎない。



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