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対岸の森、魔女の家  作者: 伊藤暗号
第二章 〜対岸の森〜
15/19

対岸の森 3




再び目が覚めると、朝日が顔に突き刺さっていた。

またまるまる一晩寝こけてしまったらしい。

側にいる狼達を片手で撫でながら、今までにない安心感と共に目覚めたエドガーは、川の水音がいつもより静かで、話し声がする対岸に目を向けた。


「もうすっかり大丈夫そうよ」

「そう。良かった。街に帰れそう?」


猫型の幻獣と、それとは違う女性の声に、慌てて身体を起こす。

そこには、幻獣を撫でる美しい女性が立っていた。


「おはようございます。お身体の方はいかが? 食欲ありますか?」

「え、あ、はいっもう、すっかり!」


エドガーは、昨日までのだるさが嘘のように軽やかになった身体に気づき、目の前で手のひらをぐーパーと動かし見た。


「じゃあコレどうぞ」


女性は、カゴを猫型の幻獣に渡すと、猫型の幻獣は、最も簡単に川を飛び越え、軽やかにこちらに移動してきた。

カゴを開けると、サンドイッチと、ポーション瓶が入っている。


「あ・・・あのっ! ポーション、ありがとうございます! おいくらでしょうか!」

「あぁ、そうね。銀貨一枚でいいわ」

「わかりましたっ、でもモンスターの追跡で森に入ったので、今手持ちがありません! お支払いは、後日でもよろしいでしょうか!」

「あら、じゃぁお願いがあるのだけど良いかしら?」

「なんとでも!」


対岸の女性の穏やかな声がよく聞こえているのに、なぜ大声で答えてしまうのか。自分でも分からないが、エドガーは、鳴り止まぬ胸の高鳴りを隠すように声を張り上げて話している現状に焦っていた。

この機を逃せばもう会えないかもしれない。でもどうしてもコレからもこの人と会いたい。この人との繋がりを絶ってしまいたくない。と言う思いに駆られていた。


対岸の女性は、どこからともなく現れた荷台の上に木箱をいくつか乗せ、同じく穏やかに言った。


「ポーションを街で売ってきて欲しいの。お願いできる?」

「容易いご用です!」


対岸の女性は、音も無く現れた犬型の幻獣を撫で「じゃ、お願いね」と言い残し、ペコリと頭を下げると、さっさと森の中に消えていってしまった。


「あっ・・・」


エドガーは、それを黙って見送った。

犬型の幻獣が、荷台を自分の影に沈め、こちらに飛び移る。


「あれが、助けてくださった薬師様か?」

「そうだよ」


犬型の幻獣はニヤニヤとした顔を向け「大猪の燻製肉だって」と、影から浮き上がる荷台の木箱の一つに鼻を押し付け、目を細め匂いを嗅ぎながら言った。

エドガーはヨボヨボと近づくと、荷台には綺麗に解体された大猪の頭とひと繋ぎの皮が丸めて一緒に乗せてあった。


「魔石もあったみたいよ。良かったわね」

「使ったポーション代には悠々足りるだろ。狼達にも燻製肉を分けてやれよ」


幻獣達に促されて、エドガーは燻製肉の入った木箱を開ける。すごい量だ。コレも全て薬師様が用意してくださったのだろうか。

燻製肉を狼達に分け与え、ポーションが入った箱を開けると、50本ほどの瓶が並んでいる。

もしかして、お一人ではないのだろうか。


「ご家族で暮らしておられるのか?」

「私達が一緒よ」

「他に人間はいない」

「え、なんだってこんな森で薬屋など営まれておられるのか? 追われているとか?」

「辺鄙な場所に薬師がいるのは、この国ではよくある事なのだろ?」


幻獣達の答えに、エドガーは「それはそうだが」と、無人になった対岸を見上げた。

何か、身を隠したい理由があるのか・・・。

エドガーが考え込んでいると、犬型の幻獣が荷台を再び影に蔵い「荷は森を出るまでは運んでやるから、飯を食ってしまえよ」とカゴを差し出した。

エドガーは、すっかり身体の調子が戻っていることに気づいて、「あぁ」と返事をすると、そのままザブザブと川の水で顔を洗い、カゴの中のサンドイッチを食べ驚いた。

口に含んだそれは、今まで食べた事も見た事もない白いパンに、カラシが効いた白いソースがたっぷりと塗られ、野菜とスライスされた猪の燻製肉が挟んである大変に美味しいサンドイッチだった。


