表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/81

24話、二人の超天才

 ロロが研究員達により去り、残されたフルフルとコールが間近で対する。


「ふぅむ……先程は、何をしたのですか? くくく、とても人による攻撃とは思えませんでしたよ?」

「食らった通り、殴っただけだよ」


 それは有り得ない。人間がレベル104の悪魔を殴り飛ばすなど不可能だ。

 通常、寿命のある人間の限界はレベル八十から九十とされている。例えコールがレベル九十であっても、このような自然法則を無視した結果にはならないだろう。


(動きから察して……信じられないが、彼はレベル九十後半。しかしそれでも先ほどの打撃は説明できない)


 加えて一般的に悪魔のレベル九十と人間のレベル九十では、悪魔がより優れている。つまり、どの観点からも説明が付かない。


「……試せば分かる事ですねッ」


 人の腕を破り、薄汚い本性が姿を現した。悪魔本来の腕や指は細長く、しかし風圧で周囲に旋風を巻き起こす勢いで振られる。


「――ぐぅ!?」


 振り抜く間際に生まれた鈍痛は、横腹から生まれた。


「速度が売りなんだよ、俺は」

「ふむ……」


 しゃがむだけで容易く避けたコールにより、即座に腹へと拳を突き込まれていた。


「ほっ……!」


 飛び退くフルフルは、尻から生える炎の大蛇でコールへ噛み付いた。

 炎蛇は唸る胴長の体で体勢を整え、伸びる勢いを利用して長い間合いを瞬時に埋める。


「悪魔はどいつも芸がないけど、それでも緊張感があるからいい」


 軽やかに閃く刀は、天衣無縫に大蛇を斬り捌く。

 耐久性は低く、けれど斬撃性能の高い刀は一度目に大蛇の首を刎ね、打ち潰そうと轟々と振り回される燃える胴を着実に斬り飛ばす。間髪入れず切り捌いていく。

 片手にて軽快に振られる刀は、銀の軌跡を瞬間的に残し、火炎を飛散させて大蛇を輪切りに刎ねていく。


「ふむ……あなたをもっと知りたくなって来ました」

「なら早く調べた方がいい。悪魔は()きるほど殺して来たから、お前の最期も大体予想できてる」

「確かに見事な技ですが、それは(いささ)(おご)りが過ぎませんかな?」


 フルフルが人の皮を内から破り捨てる。真の姿は二足で立つ牝鹿(めじか)のようで、しかし腕は人間。尾には復元された炎の大蛇。そして蝙蝠(こうもり)を思わせる翼を生やす異形だ。

 大人一人と半分はある背丈で(そび)えるフルフルは、右手に雷。左手に嵐風を呼び起こして正式に対峙する。


『打撃の秘密が知りたい。どうしてもね……』

「何でか分かる? それは俺が怖いから――」


 フルフルの着ていた人間の血が飛び散る。雷の迸る右腕が突き出されるも、速度で上回るコールにより、両手で握り締めた刀が袈裟懸(けさが)けに振られた。その電流ごと斬り返してしまった。


