アイリス(1)
次にアイリスと会ったのは週末だった。
髪の毛の色がこの間と違う。今日は真っ白ではなくて、金髪っぽい感じがする。
「髪の毛、どうしたの?染めた?」
そういえば、前回会った時のの髪色はちょっと人間離れした色だったような?
「ああこれ?温度とか湿度とかで色が変わる仕様らしいの。」
仕様と言ったよ。筋金入りの人工知能ごっこマニアだろうか。
いやいや、ちょっと待った。そういう話じゃなくって。
「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど。」
「ん?何でも聞いて。」
「この間、自動販売機を撫でただけで決済してたよね?あれって…」
「私、超ハイスペックな有機コンピューターなの。
完全なスタンドアロンAI実装。
通信デバイス内蔵。
人権はこれから獲得予定だよ。」
一瞬で、全部話された気がした。ただ、にわかに信じられない話がいくつも入ってた気がした。
ちょっと、10歳には難しい話?
「この間は本当にありがとうね。
散歩して帰ってきたら、ソウタ君がベンチに居たんだ。
あの日、研究所が移動してから初めて外に出してもらえて、ちょっと戸惑うことが多かったんだ。
日本人の居住サイトはちょっと他所と違うって聞いてたの。」
「なんて聞いてたの?聞いてもいい?」
「治安が良すぎるって。」
「ああ…」
そういえば、聞いたことがある。
日本人総平和ボケだって。
自覚は無かったけど。
でも自販機とどういう関係があるんだろ。
「ソウタとあった日に検索して知ったんだけどね!
あんなふうに無防備な自動販売機って、日本人居住サイトにしかないらしいの。
道理で初めて見たわけね。」
なんで興奮してんだろ、この子。
「そうなんだ。便利なのに…。」
「ふふふ、そうね。…便利だったね。」
おっと、雑談でごまかされたのかな。
ちょっと気勢が削がれてしまった気がする。
気を取り直して尋ねてみた。
「スタンドアロンAIって、もう実現してるの?」
そうだ、AIはネットワーク資源を使わないと完全ではないと教わった。
少なくとも僕のAIタブレットはそう言っていた。
「私を見て、違和感があるの?」
「違和感が無いから信じられないというか…、分からないというか…?」
嘘をついている感じもしない。
どうしよう、全っ然分からない。
ごっこ遊び…じゃないの?
「そうだね~。チューリングテスト?私突破しちゃったし。」
人工知能ごっこって、AIと人間を見分けるトレーニングの意味もあったはずなんだけど…。
全然わからないよ。
ど、どうしよう。