「なんだこの肉!? あの大猪か!?」

「それは別のボアの熟成肉を加工したもんだ。アレとは違う」


犬型の幻獣は得意げに箱を鼻先で指し言った。

どうやら魔獣化した大猪のせいではないらしい。あの大猪の物なら売らずにたらふく食べてやろうと思ったのに残念だ。


「肉の熟成はこちらの住人にはまだ早い。それは特別製」

「そうなのか!? いや美味い! こんな美味い肉は生まれて初めて食った!」


そうだろうそうだろう。と、何故かドヤ顔の犬型の幻獣を見つめつつ、最後の一口を名残惜しげに飲み込んだエドガーは、身支度を整え街に帰るべく河岸を後にした。


「あぁ、ちゃんと礼を言うのも忘れてしまった」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ありがとう。助かったよ」


森を抜け街壁が見えると、エドガーは荷台を自分の影から出している犬型の幻獣に礼を述べた。


「オマエ達も。今晩また来るから待っててくれ」


エドガーは狼二頭のマズルを撫でると、「ポーションの代金を夜になったら持ってくるつもりだが・・・」と、犬型の幻獣を見た。


「あぁ、俺達には、あの河岸にオマエが来たらわかるから大丈夫だ」

「そうなのか・・・」

「ソイツらも森に入った時点で気づく。大丈夫だ」

「そうか・・・その・・・薬師様は・・・」


エドガーが、ゴニョリと何か言い淀む。犬型の幻獣は、ニヤリと口角を上げ「なんだ。また会いたいか?」と聞いた。


「その、きちんと礼を言わないと」

「じゃぁ顔を出すように言ってやるよ」

「本当か! ありがとう!」


ニヤニヤとした顔を向けると「もう行け。じゃあまたな」と犬型の幻獣は言って、元来た道を帰って行った。

エドガーは、良かったまた会える。と、高揚した顔で狼達を撫でると、森に帰った狼達を見送ってから意気揚々と街壁に向かって歩き出した。


エドガーが、ウキウキした気持ちでいつもの街壁門にたどり着くと、人混みができている。

何かあったのか? と、近づくと、数人の怪我人を囲んで街の人々が集まっていた。


「親方!」

「オヤジさん!」

「お父さん! しっかりして!」


声の主に、メグを見つける。

抱きかかえているのは血塗れのメグの父親だったことに気がついた。


「誰かっ! ギルドに行ってポーション持ってこい!」

「吐血してる。普通のポーションじゃダメだ!」

「隊商ギルドにハイポーションが無いか聞いてこい!」

「急げ!」


騒然としている中に分け入って、エドガーは、木箱の中から取り出したポーションを怪我人に与え、半狂乱になっているメグを引き剥がした。

すると、それまで息も絶え絶えだったメグの父親の呼吸が、あっという間に穏やかに変わってゆく。

エドガーは、他の怪我人達にも次々とポーションを飲ませて怪我を治していった。

周囲の人達と共に驚き、顔を上げたメグが、エドガーに気づいた。


「エドガー! どこに行ってたの!?」

「どこって、大猪の追跡に・・・」

「エドガーが伐採を手伝ってくれなかったから、お父さん達が無理して倒木の下敷きにっ!」

「えっ!?」


メグの訴えに、周囲の人達も一斉にエドガーに非難の目を向けた。

エドガーは、眉を寄せて自分を詰るメグを見た。


「いや、俺は冒険者で、今日だって、ほら、大猪を狩ってきたんだ」

「「「えぇっ!?」」」


街の人達が、指し示された大猪の頭が乗った荷台に目をやると、手のひらを返したように「「おぉ〜!」」と、歓喜の声を上げた。


「メグ、この際はっきり言っておくけど、俺は木こりでも婿でも無い。俺は俺の仕事をきちんとしているよ?」

「それは、そうだけど、でも、だけど・・・」


エドガーが、辺りを見渡すと、集まった街の人々は、それはそうだった。と、目を逸らす。

詳しい話は。と、とりあえず皆で、ギルドに向かった。




「で、エドガーが持っていたポーションで助かった。と?」

「はい。コレです。街で売るように頼まれました」


