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44話、俺の【光】がぁぁぁ!!

 ノックブランドの祖父母宅で、朝からコーヒー片手にローズマリーの資料に目を通す。

 やはり隠し子のローズマリーはかなり昔から爪弾きにされていただけでなく、学院に途中入学したヴィヴィアン一派から執拗な悪質行為を繰り返されている。

 ローズマリーがレベル低く、代表から相手にされていないのをいい事に周囲も取り込んでやりたい放題みたいだ。


 物語のヴィヴィアンはそのような実害性のある人物ではなかったのだが、見えない裏の部分ではご覧の有り様らしい。


「ほぅ……」


 次のページには更に驚くヴィヴィアンの裏の顔が記載されていた。

 男を取っ替え引っ替えして部屋に入り込み、連れ込み、不埒な行いに及んでいるらしい。いいところの学校生にしては奔放だ。演技が上手い自分に酔っているのかもしれない。

 又は、強い精神的ストレスを発散する為か……。


 ともあれ、ローズマリーを虐めている点を除けば、ヒロインの裏側を知れて凄く楽しい。何やら近々、我慢に限界が来たのかローズマリーからふっかけた決闘もあるらしい。


「……」


 ページをめくっていく。

 民間人だった幼少期に代表家となったローズマリーは、とても良く頑張ったようだ。母親に会いたい一心で、良い子になるよう努力していたのが成績からもよく分かる。

 五歳頃から一人暮らしで、たった一人で……。

 憐れむ心は俺にもある。見返りにきっちり【光】は頂くので、可能な手助けはしようと思う。


「……予定表は……」


 どこかで必ずローズマリーは悪魔から洗脳される。今のところまだその気配はないみたいだ。実際に対面してみても不審な様子は見受けられなかった。

 だからこれから、帝都外の魔城に連れ込まれて洗脳されるタイミングがあるのだと考えている。流石の悪魔も纏まった時間をかけなければ、完全に人格を変える程の洗脳魔法は施せないからだ。


(……“外出予定”……)


 目当ての資料を見つけ、本日の予定を読み進めていく。


「へぇ、今日は丁度母親の代わりに都市外(・・・)に行くのか。おいおい、この道は近くにめちゃ強い魔城(・・)があるから注意しないと」


 この方面はベルフェゴール勢力で、あいつらは精神に作用する(・・・・・・・)魔法(・・)を得意としているから気を付けないと。

 資料を確認し終えたので、閉じて机に放り投げる。

 一段落したのでコーヒーを口に含みつつ、ベランダへ出て朝日を拝む。


「……ぶーっ!?」


 もう連れて行かれてるやないかッ!!

 俺の【光】がぁぁあああ!!


 ♤


「――イヤァァぁぁああアアアアアアアッ!!」


 とある魔城の地下牢で、虚しく響く乙女の絶叫。脳内に流れ込む魔力が蟲の如く(うごめ)き、不安や恐怖を意のままに引き出し、ローズマリーの精神を汚染していく。


「ガッ……あ、ぐっ……」


 涙や涎で顔を汚すも、(おぼろ)げに(うめ)くローズマリーは責め苦からの解放に脱力するのみであった。手首を拘束する鎖に天井から吊るされ、血が滲むも皮が剥ける激痛が霞むほど苦痛に、意識が朦朧(もうろう)とする。


(な、んで……わたしが、こんな目にあわなくちゃいけないの……?)


