54話、ルーラーでもないのに一人だけ変なやつがいる
転生してから好き勝手にしていたら牢屋にぶち込まれたコール・モードレンドです。ゲーム好きの元サラリーマンです。自分で言うのも何ですが、ゲス寄りではあれども凡人です。
しかし今では厄介な罪を背負って、大好きなゲームの世界に来たというのに地下深くでじっとしていました。素敵な転生物語でしょう?
「こちらの車にお乗りください」
「分かりました」
看守から言われるがままに車に乗り込む。
悲し過ぎる。言っておくが、別に俺は悪さなんかしちゃいない。女から言い寄られたから思いに応えただけ。ここまでされる罪なんて背負っちゃいないんだ。
「無駄な事を……」
新しい強力な腕時計型拘束具を付けられ、弱体化までさせられる。いつでも引き千切れるが、一旦は言う事を聞いておく。はっきり言って無視すればいいのだが、俺の本当の強さを知らないペンドラゴンはこれを有効だと思っているのが愉快だ。
そんな状態で車に乗り込み、ローズマリーと帝都キャメロットを目指す。
「やっと出られたぜ……」
「思っていたより元気そうじゃない」
「そんなに過酷とは思わなかったな。俺が不在で寂しい思いをしている世の女の方が、よほど苦しんだんじゃないか?」
「自惚れもそこまでいくと清々しいわね……」
「……」
一ヶ月で恋の炎も冷めてしまったのか、思いの外に塩対応をされる。隣り合うローズマリーへ少しだけ近付きながら確かめてみる。
「おい、なんだよ。俺が出てきて嬉しくないのか?」
「……!」
少し寄っただけで体を跳ねさせていた。どうやら緊張しているらしい。
よく考えてみれば俺とローズマリーって一日しか一緒にいなかったのだから、距離感がおかしいのは俺の方だな。触れられるようになったら愛人化完了だと思っていたから、新たな発見だ。
「……なんだよ、俺らの仲じゃぁん」
「き、急に馴れ馴れしくしないでっ! それに私は監査役として来ているのよ! 履き違えないで! この大罪人!」
むしろ肩を組んで距離を詰めるも、本気気味に嫌がられる。あれからも十分にレベルアップしたらしい腕力で力一杯に押し返されてしまう。
「……ふん、いいさ」
俺にはレイチェルという完全なる忠犬がいる。絶対的な安心感と安定感なので、ここで冷たくされても俺の心には問題ない。
ただし命懸けで救ってやった恩をもう捨てているところにイラっとはするので、乳を一揉みしてから離れてやる。
「っ……変態っ。お外では止めなさいっ」
「……」
視線を逸らして恥じらいに顔を赤らめながら、室内なら大人の触れ合い許可を伝えて来る。制服を押し上げる豊かな胸を腕で覆う仕草がなんとも可愛らしい。
好感度は依然として保たれているらしい。
「……メモの通りにしたか? かなり強くなったみたいだな」
「言われた通りにしているわ」
「分かりきった上で聞くけど、ヴィヴィアンには勝ったのか?」
「勝ったけれど……私が決闘以外では手を出さないと気付いて、あいつだけはたまに嫌がらせを続けているの……」
「懲りないな。思ったより馬鹿なのか……?」
ヴィヴィアン如きに思考を割くのも無駄なので、澄まし顔のローズマリーを抱えながらも投獄中に考えていた計画を思う。
「でもどれも前に比べたら些細なものだから……。それで帝都に帰ってからはどうするつもり? 寮はもう今日からでも住めるように手配はしてあるけれど……」
「まずは髪を切る。あと風呂に入って、それから刀を調達しなきゃな」
「何処で切るのよ。降ろしてもらう場所を運転手に伝えないといけないわ」
「モードレンド家。そこのメイドにいつも切ってもらってる。そいつ以外はダメ」
「分かったわ」
