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19話、主人公の二人目

 ガウェインが呼び出されたのは、とある上官の元であった。代表の甥にあたる人物で、アーサーと並び早くから魔法の才覚に目覚め、最も早くルーラーに抜擢(ばってき)されたガウェイン。

 成長は早く背丈は既に大人ほどもあり、色黒に赤茶髪と内面の苛烈さを表すような風貌である。


「人工精霊のプロトタイプ『ガラティーン』……」


 前日にその身に宿った人工精霊の名前であった。デスクを挟んで座るランスロットは、敬礼して応えたガウェインへ続けて語りかけた。


「……健康状態には影響ないようで何よりだ」


 デュエルと並び立つ英雄を前に、ガウェインの顔色は珍しくも緊張を表している。


「ガウェイン、今から私と二人で魔城に向かい、【ガラティーン】の実地テストを行ってもらう」

「……!?」


 思わず怯んでしまい、それはランスロットにも伝わったことだろう。


(二人で魔城だと……? 普通に考えれば死ぬだけじゃねぇかっ! 冗談じゃねぇ!)


 魔城には確実に悪魔がおり、手下の魔物が待機している。仮に最低位の男爵級と言えど、場合によっては一個大隊すらも壊滅させかねない危険性を有している。

 いかに《湖の騎士》ランスロットと共にとは言え、死地に飛び込めという命令をすぐには受け入れられなかった。


「……十四だったか。年齢も年齢だ。その反応も理解はできるが、軍人としては即座の了解を口にして欲しかったな」

「……」

「安心しろ。代表が特別に人材を手配してくださった。その者と三人での任務となる」


 期待が外れたとする直接的な物言いに、反骨精神から(まゆ)(ひそ)めるもランスロットは構わず立ち上がった。彼は引き出しから一枚の書類を取り出し、デスク上を滑らせてガウェインへと差し出す。


「……その者は帝国で最も機密性の高い人物だ。その者に関する如何(いか)なる情報も口外しないよう、誓約書を書いてもらう」

「……」

「代表や一部の者しか知らない機密だ。破れば君の想像を遥かに超える罰則が下る」


 二名が三名となろうと大した違いはない。そのような事は魔城の知識がある誰もが容易に予測できる。

 だが誓約者まで持ち出すランスロットからは、何ら巫山戯(ふざけ)た様子は見られない。


「署名しないのか?」

「……します」


 ランスロットの差し出した書類はペンドラゴン代表の名前を持ち出されたこともあり、強制力のあるものであった。ルーラーとして避けては通れない道として、ガウェインは文面に目も通さずして自署した。


「よし、ついて来い」

「……了解」


 それからはランスロットの運転する二輪魔鋼車の後ろに乗り、目的の魔城へと向かった。

 帝都キャメロットを出発。休みなく街道を疾走し、一時間で荒野に出る。そこからまた二時間で、とある木漏れ日の射す森に到着した。


「……ここからは歩いて向かう。武器は?」

「ここに」


 魔法主体ながらも武器携帯は必須だ。腰元にある手に馴染む比較的大きなダガーを手で叩いて見せる。


「よろしい。使うことはないだろうが、如何なる時も備えは怠るな」

「足手纏いにはなりません」

「使うことがないというのは、お前の実力を疑ったわけではない。気性の荒さが言動に現れているぞ」

「……」


 無言で頭を下げ、形ばかりの謝罪をする。アーサーと共に師事するデュエルと比較されるランスロットは、敬意はあってもいずれは超えるべき壁という認識だ。数年でランスロットを超え、その後はルーラーとして帝国屈指に上り詰める自信がある。馴れ合うつもりはなかった。


「……あいつを見たら、その元気も無くなるだろうな」

「……?」


 嘆息混じりに意味深な言葉を残して、剣を腰に差したランスロットが歩み出した。言葉の真意は察せないながらも、あいつ(・・・)がその三人目であることは分かる。


(……誰なんだよ)


 無意識な恐れから苛立ち、頭を掻き乱してランスロットの後に続く。木々を抜け、道無き獣道を行く。レベル十五越えの身体能力で小川も飛び越え、五分ほど進んだ先に、その姿が現れた。


「――」


 呼吸も忘れて目を奪われる美性がそこにあった。岩に腰掛け、(かざ)した指先に留まる小鳥を眺めるその少年。


「コール、遅れてすまない」

「……いえ、ランスロットさんは回りくどい物言いをして遅れるだろうなと予想していましたから」

「そ、そうか……怒っているのか?」

「はい、少し」

「すまん……」


 親しげに話す天使のようなその少年を、ガウェインはよく知っていた。


「こ、コール・モードレンドか……?」

「お久しぶりです、ガウェインさん。あなたが一人目のルーラーに選ばれたようですね」

「あ、あぁ……」

「おめでとうございます。では行きましょうか」


 立ち上がったコールは、自分の胸元ほどの身長しかない。加えて軍学校に通えない病弱体質で、床から起き上がれない状態の筈。


何処(どこ)に……? そもそもどうしてお前がいるっ」

「コールは病弱などではない」


 多くの疑問を解消したのは、隣り合うランスロットであった。


「コールは三年前から特別任務に就いている」

「……はぁっ!?」

「詳細をお前は知ることができない。だがこれだけは言っておこう。コールは九歳の時にはあのデュエルに勝利し、既に国の極秘任務を任されている」


 夢物語を聞かされる。自分より歳下のコールが実は九歳で最凶の番犬であるデュエルを越え、機密扱いで魔城攻略の特殊任務を遂行していると言う。もしこれが事実なのだとしたら、コールは天才などではない。

