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夜明けの君 2  作者: 蓮織
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番外編①カミングアウト?



「最近、よく雑誌に出てるな?」


 久しぶりに顔を出した実家で唐突にそんな言葉をかけられたものだから、驚いて目をぱちくりさせてしまった。

ちなみに箸で掴んでいた唐揚げは、皿の上に戻った。(落とした)


「えっ」

「……本屋とかで見かけるぞ」

「お父さん、素直に涼の出てるものチェックしてるって言えばいいでしょ」

「えっ!」


 俺の父親はどちらかといえば不器用なタイプで、思春期以降の娘と息子にどう声をかけたらいいか分からないような人だ。

話をしないわけでもないけど、会話のキャッチボールは成立し辛い。

姉とオレがコミュニケーション能力を鍛えられたのは、一重に父の不器用さと母のポジティブさのおかげだと思う。


「なんだ、その顔は」

「いや……うん、父さんが……」

「なんだ……」

「俺の出てるものを……えっ、そんなベタなツンデレある??」


 ツンツンされたわけじゃない。されたわけじゃないんだが、別に興味ないし好きにやれみたいな態度だったじゃん。

自分で生活できて健康でいればそれで良し。みたいな大雑把なんだか、放任主義なんだかみたいな感じだったじゃん。

いや、健康に生きて犯罪犯さなきゃなんでも良しっつったのは母だけど。


「父さんはツンデレじゃない」

「ゲホッ……や、うん……そうだけど」


 ダメだ、ちょっと面白くなってきた。

普通に嬉しいのと、ウチの父親こんなベタな人だったっけ? ていうのと。


「涼くんの配信曲サブスクで聴いてるよね」

「マジ!?」


 姉よ、こんなところでぶっ込んでこないで。

ホント咽せる。


「マジだよ」

「翠……」


 姉のすいに抗議するような声をあげると、再び母が援護射撃する。


「あらやだ、お父さん耳真っ赤よ」

「……息子がなにやってるか気になっちゃダメなのか」

「全然ダメじゃないよ。ありがと」


 そろそろ父親が可愛く見えてきた。

でもこれ以上は可哀想なので、もうこの辺でやめておこうという俺の雰囲気を察して、母も姉もそれ以上の暴露を止める。


「涼くん、ルームシェアどう?」

「急にそこくる?」

「だって相手凄い美人さんだから」


 確かにユキさんと同居してることは隠してないし、SNSにユキさんの顔も出している。(俺のアカウントで)

まさか姉にチェックされているとは思っていなかったけど。


「え、女性なのか?」

「違う違う、男性! まぁ凄い美人だけど」


 勘違いしたらしい父に間髪を入れず否定した。


「とんでもないイケメンだったわよ」

「なんで母さんまで見てんの……?」

「いいじゃない。だって彼、涼が昔から話してた憧れの人でしょ? 気になるわよ」

「全部バレてるじゃん」


 あれ、標的が俺に変わったな?


「気になるよねー。昔ライブ観に行った時もすっごいカッコいい人だと思ったけど、写真で見てもカッコいい」

「寝起きの顔ですらカッコいいよ」

「彼女いないならお姉ちゃん売り込んどいて」

「ごめん翠ちゃん、それは無理な相談だわ」

「えー残念」


 いくら我が姉でもそれは無理。

ユキさんは俺の恋人なんで。俺の。大事なことなので2度言う。

優しくて穏やかで自慢の姉だけども、ユキさんだけは譲る気は無いので、申し訳ないけど別の幸せを見つけてくれ。


「まぁ、楽しいよ。ルームシェア」


 本当のとこは同棲だけど。


「こないだ動画バズってなかった?」

「あのバズり方ヤバいってか、あれでユキさんが世に知られてしまった……」

「いいことじゃない」

「いいことなんだけどねー。あの人トークとか苦手だから」


 最初にバズったのは、ライブ後にサポートメンバー1人ずつとの写真をアップした時。

カメラ目線でもないのに、誰だこの顔面国宝ギタリストは、てな感じで次々拡散されていって震えた。顔面国宝て。否定はしないけど。

元々ジルのファンだった人たちにまで広がって、そこからとんでもない量のリプがつき、それもまた震えた。

ユキさんがSNSをやってないことがわかると、俺のアカウントから発信されるユキさんの写真を目当てに、フォロワー数が激増。

怖くなってエビちゃんに助けを求めたら、ユキさん専用の公式アカウントを作ってはくれたものの、もう開き直って仲良しアピールして下さいと言われた。相乗効果を狙うらしい。