『……』


 斬れる筈のない雷が斬られ、関心が深まるフルフル。皮を斬られて血を流したにも関わらず、無関係とばかりに左手にある暴風の渦を解き放つ。


「俺に触れられると思うな」


 刀を肩に担ぎ、涼しげな顔で待ち構える。纏わり付いたのは、赤雷。方向転換と加速の特性を持つ雷は、悪魔が放つ嵐をも跳ね除ける。

 感電するなり正反対に加速し、その流れを破茶滅茶に乱されて消え去った。


『シャァァァ!』


 瞬時の暴風を破り裂いて、フルフルの鋭利な爪が迫る。


「――」


 悪魔に過剰なステータスがあるように、人には技術がある。磨き抜かれた刀術はフルフルの爪を巧みに斬り払い、演舞を思わせる軽々しさで打ち合う。

 退がりながらも熾烈に刃が閃く。フルフルは魔法や戦技を使う暇も与えず、猪突猛進の圧力をかけ続けた。

 ここで刀の弱みが現れる。刃は悪魔のステータス任せによる攻め手を受けて限界を迎え、あえなくひび割れてしまう。


『――ここっ』

「っ……」


 フルフルの鋭い爪がコールへ突き込まれる。だが右腕は右側に逸れてしまう。人間にあるまじき魔法(赤雷)により、弾き飛ばされてしまったのだ。


『……』

「やるじゃないか。俺に【(いかずち)】を使わせるなんてさ。流石は爵位持ち」


 悪魔の腕を押し退けたのは、やはり先程の赤い稲妻であった。無敵の防御膜として人間に(まと)わり付き、迫る(ことごと)くを払っている。

 あらゆる攻撃が届かない。触れる事すら叶わない。


『なんて出鱈目(でたらめ)な……。しかし、魔法である以上は魔力が尽きれば使えなくなる。そうでしょう?』

「どうかなッ――!」


 お返しにと短く強く息を吐き、力みを引き出しながら右拳を突き出す。

 右足先を踏み締めながら捻ることで力が生まれ、腰が回り左脚へ体重が乗る。ただ突き出された右拳はフルフルの鳩尾にめり込み、悪魔の頑強な身体を打ち飛ばす。


 【適応・改】による人体強化だ。まだ世界が知らない未知のスキルは思わぬ産物として、長く実戦へ没頭して来たコールに飛び抜けた身体能力(フィジカル)をもたらしていた。


「俺は武器や戦技、魔法に頼り切りでいる物語通りの存在じゃない」

『ッ――! ――!』


 無音の高速移動戦技である【音無(おとなし)】に加え、空を駆ける戦技【空踏(そらふみ)】にて、素飛ぶフルフルを先回りして殴り飛ばす。

 また蹴り飛ばし、打ち飛ばす。

 跳弾するように六度も飛ばされるフルフルだったが、七度目は無かった。


『――ぐっ、図に乗るな!』

「――!」


 鹿角から雷光を放ち、怯んだコールを暴風を放って吹き飛ばす。抗い難い強烈な風圧に痺れながらも【空踏】を使用して体勢を整え、壁に着地した。

 新しい刀を取り出して壁に突き刺し、眼下のフルフルへと視線を戻す。


『……!』


 フルフルは全身から魔力を漲らせ、脇下から新たに二本の腕を生やしていた。

 全身はより細く、代わりに魔力は跳ね上がっている。まるで魔法に特化した形態であり、本来の姿だと主張しているようにすら感じる。


(……マズいな)


 フルフル程の悪魔に短期決戦で対するには、相応の魔法……つまりは【モードレンドの雷】を使う必要がある。

 けれどここには人工精霊があり、ロロや研究員といったか弱い存在がいる。この広いとは言えない空間に、帝国の命運を左右するものが集まっているのだ。

 下手に高威力の技は使えない。現に【赤雷】で暴風を逸らした際には、研究員達は吹き飛ばされかけていた。

 しかしそれは、コールの側のみだ。フルフルはロロさえ無事ならば、どのようにしても戦える。


『ハッハッハ! さぁさ、久しぶりに戦い甲斐を感じているのです! もっと私に貴方を教えてください!』


 全身から……特に二つの角から電撃を散らし、雷雲の中にいるように空間内を嵐で満たす。


「うわっ!? くっ……これが悪魔だというのかッ!? 自然を操っているではないか!」

「は、博士っ! 早くこちらへ!!」


 研究員達の声音が雷鳴を()ってコールの耳に届く。フルフルから目を逸らさずに、視界の端に集中すると小さな影が何か作業をしていることに察しが付いた。


『ふははははぁ! 心配など不要なのだよ! 我輩の白衣は電流を通さない!』


 高速で手を動かし、一機の人工精霊を前に嬉々として手腕を奮う。その指先は寒気がするほど素早く、その作業量は見ているだけで吐き気すらするものだ。


「い、今の間に調整を終えるなど不可能です! 博士でもあと三年はかかるのでしょう!?」

『それは全機のパワーバランスを整え、改良に改良を重ね、我輩が完璧と断言できるまで調整した際に要する日数なのだ! 差し当たって運用するとなれば、一機ならば残り一分で完了してみせるとも!』

「一分!? いっぷんっ!?」


 手元には二つの水晶があり、包むように手を乗せるロロの指先に従い、ある人工精霊が分解状態から形態を変える。

 通常は数日をかけて、複数人により部位ごとに組み立てる作業を、異常箇所を探しながら時に修正し、たった一人で次々に組み立てていく。


「――!」

『目の色が変わりましたね』


 目付きを鋭くしたコールの速度が上がる。中隊規模で対する悪魔と、たった一人で殴り合う。

 燕のように飛翔する斬撃を放つ【飛刀(ひとう)】や火魔法を駆使して、フルフルを削りにかかる。

 雷と嵐を操る大悪魔と帝国史上最強の魔戦士が、いよいよ持てる力を解放して激突する。

 研究施設全体を揺るがしながら、刃と雷風がぶつかり合う。肌を焼かれ、肉を斬り裂かれ、しかし二人は笑いながら力を解き放つ。


『これは素晴らしいッ!!』

「――」


 異常な速度で跳躍して斬り付けるコールへと、フルフルが電撃を束ねた光線を放つ。間近に迫っていたコールは奔流(ほんりゅう)となった雷光を右に持つ刀で、斬り裂いた。

 鍔迫り合いにも見える押し合い、雷電は周囲に拡散して一切を焼き焦がす。


「うぁぁぁ!? は、博士ーっ! もう危険です!」

「はやくっ、早く避難してください!!」


 身に迫る危険は本物であった。先程よりも遥かに死を強く感じる研究員達は、物陰に互いを押し付け合い、懸命にロロへと叫ぶ。


『……』


 人類を置き去りにして加速する思考。加速度的に回転する試算。

 完成間近に差し掛かった天才の耳には、雷鳴も叫びも届かない。無音の世界で人工精霊と対話していた。この世界で未来のルーラーを除き、全ての人工精霊を操作できるただ一人の存在。それは当然に、この世に産み出した母に他ならない。

 そして今、初めての完成機が産声を上げる。


『さぁ、行こうか―― 【恐ろしき膂力の隻腕ベドウィル・べドリバント】』


 二つの水晶の狭間から、培養ケースへ手を当てる。魔力を流し込み、母を感じさせる。


『兄妹と仲間達を護るのだ、不甲斐ない我輩に手を貸してくれ……』


 二人の天才が、ついに真の力を見せ付ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