 ただの化け物だ。


「……」

「……ランスロットさん、僕は悪魔を引き摺り出して来ます」


 放心する自分を一瞥(いちべつ)したコールは、さも興味もないとばかりにまた耳を疑う発言をした。


「何っ!? な、何を言っているのだっ!」

「人工精霊のテストでしょう? ここは悪魔が一番の実力を持っています。なので僕が捕まえて来ますよ」

「待て待てぇ! お、お前の判断ならお前は無事だろうが、こちらに魔物が来たらどうするつもりだ!」

「何の為にランスロットさんが付いて来たのですか? それに折角(せっかく)ここまで来たのですから、ガウェインさんも魔物と戦う経験をされては如何(いかが)ですか?」

「ぐっ……!?」


 詰め寄るランスロットの動きが止まる。(かざ)した手に刀を生み出し、酷薄な微笑を見せるコールに否応無しに動きを止められる。


「それでは行って参ります。一体だけ魔物を通すので、ガウェインさんを見てあげてください」

「弱いのを通すのだぞっ?」

「意地悪で言っているのではなく、経験になるからだと言っています」


 刀を逆手に持ち替え、暗闇に閉ざされた森林型の魔城へと踏み込んでいく。あまりにも小さな背が、森の奥へと消えていった……。


「……心配するな。ここは新しく生まれた魔城で、しかも(ぬし)は低難度の男爵級悪魔だ。コールに付き合わせるのも申し訳ないくらいのな」

「あいつは……」


 続く言葉は無い。魔城への恐怖よりも、次元が違い過ぎて理解が追いつかないコールへの恐れが勝ってしまう。悪魔よりも遥かに得体が知れない。人類の持ち得る可能性を全て詰め込んでいるかのようだ。


「……ガウェイン、来たぞ」

「っ……」

「遅いっ。魔法を備えろ、早くっ……!」


 コールの真実から立ち直れない精神状態で、駆け寄ってくる影を捉える。けれどランスロットの指示するままに、反射的に火魔法を構成し始めた。


『グギュ!? に、ニンゲン……』

「ゴブリン……」


 現れたのは、人型をした魔物であるゴブリンであった。先程のコールと同サイズで恐れるに足る魔物ではない。


「油断するな、アレはコールから逃げている。生き延びるには我等を殺すしかない。そのような魔物はいつでも危険だ」


 叱咤するランスロットは氷結系統の魔法を片手に用意し、補助の体勢を整えた。


「……【火剣(レ・ヴァ)】」


 素早くダガーを引き抜き、左手に炎の剣を生み出した。ゴブリン如きに遅れを取る程度だとされ、炎剣は静かな憤りを表して激しく猛る。


(ちり)も残さねぇ……!」


 こめかみに青筋を浮かべ、渾身の投擲(とうてき)で火の剣が撃ち出される。焼き切ることもできるが、接触後に爆発させることも可能だ。今回のゴブリンは火達磨(だるま)になって燃え尽きることだろう。

 しかし矢の如く突き進む火剣は、(わず)かに手前で爆発する。


「なっ――!?」

『グギャァァァ!』


 ゴブリンの投げた棍棒により火剣は爆発させられ、その爆炎を突っ切ってゴブリンが飛び掛かって来た。


「ヤバっ……!?」

「魔物も必死だ。生き延びようと知恵を働かせる」


 控えていたランスロットが雹風をゴブリンへと浴びせ、氷像として撃ち落とした。


「……」

「いい教訓になったな。コールに感謝することだ」


 レベル十五の自分は、精々がレベル十のゴブリンに決して負ける事はない。その固定観念が実際の戦闘により書き換えられた。


「悪魔は魔物より遥かに狡猾(こうかつ)で強力だ。だから――」

「――僕を呼びましたか?」


 暗闇から、コールが戻った。その壮絶な光景はガウェインの記憶に焼き付くことになる。あまりに異常で、鮮烈で、あまりに現実離れしていた……。


『ヤメロっ、お前も悪魔なのだろう!?』

「違います。正真正銘の人間です」


 身の丈の三倍以上はある黒く毛深い巨大な生物を、脚を掴んで引き摺るコール。悪魔は傷付いた様子もなく、無傷ながら必死に地面を掻き分けて逃げようともがいている。


「……」

「おっと……!」


 悪魔という生命体を初めて目にして、ガウェインの腰が抜ける。


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