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31話、学校を楽しもう

 軍学校のクラス分けは、とてもシビアだ。帝国軍魔戦士としての格付けである滅士(エース)導師(マスター)将位(ジェネラル)精鋭(エリート)兵士(ソルジャー)。四年時から軍学校においても、これらの基準で組分けされる。

 ローズマリーは座学の成績が最上位であっても、実技が重視される軍学校においては最下位の兵士クラス。編入したばかりのコールもまたこのクラスに入っていた。


「こ、コールさんとお呼びしても良いかしら……」

「勿論。これから同じクラスメイト同士、仲良くしてください」


 席を取り囲む訓練生達にも、ローズマリーの隣に着席したコールは笑顔で対応していた。

 年齢を誤魔化してアーサーの護衛として通学する滅士クラスのベディビエールをも上回る実力でありながら、兵士クラスの訓練生にも分け隔てなく接するコールに、羨望の眼差しはより濃くなるばかりである。


「モードレンド君、良かったらチームを組まないか? 僕達は弱いけど、モードレンド君ならすぐに上へ上がってしまうだろうから勉強させてもらいたいんだ」

「それも良い経験になりそうなのですが、すみません。実は任務だけはルーラーに同行するようにと、代表から言われているんです」

「だ、代表から直接っ……? それは凄いね……」


 帝国のトップであるペンドラゴンはルーラー達や貴族等であっても、当然に顔色を伺う存在だ。さも平然と名前を出すコールに、ただならぬ存在感を感じるのも無理はなかった。


「午前中は如何されたのですか? その、何かご用事……?」

「まだ体調が優れないことがあるので、身体が重いと感じてすぐに医者に診てもらっていました。今後も同じようにお休みする事が多々あるとは思いますが、以前と比べれば遥かに健康ですので心配はいりません」


 体調を思っての問いであろうと分かる女子生徒へと、微笑んで答えたコール。話しながら前のめりになってその少女の髪へ手を伸ばす。


「ほわっち!?」

「……失礼、花びらが付いていましたよ」


 髪型が崩れないよう、そっと花びらを取り除き、目の前に(かざ)して見せる。


「……はぁう!?」

「リンカ!? リンカが気絶したぁー!」


 神の造形を直視してしまう。後光射すコールに触れられ、顔を紅潮させた後に卒倒した女子生徒。目を回した彼女の友人らしき人達に、医務室へと運ばれていく。


「……」

「……あの、コール様?」


 呆気に取られて目を瞬かせながら見送っていたコールへ、おずおずと控えめなヴィヴィアンが声をかける。物静かで素朴な印象を受けるヴィヴィアンもまたコールに強い関心があるようで、男子人気の高いこともあり方々から溜め息が生まれる。


「はい、何か」

「ヴィヴィアン・ステイルと申します。あの……平民ですが、クラスメイトとして仲良くお付き合いできたらいいなと思っています」

「勿論です。こちらこそよろしくお願いします」


 間髪入れずに答えたコールから手を差し出し、握手を求める。


「よ、よろしくお願いします!」

「……私もお願いしたいです!」


 微笑ましく握手を交わすヴィヴィアンを皮切りに、貴族に遠慮していたクラスメイト達が次々とコールに押し寄せる。

 この日を境に軍学校で最も人気であったアーサーやガウェインを抜き去り、コールへの熱狂は日に日に加熱していくのだった。


「……」


 ローズマリーはどこか不安げな様子で、横目にそれを(うかが)っていた。まるでコールに怯えるように、息を潜めていた。

 午後は座学で、森林型魔城の攻め方などを学ぶ。加えて実戦形式であった午前の実技訓練とは別に、ウェイトトレーニングなども行われる。


「コールくんっ、君は休んでいた方がいい! 顔色も真っ白じゃないか!」

「これは握手の……いえ、調子がいい時に鍛えておきたいんです。心配のし過ぎですよ」


 教官から個別に課せられた鍛錬に励む訓練生に混じり、合わせてベンチプレスやランニングを行うコールを見つけ、男子生徒が慌てて駆け寄った。


「それに、教官の方が見ていてくださっていますので」

「……とは言え、軽く息切れする程度から徐々にな?」


 ちらりとコールの向けた視線に気付いた教官が歩み寄り、軽く肩を竦めて釘を刺した。


「教官が言うのなら、大丈夫ではあるのか……?」

「……失礼、知り合いに挨拶をして来ます」


 屋外鍛錬場に今し方やって来た人物の元へ、同級生や教官を置いて歩み出した。


「ガウェインさん、お久しぶりです」

「……本当にな」


 黒髪と赤紫髪の美男子が並び立つ様に、周囲が色めき立つ。

 英才教育を受けていたガウェインは座学もなく、精鋭クラスであるため許可さえあれば実技や鍛錬は自由に設定できる。とは言え、今回ばかりは狙ってこの時間を選んでいた事はコールにも分かっていた。