冒険者ギルドの受付で、野次馬達が見守る中、エドガーは預かっていた木箱を開けてみせた。

「「「おぉ〜!」」」と再びどよめきが起きる。


「こんなに、たくさん!」

「買取は可能ですか?」

「もちろんです!」


王都から遠く、特定の薬師もいないこの地では、上質なポーションは手に入りにくい。

ギルドの受付嬢は目を輝かせて箱を覗き込んでいた。


「こ、これは、元[特級薬師]ルリィ・オミナイ製のポーションじゃないですか! 一体どうやってコレを!」


箱の中に入っていた書類とポーション瓶を手に「しかも一般と同じ卸値で!!」と、受付嬢が興奮しながら大声を上げた。

自分がもらったポーション瓶とは違い、ラベルが貼られたそれらから、製作者がわかるようだ。

そうか、あの薬師様は、そんな名のある人だったのか。

エドガーは、その顔を思い出しつつ、ならばますますその所在を隠しているのは何か訳があるのだろうと話を作って伝えた。


「素材採取をしていた薬師様の従者達に、大猪を追跡中、偶然出くわしまして」

「おぉっ! 大猪まで! コレは、依頼書にあった大猪で間違いない」


一緒に提出した剣と槍先の所収者が名乗り出ると、確認していたギルド長にお墨付きをもらえた。良かった。エドガーがホッとして、一緒に魔石を出す。

その大きさに、再びどよめきが起こった。


「魔獣化していたか。やったなエドガー」

「でかした!」

「オマエはいつかやるやつだと思っていたよ!」


この街を拠点としていない他の冒険者達も、エドガーの功績を讃え声を上げた。

エドガーは、依頼書をカウンターに出すと、淡々と手続きを進めた。

門前での騒ぎを聞きつけて、マットとミリーもギルドに来ていたので、これを機にとエドガーは話を切り出した。


「それで、コレからは本格的に森に入って狩りをする事にしたんだ。そろそろパーティを解消する良い時期だと思うんだが」

「「えっ!?」」

「この通りソロでやっていく実績もできたし、いずれやめようと思ってる皆を、今以上に危険な狩に付き合わせるわけにはいかないだろ?」


受付嬢に提示された書類にサインをして報酬を数えながら、皆の見ている前でエドガーは淡々と話しを進める。


「そんな・・・」

「困るよ」

「『困る』? 何が困るって言うんだ?」


『困る』って何だよ。いよいよ取り繕う事さえしないのか? いずれ冒険者を辞めると言っていたのは、ここに居る皆が知っている事じゃないか。


エドガーは、眉を寄せ2人を睨みつけるように怪訝な顔を向けた。

いつも穏やかなエドガーの、それまで見た事もない表情に、2人は怯んで二の句が告げなくなっている。

すると、そばで聞いていたギルド長が「まあまあ」と、エドガーをギルド長室に呼び、集まった冒険者達を解散させた。



「ソロになりたいって、本気かエドガー?」

「ええ。他の3人は冒険者を続ける気がないようですし、彼らが家を継ぐなら、これ以上自分に付き合わせるなんてできません」

「それは、そうだが・・・危なくないか?」

「それが、森狼の番をテイムする事に成功しまして、ソロになっても問題ありません」

「そうなのか!?」

「えぇ、これからもっと、街のために力になれると思います」


エドガーは、いずれテイムモンスターを街に連れ込んでも良いですか? と、屈託なく微笑むと、さらに、と追い討ちをかける。


「それに、もしかしたらさっきのポーション、定期的に手に入れることができるかもしれません」

「本当か!?」

「えぇ、今後の交渉次第ですが・・・」

「そ、そうか、それは、そうだな、助かるが、そうか・・・」


元とはいえかの有名な[特級薬師]のポーションが、直接定期的に手に入るかもしれない。

ギルド長は途端に旗色を変えて逡巡した。


エドガーがフリーになり、自由に金を稼げるようになると、街から出て行くのが目に見えているので、あの3人を枷につけておきたい。元々そのつもりで、ランクの上がりやすい依頼や、隊商の護衛の仕事を回さなかったり、街々を行き交う冒険者達にスカウトさせなかったりとそれとなく邪魔をしていたのだ。