さすが敏腕マネージャー。

そこから目論見通り、2人揃って仕事が増えたのは喜ばしい事なんだけど、ユキさんはいかんせんトークが苦手だ。

ライブの合間のMCでさえ、振らない限り絶対に口を開かない。(ジルの時もそうだった)


「オファー来ても、トーク番組とかはね……本人が受けたくなさそう」

「物静かな男の人って、素敵だよね」

「父さんじゃん」

「お父さんは口下手で可愛いんだよ」

「父さんの話はいいだろ……」


 え、そんな照れ方する人だったっけ?

俺が家出てからなんか変わったね?


「じゃあユキさんお仕事は?」

「主には作曲とサポートギターかな。あ、この間は音楽雑誌の取材受けてた。平日は会社員」

「え! 一般の仕事続けてるの!?」

「うん。あまりにも忙しくなったら辞めるだろうけど」


 俺からすれば今も十分忙しそうだけど、ユキさんはブラック企業にいた時よりマシだとか言っている。頼むから社畜精神は捨てて。


「大変ねぇ。暇があったら今度連れてきなさい」

「そうだよねー、涼くんがお世話になってるわけだし、ご挨拶しないと」

「絶対2人ともユキさんに会いたいだけだよね?」

「お父さんだってご挨拶したいわよね?」

「………まぁ、ご迷惑じゃなければ来ていただきなさい」

「マジで……?」


 そこで肯定されると思ってなかった。

家族全員ユキさんに会いたいの? なに、ウチの家系はユキさんに弱い遺伝子でも持ってんの?