運転席とは区切られた空間だったが、小窓が開くようで手際良く運転手へ指示している。使い勝手のいい女だ。 あとは【耀の光】の正確な使用法が不明な為、これから色々と実験しなければ。自由自在に引き出せるようになれば、世界最強の称号は楽々と俺のものだ。
「真面目なお話をしましょうか」
「なんだよ」
「魔城攻略速度が著しく低下しているらしいわ」
「当たり前だろ。聞いてるかは知らないけど、アレほとんど俺が駆除して回ってたんだからな」
「……そうだったの?」
「うん。九歳か十歳の頃から六年近く」
「九歳っ!?」
「だから俺がいないなら攻略速度は落ちる。いや落ちるなんてもんじゃないよな。停止だよ、停止」
開いた口が塞がらなくなったローズマリーだが、この失速はペンドラゴンの私情によるものだ。必然的なもので、責任はすべて奴にある。
それでも最後の手段を切れば、俺を出さなくても済む筈だが、ペンドラゴンはそうはしなかったらしい。
「それで?」
「え、えぇ……そこでなのだけれど、今週末にも魔城攻略をルーラー達が行うから監督をして欲しいみたいよ」
「お前も来るの?」
「行かないわよ……ルーラーではないのだから分かるでしょう?」
「え……女を抱きたくなったらどうすんだよ!」
「知らないわよっ! 女性をなんだと思っているのかしら!」
堕として利用する性欲解消メス人間。と、正直に言ってしまうと方々から色んな人に怒られるので妥当な返答をする。
「美しく逞しく尊い存在です。いつもありがとう」
「心にもない事をツラツラと……でも急に落ち着いたわね。それなら目を通してもらいたいものがあるわ」
ローズマリーは自分の学校用鞄を探って資料の束を取り出した。
「これが今のルーラー達のステータスよ。確認しておいて」
「……はぁん」
手渡された資料を見てみれば予想を超えて成長している者が数名。特にガヴェインやアーサーはまだ駆け出したばかりのこの時期にしては、思わぬ急成長を果たしている。
[名前]ガウェイン・ロッソ
[レベル]43
[戦技]【火斬り】【火炎斬り】【樹倒す蹴り】【ファイア・アクセル】
[魔法]【火魔法クラスⅤ】
[人工精霊]【燦々たる太陽の化身】
[武装]帝国軍のダガー
火魔法のクラスが五という事は、もう【黒炎】まで辿り着いたのか……中盤まで使える高威力なのでガウェインは主力だな。
[名前]アーサー・エンタック
[レベル]37
[戦技]【二段斬り】【強撃】【全力斬り】
[魔法]【勝利の王剣】【虹色の聖剣クラスⅡ】
[人工精霊]【擬似赤龍】
[武装]帝国軍の大剣
魔城を攻略し始めれば人工精霊によりレベルアップは急加速する。ストーリーが始まったのだから当然なのだが、ガヴェインに至ってはベディビエールを超えつつある。そのベディビエールも成長しているし、男爵級なら苦労はしても安定して攻略できる筈。
けれど、実情は正反対らしい。俺の推測に反して男爵級悪魔に撃退されかけたそうだ。
「これで攻略できないって、確かに俺を出したくなるな」
「私が皇剣魔法に目覚めたから兄は焦っているみたい。実際に代表も私にルーラーになってみないかと、打診してきたものね」
「ならないのか? 迷ってるみたいな事を言ってただろ」
「ならないわ。戦えるのだから不要と判断したの」
「……ローズのレベルってどれくらいになったの?」
アグラヴェインが全く変わっていない事が気になるが、概ね問題無し。あいつはもうすぐ起こる事件後に帝国を裏切る。自然とアクションがある筈なので、それを待つだけだ。
なんて呑気に構えていたところに、俺の悪女が何の気無しに爆弾を放った。
「私のレベルは64よ」
「……はっ!?」
一ヶ月でレベルを五十近く上げた化け物が隣にいた。