 未だに頭の中と身体を這う魔法の余韻に苦しみながら、幼児のように内心で弱音を漏らす。


「いいですねぇ、少しずつ少しずつ。牛歩の如く壊れていきましょう」


 (からす)の上半身は青い(おびただ)しい体毛を生やし、更に衣服まで着る(おぞ)ましき生命体。

 侯爵級悪魔であるマッツォ・マリトォッゾが、尖った眼鏡を持ち上げて言う。小指を常に立てて、見るからに興奮を隠し切れない様子だ。


「ではもう一度」

「……!? い、いやっ、やめて……!!」

「ああっ、ビューテフルッ!!」


 涙目で懇願(こんがん)するローズマリーに愉悦を高め、マッツォは更なる精神汚染魔法を行使する。


「――ッ、アアッああァァアアアアア!!」


 電流を通されたように痙攣(けいれん)し、小刻みに身体を跳ねさせて汚染に抗うローズマリー。


「あぁ……ぁ……ぐっ……」

「おお……!! いい感じに弱って来た弱って来た。そろそろもう一段階、心の傷を深めて隙間を広げたいのですが……」


 ぐったりとするローズマリーは用意された紅いドレスを着ており、白く大きな胸元は露わとなり、太ももなどの肌の露出も激しい。


「ふむ……」


 舐めるように妖艶なローズマリーの肢体を眺めたマッツォが、醜いケダモノの着想を得る。悪魔に生殖機能はない。しかし行為自体は楽しめる。

 既にローズマリーの蠱惑的な容貌に、下半身は醜悪な反応を見せていた。

 しかしその前にもう少し抵抗の余地を削っておこうと決めた。悪魔の(ささや)きだ。


「……ビア・エンタックは、代表の寵愛が無くなったのはあなたのせいだと考えていたようですね」

「へぁ……?」

「ここにあなたを送り込んだのは、他ならぬあなたの母親なのですよ。ほっほっほ!」

「……」


 絶望に目を剥き……涙が溢れる度に瞳の光が消えていく。これまでの対応や態度に合点が行き、信じて止まなかった最愛の人に疎まれていた事実に思い至る。


「うふふふっ、さぁさ私に身を委ねて」

「ぃ、や……」

「私の次はそこらの人間でも誘って手伝ってもらいましょうか、ねぇ?」


 失意に(むしば)まれるローズマリーの抵抗は乏しく、弱り切ったそこへマッツォの手が伸びる。

 これよりマッツォを含め、魔物や連れ込んだ人間によりローズマリーは徹底的に陵辱されることとなる。

 自我など早々に崩壊し、精神汚染をとことんまで施されて悪魔の忠実な人形と化す。


「こほん、では共にエデンへと参りまァッッ……ショォォォンッ!?」


 ぞっとするマッツォの激しい絶叫が響く。


「ぅ……?」


 やっとの事で顔を持ち上げると、すぐ眼前には……尻からレイピアを突き刺されたマッツォの昇天しかけた姿があった。


「……な、なぜここに、人間がっ……というか、なぜ尻っ?」

「尻尾もあった方がカッコいいかなって。じゃ、もう少しグリグリと」

「グリグリぃぃぃ!?」


 尻から刺剣を生やし、おまけに抉られながら突き刺されていた。

 臀部から噴水の如く血を流すマッツォ。串刺しにされながら持ち上げられ、軽く放られる。


「利用価値がありそうな悪魔だけど、見てたらお尻がムズムズしちゃうから殺すね?」

「ひっ!? ヤメッ――」


 悪魔も霞む残酷な瞳の輝きを見せ、赤雷の走る刀で首を刎ね飛ばしてしまう。

 壁を打つ血肉の音が痛々しく鳴るも、視線はここにいる筈のない目の前の人物を捉えて離れない。


「……コール……?」

「ああ、間に合ったぁ……」

「ぐっ……!」


 支えていた鎖を鮮やかに斬り離され、堪らず落下の勢いのまま尻餅を突く。

 その間にコールはマッツォを解体して魔晶を回収。それから歩み寄る足音を聞く。


「走れるか? ここは主の悪魔より魔物の方が遥かに強い。すぐに逃げるぞ」

「……」

「え、無視?」

「そうじゃ――ッ!?」


 帰ったところでどうするのか、と返答しようとするも……目の前にしゃがんだコールの姿に息を呑む。

 コールの左眼は潰れ、左腕はあらぬ方向に曲がり、全身は無惨な傷だらけ。アンデッドの魔物でなければ、生きているのが不思議なまでに痛ましい姿をしていた。


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