ネオテクノロジアの少年(1)
僕は今、公園の木陰に居る。
今日も強い日差しが降り注いでいる。昨日も、一昨日も暑かった。
太陽光発電の効率を高めるためなのだという。
こんなに気温が高いと精密機器には悪いんじゃないかって思うけど、AIタブレットが言うには、沢山の電力を集めて、冷房をガンガン回した方が調整しやすいんだってさ。
確かに、冷房の効いた部屋は嫌いじゃないよ。
でも、外の気温は40℃を超えているというんだ。
これじゃ、熱中症になってしまう。
暑い日ばかりで嫌になってしまう。
僕の父さんも母さんも日本人だから「日本の四季はとても美しかった」とか「暑い日も寒い日もあった」と教えてくれた。もちろん涼しい日も暖かい日もあったって。
あと、雪ってものもあるらしい。
雨が凍って降ってくるというんだけど、そんな危なっかしいものがあるの?と聞いてみたら父さんと母さんは笑ってた。
母さんは日本に帰るときに雪を見せてくれると言ってたけど、父さんは寒いのは嫌だなぁって変な表情をしてた。
日本の冬は半年先だから、二人の祖国に行くのはその頃なのかな。
その日の夜、僕のAIタブレットは「凍って落ちてきたら危ないものは雹や霰といって、雪とは別だ」と動画と図解付きで教えてくれた。
こんもりとした白い粉が積もって綺麗だった。
実際に見てみたい。
そういえば父さんも母さんも、もう20年もここに居るって言ってたな。
最後に日本に帰ったのは僕が生まれた直後。
戸籍登録っていうのをするために帰ったらしい。
僕はこの島にも永住権を持ってるけど、故郷の戸籍は必要だっておばあちゃんが言ったらしいんだ。
残念ながら、記憶にないけど。
そのあととんぼ返りでこの島に戻ってきたのは、この島が完全なメガフロートで、好天の下を求めてさまようようにAIが制御しているかららしい。
何日も日本に滞在したら、日本から離れてしまうかもしれない。
そうすると交通費が何倍にもなるらしい。
だから、この島は常夏。晴れの日が多くて暑い日がほとんど。
メガフロートの移動はカメみたいに遅いから、時々低気圧に捕まるけど、寒いところには行かない。
あと、オーストラリアや南米の南の海流を超えるのは難しいらしくて、太平洋の中をいつも巡回しているって教わった。
あと、領海?とかいう陸地の国が所有する海を通ることは避けているとも言ってたかな。
この島のメガフロートは時々組み換えが行われる。
ある程度規則性があるらしいけど、時々増えたり減ったりもしているからAIタブレットで確認するのが一番いい。
一昨日、ショッピングサイトのフロートが家の近所に来たので、そこに行ってみようと思っただけなんだけど、たったの5分で外を歩くのが嫌になってしまった。
だから、パークサイトの木陰で涼もうと思ってここに来た。
自動販売機にAIタブレットをかざして海洋深層水のボトルを買って、半分飲んで、残りは頭からかぶってみた。
木陰のベンチに腰掛けて、ちょっと落ち着いた気がしたところで、公園の自販機の前に女の子が立っていることに気づいた。
水色のワンピースと麦わら帽子が似合う女の子だった。
だれだろう。
近所にあんな子居たかな。