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21話、ストーリー通りの展開


「……博士、何を高笑いしているんです?」

『むっ? なんだね、何の用なのだ?』


 姉代わりとなって五年も経つクロエ・ナリタが入室していきなり、嘆息混じりに声をかけた。五歳にも満たずして孤児院にて頭角を表し始めたロロを、代表が見出してからの仲だ。


「お昼です、さっさと部屋に戻ってください」

『ふむ、メニューを聞こう』

「ホワイトシチューです。というか、博士が注文したんでしょう?」


 嫌々に付き合っている風だが、何年も献身的に身の回りの世話から護衛までこなすクロエには感謝して止まない。


『では、頂くとしよう』

「私は洗濯をしているので、溢さないように」

『し、失敬だな、君は! 幼児と混同するのは止めたまえ!』

「あなたはいつまでも幼児ですよ」


 ロロは親に捨てられた事を知ってから人間不信であった。誰とも顔を合わさず、ただ研究に打ち込む日々。クロエやアイザックと言った信じられる者のみとだけ顔を合わせ、最低限の人付き合いしかしない。

 特別に割り当てられた部屋は家も同然で、片付ける事を知らないが故に散らかり放題だ。脱ぎ散らかされた衣類を拾い、洗濯に向かうクロエを見送り、ガスマスクを外す。


「……いただきます」


 現れたのは、丸い目をした筆舌し難き愛らしい少女であった。庇護欲を掻き立てる可憐さで、小さな体躯と相まって人形のようである。

 ガスマスクという“賢き者”の仮面を脱げば、再来の気弱で臆病な本性が露わとなっていた。


「……あむっ」


 ガスマスクは何不自由なくとも、普通に重さは感じる。解放感を満喫しながら昼食を黙々と口に運ぶ。広い室内で一人の食事。何年も変わらず、部屋に生まれるのは自分が食器を打つ音のみ。


「……ごちそうさまでした」


 孤児院の習慣から、食後の感謝を口にして昼食を終える。

 そして夕食の希望をメモして食器と共に残しておく。


『……よし、それでは調整に向かうとしようか!』


 時間があれば人工精霊に向かい、開発調整の毎日。取り憑かれたように研究に没頭し、外出は必要なデータを取る際のみ。


『ふむふむ、やはり現状最強の人工精霊である《擬似赤龍(ウェルズドラゴン)》には更なる火力が必要だろう。もう少し銃火器を付けなければな』


 工具を手に鉄くずの山へ向かい、部品を掻き集める。倒れた事など一度や二度ではない。怪我をした事も幾度となくある。けれど研究を止めるわけにはいかない。

 本物の天才であるロロはそれをよく理解していた。


『んしょっ、よいしょ……!』


 小さな身体で鉄塊を引き摺り、運べない物は機械を操作して、たった一人で(・・・・・・)人工精霊を改良していく。任せているのは管理と経過観察に関する報告のみ。

 誰の手も借りず黒板にメモを取り、計算して更なる解を模索する。人工精霊開発以前から続く独自の手法で、ロロはまた時代の先を行く兵器を誕生させる。


「博士、もう夕食の時間です。いい加減に食べちゃってください」

『むっ……もうそんな時間だったか。時の流れは早いものだ……』

「それはそうでしょう。毎日毎日、同じ事を繰り返していれば、あっという間に時間が過ぎていきますよ」


 ポケットから軟膏(なんこう)を取り出し、切り傷のあるロロの手の甲に塗り込む。


「はい、ではお部屋へどうぞ。それと後で見に行きますが、きちんと寝るように。抜け出して研究など考えないでくださいよ」

『わ、分かっているとも!』


 半ば閉じた眼で忠告を促し、クロエは先んじて部屋へと歩む。飾り気のない廊下(ろうか)を歩み、他の研究員や警備員なども立ち入らない隔絶(かくぜつ)されたエリアを進む。

