16話、修行しました
「ま、とは言ってもなんだけどね」
コール君、十歳。軍服姿で墓地の前に立つ。
魔城化してしまい、埋められた死者が魔物として徘徊し始めた『カルカンド墓地』に参上つかまつった。ペンドラゴンから回される依頼をこなして、戦闘技術向上と実戦経験を積む。
「よし、準備できてるか?」
「コール君が教官だったんだね」
俺と同じ特殊部隊員の軍服を着用したレイチェル。また暫くは俺の元で魔城駆逐の訓練をする事になっていた。
「部隊長として完璧に育てる事も条件だからな。俺が育ててるって聞いてレイチェルにも期待してるんだろうよ。多分、かなりいい地位を手にできる」
「私の人生設計通りに向かっているわけだ。とても喜ばしい待遇だね」
メーン博士を経験した俺達にとって、並の魔城なら既に問題外。
だが中には油断できないものや、知識がないと倒せないものもある。そうくれば、ここにこの世界における知識の巨人がいるのだから話は早い。
「手頃な魔城をやったところで、もう俺等ではなかなかレベルは上がらないけど、実戦経験ってのは戦技や魔法より重要な要素だと思う。気合いを入れて任務に取り組むように!」
「わん! 了解だよ、ご主人様」
ニッコニコで鳴いて応える愛犬。軍服の胸元は盛り上がってパッツパツで、おまけにえらい美人な猟犬である。
遊び場が魔城になり、遊び相手が悪魔となる。振り返って墓地型の魔城に入場しながら、部下となったレイチェルに問う。
「じゃあ確認するけど、魔城って何?」
地面から無限に生まれて殺到する魔物化した骸骨軍団を斬り、直進して木にぶら下がった悪魔らしき蝙蝠怪人へ向かう。
「悪魔が造る自身の領域だね。自身の魔力を割いてその空間から生まれた魔物は、眷属。魔城は自分の楽園そのものとなる」
「メリットは?」
「魔城の主である悪魔を倒し難くなる。悪魔を倒さなければ魔城は消えず、大地は悪魔の魔力に侵略されていく。そして魔城は大きくなるものもある」
「あとは逆に魔城から悪魔自身が移動できなくなるデメリットもあるね。単純に魔力を割いて弱くなってるわけだからね」
「狙われ易くもなるだろう……こんな風にね」
あ、この間に骨の魔物と悪魔を斬り殺してしまった。超音波攻撃も【破魔の剣】があれば問題なく斬れる。「えっ?」みたいな感想を漏らす悪魔をぶら下がる股間から頭を真っ二つにした。
「あとは忘れずに魔晶を回収すること」
刀の切っ先で悪魔の死体をぐぢゅぐぢゅと探して、力の根源となっていた宝石を取り出す。
強烈な魔力光を発しているこのパープル色の結晶体。ペンドラゴンのみならず、世界各国はこの資源を切実に求めている。
「……俺って時々密かに魔城でも遊んでるんだけど、賢い悪魔の魔城は、悪魔の位が低くても難易度が高くなる事に気付いた」
「それはこいつみたいな男爵級でもかい?」
「こいつみたいな男爵級でも。面白いよな。ほとんどの悪魔はここみたいに、ただ魔物を量産する事に自分の能力を割いて組み立てる。けど頭が回るタイプは罠とか、自分より強い魔物とかを生み出して護衛させたりしてた」
「じゃあ魔物が少なかったり通常と異なったりしていると、要警戒って事だね」
「そういう事。他にも色々とタイプがあるから、全部警戒はしなくちゃいけないんだけどな。まっ、全部このコール様がレイチェルにだけ特別に指導してやるよ」
刀の刃で魔晶を転がしながら、振り返って冗談混じりに言う。
「やぁんっ! 急に目を合わせちゃダメじゃないかっ。キュンキュンしちゃう!」
「え、そこ?」
初の任務、初の魔城ともあり軍服姿で気合いが入っていたのだが、ついに愛情が溢れ出て抱き締められる。
とりあえず、実戦や過程は見学させた。そこで軍に正式採用されたレイチェルに、諸々の注意をしておく。