「まさか、俺達は不合格か?」

「……? どういう意味ですか?」

「期待外れなルーラーに人工精霊を持たせるより、お前や他の有望株が持っていた方がいい。任務中にでも事故を装って始末するんじゃないのか?」


 突如としてコールが入学した可能性として、一年という試験期間を受けて代表が不適正と断定したのではと、ガウェインは疑っていた。それはコールの一側面を知る彼ならではの推察であった。


「それは考え過ぎですよ。それならば普通に博士が人工精霊を抜き取り、他に回すだけです。博士の判断であるなら代表すら否とは言えませんが、何も通達がないのなら今のところは問題なしということでしょう」

「……」

「僕に関しても、ガウェインさんはご存知の筈です。人工精霊が(・・・・・)あってもなくても(・・・・・・・・)変わらないことを(・・・・・・・・)

「……お前に関しては、そうだな」


 抜き取ればいいかどうかは鵜呑みにはできないが、コールに関する指摘はもっともと合点がいく。


「それに後で皆さんのデータを拝見させてもらいますが、悲観するような数値ではない筈です」

「俺達の中で一番のベディビエールがお前に遊ばれていたぜ?」


 二番手争いをするガウェインも、先月にあったアグラヴェインとの手合わせに負けて三番手。そのアグラヴェインも、ただの一度もベディビエールには勝てていない。


「それでも、子爵級の魔城を攻略しましたよね。求められている成果を出している明確な証拠です」

「……そうか、そういう事か」


 ガウェインは魔城攻略作戦後から常に(くすぶ)っていた違和感に気付く。男爵級悪魔や魔物を肉薄する距離で見ていたからこそ、違和感は生じて今日まで胸が晴れなかった。

 子爵級を無傷で踏破は、到底できるとは思えなかったからだ。傷一つなく帰路に就く自分に、喜悦満面の笑みを浮かべる仲間と違い、苛立ちさえ覚えていたのは記憶に新しく残っている。


「お前だな?」

「何の事を言っているのか、省略し過ぎていて分かりませんよ」


 困り顔を見せるコールだが、ガウェインは確信していた。

 実のところ子爵級魔城は間引いてあったのだ。ペンドラゴンは成果を欲しており、無理にでもルーラーに完璧な攻略をさせる必要があった。

 だから、コールを動かした。悪魔喰らいの天使が鼻歌混じりに魔物を斬り刻み、ルーラーのゆく道を切り開いていた。


「実質、またお前が攻略したようなものだったんだな。気付けて良かった、感謝する」

「……勘のいいガウェインさんに、一つアドバイスを」

「なんだ?」


 認める発言は控えども(とぼ)けもせずに、変わらぬ微笑みを浮かべるコールはガウェインへと告げる。


「ルーラーや仲間達が必ずしも味方とは思わないことです」

「な……!?」

「いつ、誰が、どのような立場となっても倒せるよう心がけて鍛えるのが良いでしょう」


 意味するところは、ルーラーの中から裏切り者が現れる可能性。何を知っているのか、確信めいた口調で告げられた。


「……コール、お前は何を……どこまで知っているんだ?」

「今はまだ何も。ただしこの助言が意味を持つ日は、きっと来るのではと考えています」


 踵を返して肩越しに放られた言葉は、殊の外に重くガウェインにのしかかっていた。重く深く、ガウェインの胸に残ることとなった。


「それでは、また」

「……」


 コールは何を考えているのか、近寄り難い空気を醸すローズマリーへと再び声をかけに向かう。歩み寄るコールを察した表情を見ても避けられているのは明白だが、それでも気にする事なく。


「……」


 その様子を目にして、密かに歯軋りする者がいた。物語では見えていなかった人間性や劣等感が、当然ながら現実には存在する。

 彼女(・・)もまた本来なら語られない独特な裏側を持つ一人である。

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