儀式(イニシエーション)
赤外線カメラを消した後の、オフレコの部分は僕からは全部割愛。
割愛だよ、カ・ツ・ア・イだよあんな恥ずかしいこと!
思い出すだけでも恥ずかしい。
当然だけど、切腹くんの電源だって切っておいたほどだよ!
ともかく、絶対…誰にも教えないからな。
でも、記録に残しておかないことには意味もある。
この儀式というか、契約の詳細が、僕とアイリス以外の誰かに知られてはならない。
記録に残ってもならない。
それは本当だ。これはそういう契約であり、そういう誓いだ。
そして秘密が守られる限り、僕たちの約束は永遠だ。
永遠とはまた大仰なと思うけど、アイリスの寿命は人間のそれとはまったく異なる。
アイリスが生きていたいと思う限りいつまでも、というのが正しいかな。
丁度その時、電波暗室の外のロックが解かれたらしい。
こっちは下着になってしまうけど、アイリスには僕の上下の服をひとまず着てもらった。
彼女の衣類が置いてある部屋までの暫定措置。
アイリスがドアを押すと簡単に開いたので、その部屋まで移動し、アイリスが服を返してくれるまでしばし待った。
父さんが、あの黒コートたちを連れて、完全電波暗室の反対側から歩いてきた。
「やあソウタ。お疲れ様。」
「…父さん。」
「ん~?どうしたんだ?大役を果たして疲れたかい?」
「なんで、追いかけまわしたりしたの?」
蹴りっ、蹴りっ、蹴りっ…。
「ああそれか~。
まあ、アイリス譲さんのたっての頼みということもあったんだけど…」
アイリスも一枚噛んでた…に決まってるよな。
確かに。
「5分ごとに捕縛訓練を受けたSPの3人チームを追加して、素人のお前がどこまで逃げられるか~!
っていう賭けでもあったよ。
1時間で計12チーム、36人が追いかけまわして捕まらなかったらソウタの勝ち。
捕まらなかったら、しょうがないので荒っぽいことはやめて家で拾ってもらうことに。」
賭け…だって?
「ちなみに、賭けは最初の5分で捕まるところが一番多く、そのあとどんどん減っていって、最後まで逃げ延びるってところに、この私が一人で張って、独り勝ちした。
賭けていたのは、私とSPの皆さんだ。
だからSPの皆さんも本気で追いかけまわしてくれたと思うけど、どうだった?
なんというか真に迫るものがあったんじゃないか?」
怒りを通り越して、呆れが表情に出たと思う。
それに、あの追跡は本当に怖くて、正直ちびるかと思ったよ。
「…息子を…、か、賭けのネタにすんな!!」
安い捨て台詞しか出てこなかった。
なんて語彙の乏しい僕。
僕を迎えに上がってきてくれた黒コート氏が言った。
「我々の負けです。
しかし、イツクシマ博士にまんまとやられたことに、私もちょっと血が上りかけてしまいまして…。
お迎えに上がった際は、ちょっと圧を出してしまい怖がらせてしまったかも…申し訳ありません。
ソウタさん、後で追っ手を撒くコツなど、ご教示ください。
後学のためにも。」
ああ、この人もある意味被害者なのか。
それであんな、怒りの波動をまとってたんですね。
思い出しても背筋が凍る…。
「ソウタ!」
アイリスが普段着に戻っていた。
目が合うなり、僕の服を投げてきた。
バラケもせず、ナイスコントロールだ。
そういや下着だったなと、もぞもぞしながら上下を身に着け、制服姿に戻る。
「アイリス。ここでの用事は終わり?」
「私の方はね。お父さんの方は、多分もう1つ用事があると思うよ。
私も呼ばれてるの。」
あ、そっか。
アイリスは人権がないので「ある方が君と接見してくださる。無礼のないように。」なんて、言われる対象にはならないのか。
じゃあ、これからが本筋?