 昼食を()った部屋へと戻り、用意されたハンバーグのあるテーブルへ向かう。


「……博士、何かあったようなので私は一般研究エリアに行って来ます」

『うむ、良きに計らうといい』

「戻らないかもしれないので、日付が変わる前にはベッドに向かうように」


 微かな騒々しさに気付いたクロエが、部屋から去った。


「……いただきます」


 ガスマスクを外し、また黙々と料理に手を付ける。連れ出される直前に孤児院で教わったナイフとフォークの使い方。誰に文句を言われるでも、褒められるわけでもないが、上手くなったように思う。味はいつも通りに美味しい。不満はない。いつもの夕食を食べ進めながら、どこまで終わらせるか作業の目処を立てる。


「――博士」

「ど、どうしたの……? そんなに怖い顔をして……」


 慌ただしく駆け込んだクロエに驚いて跳ねる身体。すぐさまオドオドと問いかけるも、いつもと異なる夕食時に不安を掻き立てられる。


「侵入者です。警備兵が次々と殺され、このエリアに近付いて来ています」

「……し、侵入者っ……」


 顔から血の気が引いていくのが、自分でも確かに感じられる。自惚れではなく、目当ては自分と人工精霊だろう。何処からか情報が漏洩したに違いない。

 しかもこの研究所の存在は秘匿とされており、務める警備兵は最高ランク。滅士級(クラス・エース)に次ぐ、導師級クラス・マスターばかりだ。

 その警備兵達が足並み揃えても、容易く殺害できる侵入者……。


「急いで避難します、こちらへ」

『……わ、分かったとも!』


 震える手でガスマスクを装着し、抜けそうな腰に叱咤(しった)してクロエに駆け寄る。


 ♤


 狭い廊下で陣形を取り、前列に銃火器を持つ魔戦士達が膝を突いて構える。


「撃てっ、撃てぇーっ!」


 剣を手に前線へと指示を出す警備隊長。厳重な警備をどうやって抜けたのか、研究員の姿をした異質な男に銃弾を浴びせる。


「効きません、効きません。レベルが違うのですから」


 (しゃが)れた声で歩む中年の研究員。弾丸は確実に肉体を貫くも、その歩みが止まる気配はない。まるで友人にハグを求めるような気軽さで、警備兵等の元へ歩み寄る。

 その様は奇妙極まりなく、途轍(とてつ)もない不安感が煽られるものだった。


「やはり銃器は効果なしか……」


 高レベルに通常の銃器は通用しない。むしろ戦技や魔法で殴った方が効果的というのは、誰しもの知るところである。

 隊長の魔力が高まるのを察して、部下等は次々と剣や槍を虚空より取り出す。誰も彼もが鍛え上げた技を自負しており、精鋭である自覚を持ち、帝国兵として与えられた使命を疑わない。

 全員がレベル五十を超える超人なのだ。


「……」


 隊長の(かざ)した剣が発端(ほったん)となり、先ほどの弾丸を彷彿(ほうふつ)とさせる勢いで魔戦士達が駆け出した。直進し、壁を走り、天井を蹴り、侵入者へ様々な角度から刃を見舞う。

 即興でこれだけの連携をこなし、十全に戦技を繰り出せる事そのものが、導師級(クラス・マスター)たる証であった。


「――ですから、レベルが違うのです」


 それを目にしたのは隊長含め、後衛に位置する四名の隊員達。男の背後から這い出た……炎に包まれた大蛇。魔法なのか戦技なのか、はたまた飼い慣らした魔物なのか、大蛇はまず上段から迫る槍を持つ兵士に噛み付いた。


「がぁぁ――」


 激痛に叫ぶことも叶わない。そのまま二度だけ首を振り、周囲の隊員達ごと猛る炎により焼き焦がしてしまった。人型であった黒炭が散り散りに地面へ舞い落ちる。


「……」

「まさか……悪魔、なのか?」


 たじろぐ隊長の怯えを(はら)む声音に、侵入者は……笑った。

 瞳が人のものから様変わりし、鹿のような横長の無機質なものへ。血を噴き出しながらに翼を広げ、雷と嵐を()き散らしながら人の皮を(やぶ)る。

 《夜の王》により爵位を与えられ、二百年の時を生きながらに二十六の軍団を持つ大悪魔が現れる。


 難敵出現。

 レベル104、伯爵級悪魔・フルフル。



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