隣国との戦争さえ無ければ比較的平和な辺境の街ではあるが、エドガーはこの街にとってかけがえのない戦力だ。出ていかれるのはギルドとしても大いに“困る”。

しかし、いま目の前に提示されたのは元[特級薬師]のハイポーション。直接貴族に転売すれば、とんでもない儲けを生み出すだろう。


「ルリィ・オミナイに直接会ったのか?」

「直接交渉できるのは従者の方です」

「ルリィ・オミナイが、直接街に来ると言う事は?」

「ポーションの代金を持っていった際に聞いてきましょうか?」


あぁ、そうか、そうだった。

街から出たことのない孤児のエドガーが、このポーションの真の価値を知りうる訳がない。


「そ、そうだな。できれば聞いてきて欲しい」

「わかりました。ではすぐ行ってきます」

「え? へ?」

「森で仕事中の、従者の方と待ち合わせているのです」

「あ、あぁ、そうか採取か。わかった。その、くれぐれも気をつけてな」

「はい! ありがとうございます」


やがてギルドの職員が持ってきたポーションの代金を受け取ったエドガーは、丁寧に頭を下げ、ゆっくりとギルド長室を退室して行った。

ひとり取り残されたギルド長は、今後のエドガーの処遇と、目の前のハイポーションを天秤にかけ、頭の中でそろばんを弾き始めていた。



執務室を出たエドガーは、テイムモンスターの届出のためギルドの受付に寄った。

テイムモンスターには、テイムしている証に魔道具の装飾品を目印につける事になっているのだが、先ほどの大猪の魔石が売れれば2頭分十分に作れそうだ。


「そういえば、さっきハイポーションを勝手に4本も使ってしまいました。その代金はいくらになりますか?」

「え、あ、箱に残っていたポーションの代金しか払っていないから、その前に抜かれた分は・・・使ってしまったって・・・えぇ〜っエドガーさんが払うの?」

「使用者の了解を得て使った訳じゃないので・・・」


伐採した大木の下敷きに巻き込まれたと言う木こり達は、いずれも重症で、許可をとっている余裕が無かった。

先ずは使用者の自分が支払うのが道理だろう。とエドガーは、当たり前のように答えたが、落ち着いてからでも使用者かギルドが払ってくれる事をひっそりと願った。


「ハイポーション4本ともなると、今回の依頼達成料では到底足りませんよ?」


受付嬢が心配そうにエドガーの顔を覗き込む。

マジか、いや、そうだよな。

エドガーは「交渉してみます」と苦笑いを返した。


「では、少々お待ちください」と、受付嬢が書類を持ってバックヤードに入っていった。

残されたエドガーは、今後かかる経費について算段する。

今までのパーティでしていたプール金の配当は、正式に脱退してからじゃ無いと受け取る事はできないとすると、ソロ活動資金や貯金は全く無い状態な訳で。


実は、この手の討伐は、命懸けにも関わらず、あまり割りが良いとは言えないのが実状だ。

同じ討伐でも、大勢の怪我人や死人が出るような緊急依頼や、依頼者が大金をはたいてでも討伐して欲しい場合はそれなりの報酬が望めるが、今回は緊急性が低いと判断したギルドの調査依頼に過ぎなかった。だからこそ期限が設けられていなかった。


まさに、冒険者の自己責任案件のお手本。

なぜなら、依頼達成料が低い代わりに、討伐した獣や魔獣の本体の買取があるからだった。

素材目的での討伐もありうるし、売るか売らないかは、所有者の判断にはなるが、目的部位以外のナマモノを所有しておきたいと思う者はそういない。

今回の大猪の肉も皮も素材全ても、十分な料金で売れるではあろうが、ギルドが中間業者として買取るとしても、査定には時間がかかり、予算が限られているギルドとしても金額が多くなれば、他から調達しなければならないのは同じなので、支払い日は伸びて当たり前だ。

