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37話、コールの猟犬

 堅苦しいパーティーを終えても腑に落ちないので、改めて軍学校に戻る。スーツで過ごしたパーティーだったが、久しぶりに酒が飲めたのでマーク長官は見逃してやろう。


「よっ!」


 飛び乗った軍学校の時計塔の上から、侵蝕人が降り立った闘技場を見下ろす。侵蝕人が降り立つタイミング、五体という数、それからコールが三体を倒すという筋書き、チーム分け。全てが完璧でストーリー通りだった。


「あれぇぇぇ?」


 おかしな問題を腕組みして真剣に考える。

 唯一知識と異なる点は、生徒に侵蝕の芽を植え付けた悪魔が姿を消してしまった事だ。経過観察するべく密かに戦闘を盗み見ていた事は確認済みだが、後日になって捕縛される筈のその教官は夜までに姿を消してしまう。


「殺して経験値にしたかったのに……原因はロロか?」


 ゲームの筋書きから変わった事があるのも事実。現に俺がロロを助けた事による変化は表れている。

 人工精霊の飛躍的な改善により、完全な完成を見る。それは侵蝕人を消し炭にした事からも明らかだ。如何に人工精霊と言っても、性能が馬鹿げている。それでビビって逃げたとか……? 十分、あり得る話だ。


「まさか……」


 残る可能性は……他に転生者がいるのか?


「……」


 物凄く怖くなってきた。立場にもよるが頑張れば俺がロロを助けた情報は知れる。つまりコールがコールではないと判明する。それを知っていて隠れて悪魔達で経験値稼ぎをしているのかも。潤沢な経験値を持つ俺を狙って、密かに活動しているのかもっ……うわぁぁぁ!? こわしゅぎるっ!!

 静かに内心で発狂した。


「――不審者を発見」


 メスの雑魚が背後に現れる。見知らぬ女魔戦士だ。飛び乗るところを斬り殺すか脳裏を過ぎるも、何故この辺りにいるのかが気になった。かなり訓練された部隊ではあるみたいなので、何かの任務だろう


「動くな」

「……」

「手を挙げて、ゆっくりと地面に伏せなさい」

「……スーツが汚れます」

「黙れっ! 言われた通りにしろっ!」


 あちらも仕事だろうから従ってあげようかとも思うが、雑魚の為にスーツが汚れるのはなぁ……だって夜と言えど、生徒がここにいるのは犯罪じゃないし。不審者ではあるので、対応としては百点だけどね。


「――」


 それでもやっぱり嫌なので背中に突きつけられた銃を、振り返って即座に奪い取る。


「なっ!?」

「落ち着いてください。コール・モードレンドです」


 このご尊顔を見て? 噂は知ってるでしょ? 

 一瞬は殺意を抱いた女魔戦士だったが、夜目を利かせて俺の顔を見ると、安堵の溜め息を吐いた。


「あっ……モードレンド家の方でしたか」

「申し訳ありません。どうしても事件の首謀者が気になって、長官のパーティーの後に立ち寄ってしまったのです」

「そう言えば事件解決に関わっておられたのでしたね。失礼をしました」


 銃を返しながら本題を切り出す。


「訊ねて良いのかは分かりませんが、どうしてあなた程の隊員がここに?」

「……申し訳ありませんが、作戦内容については口外できません」

「やはりそうですか」

「それとお送りしますので、ただちにこの場を去っていただかなければなりません」

「……まさか事件の首謀者は逃亡中なのですか?」


 だとしたらまた別の形でストーリーが拗れている事になる。問われた魔戦士は言葉を飲み込み、情報漏洩に気をつける素振りを見せて慎重に返答した。


「それは――」

「そこまでにしてあげてもらえるかな?」


 俺を囲うように降り立つ無数の影。声音の主であるレイチェルの部隊だったようで、残り六名を引き連れて時計塔に駆けつけた。

 最年少が隊長というどうにも違和感ある部隊だが、レイチェルの部隊が投入される程の案件らしい。


「声がしたから駆けつけてみれば……いくら君とは言え、任務の内容は言えないよ。こちらはお遊びの君とは違ってお国の仕事だからね」


 剣呑な目付きで部下の緩みかけた口を遮断。俺へも牽制を発した。


「レイチェル……」

「さぁ、みんなは任務を続行だ。くれぐれも気を緩めないように」


 厳しい語調で命じたレイチェルへと敬礼し、部下が瞬時に四散した。

 今では部下を律する完璧な上司然とした軍人である。そんな凛々しい背中へ問いかけてみる。


「なんでレイチェルがここにいんの?」

「うん、首謀者の悪魔を拷問したら、なんと指示役として残りの仲間が学校にまだ残っているというので、複数の部隊で捕り物をしているんだ。けど他の部隊が取り逃してしまってね。こうして残業中というわけさ」