「結社の事だけど……軍にも手は回ってる」
「……!」
「それだけじゃない。《夜の王》もまたエンタック軍と繋がってる」
レイチェル側から変に接触しなければ害はないだろう。だが仲間に引き入れられるなどのアプローチを受けた際に知らなければ、うっかり引き摺り込まれかねない。
「俺の分かる範囲で今から言う人物とは距離を置きな。碌な事にならないから」
「……分かった。聞かせて欲しい」
神妙な面持ちをするレイチェルに、危険人物を列挙していく。
「まず、ペンドラゴン・エンタック」
「代表が結社に関与しているのっ!?」
「ううん。代表は小物。でもあいつはあいつで悪事を企んでるから、何かされそうになったら俺のとこに逃げておいで」
「……了解だ」
「言ってなかったけど、実力は常に俺の父親より下であるように振る舞った方がいい。じゃないと面倒に巻き込まれ易くなる」
「うん。肝に銘じておくよ」
ペンドラゴンなんて可愛い方だ。野心家って言っても、世界の歴史に名を刻もうなんていう可愛いらしいものなのだ。
本当に危険なのはペンドラゴンに隠れている方。そして悪魔達。
「あと三年で人工精霊が誕生する。それを境に様々な勢力が活動を始める。ペンドラゴンはその一人だ」
「人工精霊……」
「それまでは信頼を得て、レベルの高い魔城を任せられるよう上手くやっていかなきゃな」
「結社や《夜の王》から生き延びる為に?」
「そうだ」
そこそこ主人公達の物語を楽しんでから、コールとして結社や悪魔達と戦う快感。激強キャラを壊した時に貰える経験値で、どこまで強くなれるのかも楽しみでならない。刃に映る若きコールを見て、未来を夢見る。
「……」
「……うん? どうした?」
レイチェルらしくない昏い瞳をしているので声をかけてみた。
「ん? 何でもないよ。それより危険人物について教えてもらえるかな?」
「そうだった。今後一番ヤバいのは言うまでもなく《夜の王》とかの魔王達な。けどそれだけじゃなくて、人工精霊を宿す英雄達の中にも――」
この日から三年間に渡り、時に共に、時に別々の魔城を攻略する。無難な魔城は最初の三ヶ月のみ。徐々に難易度は上がるも許可されるのは安全に倒せる範囲で、苦戦するのはレイチェルばかり。強くなるのもレイチェルばかり。
俺だけ経験値はあまり入らない。俺のレベルアップは以前と同じく、レイチェルを誘って俺の知識によるものに頼りきりとなる。
「コール、代表との約束は覚えているな?」
それでも着実に成長していく最中、屋敷に帰ると適当にドタキャンしようとしていた約束を、父デュエルが掘り起こして来た。
「……面倒なのでお父様が代わりに行ってください」
「増長するな。すぐに行け」
十三歳コール、背も伸びました。明日は久しぶりにノックブランドに行くつもりで、早く寝たいというのに外出が決まる。
あちらから来て然るべきだ。それだけの結果は出している。既に歴代最高の魔城踏破数を誇り、秘匿とされる身で知る人ぞ知る俺は“人類史最強の兵士”と呼ばれていた。まだまだ本格的な経験値稼ぎを行っていないのに、気の早い事だ。
やった事は好き嫌いせずに悪魔や魔物相手に、刀と魔法を用いた戦法で戦い抜くことだけ。レベルによる強化に胡座をかかず、魔戦士として強くなったと自負している。
その成果は、以下の通りだ。
[名前]コール・モードレンド
[レベル]98
[戦技]【飛刀】【斬風】【死突】【音無】【空踏み】
[魔法]【龍火魔法レベルII】【コールの赤雷】
[持ち物]妖剣・村雨、菖蒲一文字、銀刀・セセラギ、ポポタンの目鯨、ムンガムンガソンの小枝、ドドンガスのちょんまげ、セミの抜け殻、スルメイカ




