20話、人工精霊の母
『我が何をした!? いきなり現れて何故コロス必要がある!!』
「……あなた、僕を見て摘み食いしようとしましたよね」
『……』
「はい、死にましょうね」
『ヤメロぉぉぉ!!』
土壌を抉り、木々も薙ぎ倒し、派手に足掻く悪魔だがコールの歩みが止まる事はない。足元に赤光の静電気らしきものを響かせ、軽々と悪魔を引っ張って来る。
「……こ、これがっ、男爵級なのかっ?」
「悪魔は男爵級でも破格だ。私でも油断できない。できないのだが……」
腰が抜けたガウェインを責めることはできない。こと悪魔に関しては、恐れるなというのは無茶な命令だ。
そしてその悪魔を引き摺るコールなどは、ランスロットの脚も震える所業を涼しい顔をして行っている。
「さっ、テストでも何でも行ってください」
『ぎゃぁぉぁぁ!?』
掴む手を振り上げて巨体を浮かばせた瞬間、コールの右手が搔き消え、悪魔の手脚が斬り飛んでしまう。薄汚い血の毒液を撒き散らし、二人の前へ落下した。
ガウェインはこの日、人工精霊にて悪魔討伐を完遂する。太陽の化身と化す【ガラティーン】により、男爵級の悪魔すら容易く炭と燃やした。
「これは驚いた。僕の火魔法くらいの火力がある。流石は人工精霊だ」
「……どうしてお前は人工精霊と同じ火力を出せるんだ」
素直に驚嘆を表すコールというのも珍しくもあるが、人工精霊と同威力の魔法を持つという発言が、どうしても引っかかってしまうランスロットだった。
「う〜ん、おかしいな。俺が知ってるのより強いんだけど……」
後に続いたコールの呟きを聞き取れる者はいなかった。
その日を境にガウェインの自惚れは消え去り、悪魔と戦うルーラーとなるべく血を吐く努力に励むようになる。
彼曰く、悪魔を喰らう天使と出会ったからだそうだ。
人工精霊のプロトタイプが実地試験を終えた。
後日、ランスロットとガウェインは副主任であるアイザックに現地での詳細や体感を報告していた。
「火力は高い。だがやはり当初からの懸念の通り、敵の動きを一時的に止める必要がある」
「それは仕様と捉えるしかありません。宿主が人工精霊を現界させるだけの魔力を与える時間がかかりますから」
人工精霊という歴史的発明は、魔鋼列車を作るようなオイル臭く熱気の立ち込める工場とは違い、近代的な施設内で何らかの液体が入った容器を使い、緻密な作業により生まれていた。
白い清潔感のある地下施設。代表肝入りの一大プロジェクトである事が、施設全体の規模と設備から感じ取れる。
「問題はない筈です。隊規模で常に行動するルーラーには、補佐する人員が必ずいます。今回のランスロット殿のように」
書類が山積みされたデスクに座る眼鏡の男、アイザック・ガスコイン。垂れ目の下に隈を作り、副主任として激務に明け暮れていると容易に予想させる。
「今回なんて、ランスロット殿とガウェイン君だけで男爵級魔城を攻略したのでしょう? 聞いた時には顎が外れるかと思いましたよ。流石は湖の英雄だ……」
「まぁな」
寡黙なランスロットからは素気無い返答だったが、助けられたであろうガウェインは居心地悪そうに顔を顰めている。
「……分かりました。報告に感謝します」
「いつ頃に他の人工精霊と揃って運用可能だ?」
「あと五年…….いえ、三年もあれば全てを送り出せると考えています。あと少しで彼女の理論を完全に理解できそうなので、おそらく三年程度で……」
独り言となった後半は何を言っているのか聞き取ることも難しく、顎に指を当てて独自の世界に入り込んでしまう。主任には誰も会った事はないが、謎に包まれた人工精霊の開発者もこのような奇妙な人物なのだろうか。
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『――我輩が地上に生まれた唯一の正解っ、ロロ・レオナルドであるッ!』
ガスマスク越しに自身の頭脳が如何に優れているかを叫んだ。その銀髪の煌びやかな少女は、自らが一から生み出した人工精霊等の入った培養液を見上げ、腕組みして感嘆した。
『我輩、スゲェ……』
毎日の日課である自画自賛を発する。
『普通、こんなの作れる? いやいや、ハハハ……作れないとも、有り得ないとも。我輩ってスゲェ……』
薄暗い室内で培養液のみが照らされ、我が子とも言うべき人工精霊達が幻想的に光り輝く。ここは第三開発部秘密基地。本部の他に、ここでも三機の人工精霊が開発されている。
『……《擬似赤龍》……』
赤く鮮やかで、高潔さを感じる勇ましい機械龍は、まさしく帝国の守護神である。
『…… 《恐ろしき膂力の隻腕》……』
力を象徴する鋼色の隻腕が、主人の敵を粉砕するであろう。
『……そして、《愛しき人よ》……』
唯一の依頼された人工精霊である、女性を模した白い機械人が母を見下ろす。
『……』
母は三機の強力無比なる超兵器を見上げる。世に出れば世界の在り方が変わり、戦争が変わる。時代の転換期となる事は確実だろう。
『……ハァーッハッハッハッハァ! あと一週間もあれば完成させられるだろう! 待っているといい、子供達よ!』
拳も剣も銃も薬品も、たとえ化学反応や人材であっても正しく使われたなら平和への架け橋となる。争いの火種ではなく、魔城攻略の兵器として我が子を生み出し、完璧に調整する。
この歴史的才能は、身勝手にも天下泰平を余儀なくできる。
《夜の王》すら警戒し、帝国代表ですら気を遣い、〈空の器〉ですら恐れる程の人物。謎のベールに包まれたレオナルド博士。それがこのような少女だなどと、誰が予想できただろうか。
『ふっふっふ、自分の知能が怖くもあるな。ふははははぁ!』
ロロ・レオナルドの名前が、歴史に刻まれる。二百年先を呼び込み、時代を進めた最たる偉人として。人類史最強の戦士と謳われるコール・モードレンドと共に、長い歴史で唯一無二の存在となる。
……そうなる筈であった。
黒々とした悪意が迫る。それは孤独にして孤高の天才を悪魔の玩具へ貶め、物語に悲劇という彩りを添える。