 驚くほどスラスラと機密を漏らす可愛い俺の甘々レイチェル。

 相変わらず女神と囁かれる顔面に加えて、二十歳になったレイチェルの躰はパーフェクト。童顔なのもあって巨乳に背徳感がミックスされている。


「久しぶりだね、私のご主人様」

「久しぶりぃ……久しぶり? 今週って秘密のデートをしたよな」

「飼い犬はいつだって時間が空けば、飼い主と共に過ごしたくなるものなのだよ」


 縁に腰を下ろし、超強化してやった元村娘は俺を見上げる。


「それだけかい? 何でも聞いてくれていいからね?」

「……首謀者の悪魔はどうやって判明したの?」

「レオナルド博士が開発した検知器に反応があった。ちなみに君達の事件が起きた直後に仕掛けた校内のやつね? だからすぐに私にもお呼びがかかったんだ」


 ああ、それでか。納得の理由が流石のレイチェルから一発で返ってくる。なんて愛しい奴なのだろう。やはりロロが存命である事が作用していたらしい。


「そういう事か。暇だし手伝おうか?」

「う〜ん……なんとつまらない提案なんだ。そんな事よりも話さない? それ以外でも、散歩とかセックスとか楽しい事をしようよ」

「……偉い! そういう遊び心って大切! なんで俺、手伝おうとした? 任務やり過ぎてバカになってたわ」

「ふふっ、ありがとう。なんといっても私は、コール君によって調教済みの開発済みだからね。遠慮はいらないよ」


 腰に手を当て、胸を張って調教済みを自負する少しアホっぽいところを見せる。調教した覚えがないが、割と初めの内から自称し始めた。

 ダントツで一緒の時間を過ごしているレイチェルとは阿吽の呼吸だった。しかも俺の悪性思考を正してくれたし、見習わなければならないだろう。


「ま、それは次会う時のお楽しみにして、任務に戻るまで話し相手になってあげよう」

「ありがとう。じゃあ……学校生活やルーラーの印象なんかを聞かせて欲しいな。楽しい思いをしていてくれているのならいいのだけど」

「学校は思ったより辛いな。他人と接触せずに過ごすってのは難しくて、本当に病弱になったみたいだ」

「……前から思っていたんだけど、手袋とかは? 直接じゃなければどうなるんだろう」

「手袋ごときじゃダメなんだよ。感触がもうダメ。吐息とか体の熱とか感じてもすぐに体調が悪くなる」

「重症なんだね……なんて可哀想なご主人様だ。癒してあげるから、いつ呼んでくれてもいいからね」

「マジで呼ぶからな」

「今から楽しみでならないよ」


 時計塔から帝都キャメロットの明るい夜景を眺める。ロマンチックだが行われているのは悪魔に関わる重要人物の大捕り物。


「満を辞して対面したルーラーはどうだった?」

「……人工精霊のお陰で何とか使い物にはなるだろうな。潜在能力はあるけど、人工精霊があるから何とかなるって考えが透けてる」

「でも実際に何とかなってしまうからね」

「なっちゃうんだよな……レイチェルも危なそうならお偉いさん方から距離を置くんだぞ。軍を辞めても俺が個人的に雇ってやるから。前みたいにフリーでやっていこう」

「揺らぐ誘いをしないでもらおうか。それはあまりに魅力的で、本当に迷ってしまう」


 立って眺める俺の隣の縁に座り、手元で投擲ナイフを遊ばせながら言う。


「……けど、まだやらないといけない事もあるしね……」


 ♤


 キャメロットに待機していた強襲を得意とする特殊部隊を動員して捜索するも、侵蝕人を差し向けた指示役を捕まえる事は叶わなかった。朝まで捜索されるも、別部隊と入れ替わりで交代となる。


「撤退の命令が下った。報告はしてあるので、現地にて解散とする」

『了解っ!』


 時計塔前で隊長のレイチェルにより部隊は帰投を命じられる。瞬時に隊員は姿を消し、レイチェルは校舎へと歩んだ。

 そして教官も生徒も立ち入り制限をされている校舎の中へ。虚空へと言葉を投げかける。


「帝国軍に見つからずに無事確保できたかい?」

「はい。予定の場所に監禁しておきました」


 曲がり角から……柔らかく微笑むヨナが現れる。


「今はナビィが結社の情報を引き出していますので、少々お待ちください」

「流石だね。ヨナに任せておけば間違いない」

「レイチェル様、ひいてはコール様のお陰です」

「けれどナビィには決して殺さないよう釘を刺しておいてくれないかな。彼女は慢心のきらいがある」

「既に言ってあるのですけど、また言いつけておきますね」


 接点などある筈のない二人の会話。不穏な内容は続き、二人は必要最低限のやり取りを終えると、最後に一言二言交わしてからその場を後にした。


「まだ始まったばかりなんだ。くれぐれも気をつけてね」

「承知しました」


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