やはりできれば、パーティを抜けて早急に分前を手に入れたいが、今はとりあえず手持ちの金でなんとかするしか無いようだ。


エドガーは、大きくため息をついた。


大きな魔石は高値がつくが、今回は売って金に変えるより、テイムを証明する魔道具に使う魔石だ、せっかくだし森狼達の戦利品で作りたい。

魔道具とは言え、テイマーと森狼達の名前、簡単なプロフが記入してある単なる記憶装置の様な物なので、あの大きさは必要ない。

首輪にでもつけておきたいが、普段邪魔にならぬ様に砕いて小さくする以上、残りを売ってもその大きさの価値は失われてしまう。

加工代もそれで賄うとすると、今回の報酬はプラスが出ないかもしれない。


「魔石を売らないのはやっぱ痛いなぁ。でも、アイツらを待たせておくのもなぁ」


こぼれたエドガーの独り言に、そばに来ていたマットが強い口調で声をかけた。


「アイツらって? 無断でパーティの二重受けは違約だぞ!」

「・・・そんな事してないよ」


エドガーは、今まさに手にしている[テイム証明]の書類を見せながら、言いがかりをつけてきたマットを、あからさまに訝しんだ。


「いきなりどうしたんだマット? 何かあるなら言ってくれよ」

「そ、そんなの別に無いわよ。ただ、エドが急にパーティ解消したい。なんて言うから」


隣にいたミリーも何故か慌てて取り繕っている。

これは本当に、なにか後ろめたい事でもあるのか?


「急じゃ無いだろ? 俺はずっと積極的に魔獣の狩りをしないと食っていけないって言ってきたじゃないか。ランク上げに興味がないと言っている君達を、無理やり危険な依頼に巻き込む訳にはいかないだろ? それこそ命に関わる違反行為だ」

「でも、子供の時からのパーティじゃない」

「俺達だって、幼馴染がソロで《魔領域》の森に行くなんて、心配して当然だろっ」

「その事なんだけど、コイツらのおかげで、森での心配事は少し減ったんだ」

「それなら、コレからはそのテイムモンスターと俺達も一緒の方がいっそう安心だろ?」

「俺だってまだ誰かを守りながら戦う自信がないんだ。だからこそ1人でパーティからは抜けようと思てる。力をつけるために」


なんとか言い縋るマットに、エドガーは柔らかい笑みを向け、あくまで相手を思いやる言葉を選びながらも、正論で全く折れる様子なく応えた。

表情はいつも通りだが、これまでのエドガーからは、考えられない態度だった。


ミリーは、エドガーのことを、子供の時からいつも笑っている度し難いお人好しで、なんなら少し愚鈍なんじゃ無いかとまで思っていたのに、その笑顔が初めて疑わしく見える。

それに気づかず、今まで通りになんとか言い含めようと、更に反論しようとしたマットを止める。


「エドの言い分はわかったけど、今はリーダーのメグもいないし、こうゆう事はメンバー全員で決めないと。でしょ?」

「・・・そうだね。メグも今は大変だろうし、どうせ次の狩りも延期だろ? でも俺は毎日の生活費をソロでもなんでも稼がなくっちゃ・・・今までホントありがとうな」


マットとミリーは「ぐっ」と言葉を飲んだ。


うん。完封だね。


「とにかく。さっき使ったポーションの代金の事もあるし、本当に稼がないと金がないんだ。だから改めて分前の話もしなくちゃだし、その時は俺も皆と酒が飲めるように、これからもっと頑張るからさ」


エドガーがいつものように眉を下げニコニコと笑って2人を見ると、マットは動揺して視線を逸らし、ミリーは逆に、睨みつけるように見上げ視線を外さなかった。

すると、諸々の書類に目を通しつつ、受付嬢が話しかけながら戻ってきた。


「魔道具は3日後にはできるそうです。その頃には大猪の査定も終わってるでしょうから、受け渡しはその時にでも・・・どうかしましたか?」


顔を上げた途端目に入った3人の不穏な空気に、受付嬢は思わず問いかけた。


「なっ、なんでも無いですっ」

「・・・じゃあ私達、メグの様子を見に行くから」

「わかった。落ち着いたら声をかけて」


今度は、マットに引っ張られるように受付から離れていったミリー達を、エドガーは片手を上げて見送った。


「どうしました?」

「次の予定が無くなってしまっただけです。じゃぁ3日後にまた来ますね。どうぞよろしくお願いします」


受付嬢の心配を軽くいなし、エドガーはギルドを後にした。

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