14話、博士に会おう(暴走状態)
そんなこんなで翌日、ノックブランドの駅に集合。魔鋼列車を乗り継いで六時間半かけて、マウントケレックにやって来た。
「この森林にその施設があるんだね」
「そういう事。ま、発見されて暫く経つから、そろそろ国軍がいなくなってくれてるかもだけど、警戒していこうか」
「了解」
暇な時間に戦闘を教えてある上に、勝手に殺しも経験してきてくれたので非常に有り難い。
それに奴から逃げ回って過ごした後、野営する時に誰かいると会話ができる。一人も気楽だが、テント設営や調理といった作業という面でもパートナーの存在は欲しい。
「……やはり私が持つよ」
とりあえずとして二人の一週間分の荷物を詰めた特大リュックを背負う俺に、弟子のレイチェルが気を利かせてきた。
「これから疲れる事になるんだ。俺を気遣うのは世の法則とは言え、自分の身の安全を祈願しながらついて来な」
「……具体的に言って何をすればいいの?」
「簡単に言うと、追いかけっこ」
大樹が生い茂る森をゆく道中に、『結社の廃棄した施設』の説明に入る。コンパスを見ながら太い根に飛び乗り、飛び降り、普通に歩くのも難解な樹海を進んでいく。
「結社は実験で人間を更なる次元へ押し上げようと躍起になってる。新人類だな。その過程で誕生したのが“侵蝕人”なんだ」
「ノックブランドの怪物か……」
「兵器としての実地試験だね。偶然の産物だけど、どのくらいの性能か見たかったわけだ。調整されて弱体化したアレがこれから帝国にばら撒かれる。俺が見ててやるからレイチェルも倒してみな」
「了解」
中々の速度で歩いているのだが、レイチェルは呼吸を乱す事なく会話にも付いてくる。ムンガムンガソンと戦闘させていた事で、目論み通りに心肺機能も鍛えられたらしい。
「今から行く施設は完全に封鎖されている。理由は初めて確認された侵蝕人がいるから。どうしようもないから発見された後も放置している」
「……」
「ちなみに同情はいらない」
「どうして?」
「侵蝕の芽という発明はその博士によって生まれたものだから。部下で実験しようとしたところを、抵抗されて自分に植え付けちゃったの。それも調整も不完全なとびきりの芽を」
研究者……メーンとかいう名前だったと思う。だがその博士が侵蝕人として施設内に閉じ込められている。
「では博士から隠れていればいいのかな」
「それだと時間が勿体ない。逃げながら移動系の戦技も狙う」
「効率的だね、君らしい」
「【適応・改】は博士が振り撒く多種多様な変異ウィルスに耐え続ければ、数日くらいで覚えられる筈だよ」
「ああ……だから倒さないのか」
今は俺とレイチェルしか知らない戦技。あとから倒してもいいので、どんな利用法があるか未定の今は博士を放置すべきだろう。
「まぁ倒せないんだけどね」
「……どうして?」
言うと来ないかもしれないので言わなかった爆弾発言を、満を辞して発する。
「だって今の博士――レベル105だもん」
「105っ!?」
まともにやり合えば絶対に倒せないレベル。俺なら殺せるが、それはモードレンドだから。【モードレンドの雷】なんて最強魔法を持っていない奴等には無理。
レイチェルの歩みが止まるのも頷けるモンスターが、この先にいるのだ。
「こ、殺されるんじゃ……」
「動きは遅いから大丈夫。何より今のレベルくらいじゃないと、ダメージを与えながら最大限の経験値を得られないから。一石三鳥物語が始まろうとしてるよ」
「……隠れて【適応・改】のみを獲得すべきじゃないかな」
「うん。だからレイチェルは隠れてな。風邪みたいな症状も出るだろうから。でも気は抜くなよ」
「ち、ちょっと!」
早く博士に会いたくてウズウズしている。恋にも似た逸る思いを胸に先を急ぐ。
すると隣に並んだレイチェルは心配そうな顔をして俺の手を握ってきた。
「……君の邪魔をするつもりはない。止めるつもりもない」
「結構な事です」
「だけど死んでもらっては困るよ。君は私のご主人様なんだから」
「もちろん。この世界を楽しみ尽くすつもりなのに、こんなところで死ぬわけないだろ」
「それならもう何も言わない。一緒に生きて帰ろう」
「大袈裟だなぁ……」
捜索から難航することも念頭にあったが、施設はすぐに見つかった。ゲーム時のマップ機能で大凡の地点を記憶していただけあり、進む方向を間違えなかったからだろう。
予定と違ったのは一つだけ。
「――うわぁぁぁぁ!!」
博士、強かった。
『マテェェ! マテェェェェ!』
地下施設内部の原型を壊しながら、青色の筋肉怪物が追いかけてくる。
なので真っ暗な通路を【音無】で駆け抜ける。すぐ後を通路いっぱいの筋肉が押し寄せてくるので逃げ回る。
「ぎゃぁぁぁ!?」
聞いてない博士の注意事項その一、現在絶食中の博士が久しぶりの食事に凄く貪欲。
「ゴホっ、ゴホっ!」
聞いてない博士の注意事項そのニ、おたふく風邪みたいなものに感染。
「ヒャァァァ!」
聞いてない博士の注意事項その三、博士……四足歩行を覚えて速度アップ。
「この世界の博士、進化してるぅぅ!」
『ワタシハっ、アノ子ヨリユウシュウダァァ!』
「知るかぁぁ!」
物を投げ付けるところはゲームから引き継がれている。投げられたデスクやロッカーを、宙返りしながら“内”から取り出した刀で斬り裂く。
そしてまた逃げ回る。
「ああっ……寒気がする。頭痛も酷い。倦怠感もだ。あと関節も痛いです、先生」
予想より遥かに過酷だ。レベル的にかなり余裕を持たせたつもりだったが、実際はギリギリで生きている。
その夜、早速反省会が開かれる。
「……さ、寒いね」
「そうだな……そら、お粥さんができたよ。お食べ」
震え声の二人が毛布にくるまって焚き火に当たり、少しでも栄養をとタマゴ粥を食べる。森の中でレイチェルと揃って頬を腫らして病魔と格闘中。
「あれを、明日もするんだよね……」
「戦技さえ獲得すれば治るから……」
反省会、終了。博士へ恐怖心を抱くと同時に、病によりメンタルを削られてしまう。
「……ふふ、どうせ博士に殺されるんだ。最後は抱き合って死のうね、コール君」
「やだぁ……もっとワクワクしながらエッチに生きたい……」
「エッチ……」
身を寄せ合い、エロに希望の光を見ながらタマゴ粥を食らう。
「作ってくれてありがとう」
「どういたしまして」




