27話、物語の始まり
エンタック国立軍学校。六年制のこの軍学校では三年の基礎訓練課程を終えた後に、高度な実戦訓練課程へと移行する。
彼等は言うまでもなく正規の軍人と同じ扱いとなり、実力や成績、教官からの評価や階級に合わせて難度を分けて、適当な任務が割り振られる。
しかし昨年の緊張感は常軌を逸していた。初めてルーラーが実戦任務に臨んだからだ。正式な発表時より世界が注目する帝国の人工精霊。それを宿すルーラーは帝国の歴史上でも類を見ない重要性を有していた。
そして今年、ルーラー達の二年目が始まる。
「【炎剣】」
特別演習エリアにて退屈を欠伸に表して噛み殺し、ガウェインは炎の大剣を繰り出す。軽々しく手を回す動作に応じて、縦に浮かぶ炎剣はその場で回転。炎の竜巻を巻き起こして、トリスタンへと襲いかかる。
「――!」
空虚な人形を思わせる程に気を鎮め、静の心で戦技を解き放つ。腰元に構える刀にて、居合斬り。それは雷魔法をまといて弾け、渦巻いて迫る炎柱を斬り払う。
「【雷切】の模倣版……」
「やはりデュエルが教えた戦技だけあって途轍もなく強力だな。あれ一本で、どこまでも昇っていけるじゃないか」
最前列の第一段観客席から手合わせを眺める他のルーラー達が、凶悪なトリスタンの戦技に思わず眉根を寄せる。
近接戦を苦手とする長い緑髪が鮮やかなガラハッドなどは、戦技の名を紡ぎながら唇を噛んで昨日の敗北を悔しんでいる。
対して生真面目なガラハッドと異なり、アーサーはトリスタンの成長を兄のように喜び、これからの伸び代に期待していた。
「ほっほ、素晴らしいですな」
「どこがですか? たかだかガウェインの小手先の技一つを破っただけではありませんか。馬鹿馬鹿しい……」
熊のような体躯を持つルーラーで、現在のところ最も強いベディビエール・ロック大佐が微笑ましく称賛すれば、次いで二番手を譲らない銀髪の美女アグラヴェインは、稽古を付けるようなガウェインの闘争を茶番と吐き捨てる。
「ガウェインは何を遊んでいるのです。私が戦えないのなら寮に帰りたいのですが」
「おお、こわっ。今日も姐さんの戦闘狂いは健在でっせ」
熱風に紫髪を揺らし、小柄な身体で縁に腰掛ける少年。銃器の天才にして、暗殺の申し子だ。
「……パーシバル、私と闘いたいならそう言えばいいでしょう」
「い、いや、止めとくっす……」
獰猛な笑みを浮かべて見下ろすアグラヴェインから顔を逸らし、軽口を慎もうとパーシバルは自戒した。
誰も彼もが一癖も二癖もあるルーラー。
観覧席の多くは、本日の訓練を終えたばかりというのに、ルーラーの訓練目当てで押し寄せるように埋め尽くされている。
「ガウェインさん、頑張ってぇ!」
「……凄ぇ……」
「まさかとは思うが……人工精霊など無関係に、卒業までには導師級に達してしまうのではないか……?」
異例のペースで戦闘能力を向上させていくルーラー達は、やはり選ばれし存在なのだと他の生徒達は日々感嘆の声を強くしていた。
その訓練光景を、上部に造られた貴賓観覧室から見下ろす人物がいた。
「……あいつらをどう見る」
「言葉を選ばず、率直に言うのなら……」
帝国代表ペンドラゴン・エンタックは肘掛けに頬杖を突いて、言葉短く隣に立つ男へ問いかけた。
「……強過ぎます。問題児も多いと聞きますし、他国に逃げられたなら危険極まりありません」
男の名前はボルス・コルメン。代表が目をかける優秀な大臣であり、次代の腹心となるであろうと噂されている大物であった。帝国内において実質的なナンバー三であり、ペンドラゴンを代表足らしめる立役者とされている。
「アーサー殿下やランスロット卿の御息女以外には、何らかの保険が必要でしょう」
「裏切りなら心配するな。もう手は打ってある」
「……しかし本人達ならともかくレオナルド博士が発明した人工精霊に関しては、戦略兵器のレベルに到達していると聞いていますが」
背筋が凍る報告であった。ルーラー四人による作戦行動により、男爵級ならびに子爵級魔城が攻略されてしまったのだという。
最高位の魔戦士である滅士級ならば可能だろう。けれど未だ未熟な少年少女が、子爵級を無傷で駆除してしまったのだ。
レオナルドという人類最高の天才が他国に生まれなかった幸運に、帝国の誰もが心から天に感謝をしているだろう。同時に他国はレオナルドという世界的危険人物に、彼もしくは彼女が死ぬまで恐怖することとなったのだが。
「あぁ、俺の想像も軽く超えてな。他国が持つ本物の精霊や兵器と真っ向から張り合える。帝国は間違いなく、他国から頭二つ抜けた」
「……」
精神的にも多感な時期であり、善悪の判断も曖昧。金銭などの欲をぶら下げられたなら、容易く籠絡できそうなものだが……。
けれどボルスにはペンドラゴンが確信を持っているように見えていた。
何より気がかりなのはペンドラゴンの“頭二つ”との表現。
「……そろそろ、動かすべきだろうからな」
心ここにあらずと言った風に、ペンドラゴンは口元に愉快げな笑みを浮かべて呟いた。




