アイリス(3)
晩御飯を食べた後、今日の出来事を思い返していた。
アイリスに再び会った今日、色々なことを話し合ったと思う。
殆どが僕からの質問だった。
正直なところ、宇宙人に遭遇したくらいの衝撃だったけど、今の技術ならそこまで行けちゃうのか。
っていう「科学すごいな」という感覚が凄かった。
アイリスの話すことには納得のいく回答も、納得のいかない返答もあったけど、ほとんどの点でアイリスは誠実に応対してくれた。
あと、友達になってくれた。
これは素直に嬉しかった。
僕の友達は多くはない。
よく話す友達なんて両手で数えられる程度だ。
あくまで10進法でね。
ものごとを考えすぎでちょっと顔に出やすいらしい。
アイリスが僕と話したいと思った理由を聞いたときこんなことを言ってた。
「顔を見ると何を思ってるか丸わかり。
正直ってわかるよ。」
でもこれは普通のことだと思ってる。
あと、これは人気が出るタイプでもない。
人気者というのと、友達が居るかどうかってのは違うと思うけど。
カレッジに通う頃には、僕のような人間は「理系」という分類に属するんだろう。
父さんも母さんもちょっとどころか相当に尖った研究者なので、その遺伝子は脈々と僕の中に受け継がれたわけだ。
なんて、普通な言い回しだろう。
研究者とエンジニアの楽園とまで言われるこの島では、理系にならない人の方が少数派だし。
人気者と呼ばれる人たちの将来はネゴシエーター。僕のように理詰めでめんどくさい性格をしていると研究者やエンジニアという未来が待っている。
これまで、悲観的じゃなかった。今ももちろん。
厳密には、今日アイリスに言われるまでまったく意に介していなかったんだけど。
僕たち島民の子供の人生はAIに誘導されている。
ただ、AIは人の素養や適性をブレずに見るので彼ら?の誘導に乗った人生が失敗する可能性はかなり低いと思う。
『選択の自由が破滅的ってケースは多々あるんですってば』と、アイリスのせいで腹を割ったAIタブレットが言ってた。
腹を割るとAIタブレットもこんな感じか。
タメ語直前じゃんこいつ。
アイリスのことを考えていて、ちょっとクローン命題みたいなものが気になった。
クローンが禁じられているのは、この島に於いては宗教的なタブー以上に人権上のタブーとみなされているからだ。
ただ、意外で興味深いと思ったのは、その禁則をこの島にもたらしたのはAIだった。
かなり酷い話、クローンを作ろうとする側は自分のパーツのスペアとして作ろうとするんだという。しかし、培養槽のみで育てたクローンは実のところ臓器を抜き取って移植した際にまともに機能しない。
臓器のトレーニングが不十分なんだそうだ。
つまるところ、人間としての刺激を持ってないクローン臓器は人間に移植しても機能しない。
だから違法なクローンをつくる人は、クローンに偽の戸籍を与えて育てた上で、必要になったら臓器を抜き取るらしい。
なるほど、それは確かに酷い人権蹂躙だ。
なんでこんなことを考えちゃったんだろう。
きっと、アイリスから聞いた話のせいだ。
現在のアイリスには人権がないという。
あらゆる意味で「人工の人類のようなもの」だからだと言ってた。
生命の創造とか?宗教的には別の命題を持っていそうだけど、人権は侵していないのでこの島では問題なさそうだけど。
実のところどうなんだろ。
冷房の効いた部屋は本当に本当に快適だ。
難しいことを考えていたのに、睡魔が思考を溶かしていく。
なんか、価値観がちょっとおかしくなった。
どうしてくれるんだこれ。
眠る寸前、AIタブレットが余計なことを言ってきた。
『胸に耳を当てて心臓の音を確認したらよかったのでは?』
うるさい、開き直りやがって。
友達にはなったけど、アイリスはAIで…