唐揚げ拾い上げられないままでいるんですけど。


「まぁ、また今度ね」


 のらりくらり躱せるのはいつまでか、ようやく皿の上の唐揚げを拾い上げながら、変な笑いが漏れた。








「だ、そうです」


 家族が会いたがっていることを伝えたら、ユキさんは持っていたビールの缶をガコッと凹ませた。


「……挨拶って、した方がよかった?」

「え、あー、いや、成人した男同士のルームシェアでお互いに挨拶とかしないでしょ。単にウチの家族がユキさんのこと気になってるだけですよ」

「ろくでもない奴にこき使われてるんじゃないかとか……」

「ネガティブ過ぎる!」

「人のいい息子が変なオッサンに騙されてるんじゃないかとか」

「待って待って、なに面白いこと言い始めてるんですか」


 めっちゃネガティブなこと饒舌に喋るじゃん。

何をどうしたらそんな発想になるんだ。

面白すぎるけど、そのまま行くとビールが溢れそうなので、そっとユキさんの手から缶を取ってテーブルに置いた。


「姉と母親なんて、高校生の時からユキさんのこと認識してますよ」

「えっ」

「俺が憧れの人にお世話になってるって話してたから。ご飯奢ってもらったり、ギター教えてもらったり」

「……ヤバい奴という認定は」

「されてないから安心して下さい。強いていえば年齢不詳くらいです」


 最近ユキさんのキャラが壊れ始めている気がする。

面白いし可愛いからいいんだけど。


「ならよかった……」

「ふっ、ははっ」

「なに」

「いや、今日、ユキさんがトーク苦手で物静かな人って話したとこだったんですけど、俺といる時は結構喋ってくれてるよなぁって思って」

「……はぁ」

「なんか、昔より柔らかくなりましたよね」


 別に尖っていたとかではないのだけど、昔はもっと儚げな雰囲気だったというか、触れれば壊れてしまいそうだったというか。


「……単純に、」

「はい」

「歳とったからだと思うけど」

「えー、それだけ?」

「喋るのはまぁ、涼だから」

「気を許してもらえてるということですね?」

「気を許してない相手と付き合わないだろ」


 この人、意外とこういうことはしっかり答えてくれるんだよなぁ。

愛情表現の仕方が絶妙と言うか。

あと付き合い始めてわかったことが1つ。

ベタベタしても嫌がられない。嫌がられないどころかどちらかと言えばくっついてたいタイプ。

そんなユキさん知らないじゃん。嘘でしょ、ここまで可愛い人だったの? と大いに理性をズタズタにされた。


「なんかもう……なんなら結婚の挨拶とかにしたい」

「飛躍しすぎ」

「え、俺プロポーズしましたよね?」

「OKしてない」

「えぇぇ」


 してなかったね。確かにOKはされてませんでしたよ。


「てか普通にカミングアウトとかできる感じなのか?」

「あー、その辺大丈夫な人たちだと思うんですけどねぇ」

「……自分の家族が同性と付き合ってるって、世間の流れがどうとかで割り切れるもんじゃない」


 ユキさんの真剣な瞳が、しっかりと俺の目を捉えていた。


「そういう人がいるって認識してても、自分の子供が"そう"だとは思ってない。ましてや普通に異性と交際経験があるのに、10歳も年上の男となんて、て思ったっておかしくないんだ」

「そ……れは……」

「ちゃんとその辺覚悟しておかないと、お前が辛い想いをすることになるんだぞ」


 こういうところが、彼を自分よりも大人だと思わせる一面なのだ。

普段こんなに言葉を尽くすタイプじゃないユキさんの、俺を守るための言葉。


「その、通りですよね……」

「……ごめん、キツいこと言った」

「いえ。ホント、ユキさんの言う通りなんで」


 姉は味方をしてくれる確信がある。

でも両親がどういう反応をするのか、予想はできない。俺を大事に育ててくれた両親だからこそ。

自分の見通しが甘かったことを、ここにきて自覚することになるなんて。


「涼……」

「はい」

「あー……の……」 


 ちょっと肩を落とした俺に対して、ユキさんが珍しいくらい言い淀んでいる。

座りが悪そうというか。


「その……時は、ちゃんと一緒に説明する、から」

「ぇ…………えっ!?」

「だから、もし家族ともめたら……」

「えっっ!?」


 今、とんでもない発言をしてませんかユキさん。

えっ、そんなのもう。


「プロポーズされてる!?」

「してない!」

「えええええだってそれはもうプロポーズですって!」

「ちがっ……同棲に対しての……!」 

「いやいやいやいやいや、家族の説得って結婚する相手でしょ!」

「別れたくない相手にだってする……っ……だ、ろ……」


 語尾がだんだん小さくなっていって、ユキさんは最終的に顔を逸らしてしまった。

手で顔を隠しても、耳まで赤いのであまり意味がない。

可愛いが過ぎる。俺を落として上げる天才か。


「ユーキーさん」

「…うるさい」

「ねーえー」


 腕を回してソファの端に追い込むと、ユキさんは頑なに顔を隠したままこちらを見ようとしない。

そろそろ無駄な抵抗はやめてもらって。


「ユキさん」


 そっと顔を隠していた手を取ると、視線は逸らしたまま。


「……恥ずかしい」

「うわぁ……」

「なに」

「その顔、絶対誰にも見せないで下さいね」

「……はぁ?」

「可愛すぎです」


 もうこの人俺を可愛さで殺す気なんだ。

これが尊死ってやつか。


「ちょ、涼っ……」


 こめかみにキスしたら止まらなくなって、瞼に、頬、唇に。

そのまま首筋へ降りて、上がって、耳たぶを食んで。


「んっ……」


 耳の形をなぞる様に舌を這わせると、ピクリと軽く肩を振るわせる。

調子に乗ってシャツの中に手を入れたら、さすがに額を軽く叩かれた。


「雪崩れ込もうとするな」

「いやもう無理ですって。アンタ俺を煽ってるでしょ」

「煽ってない」

「無自覚! はい有罪ー」

「ちょ、んんっ……」


 抗議するために開かれた口を塞いで、角度を変えて何度も啄むように口付ける。

段々と雰囲気に流されてくれるユキさんは、10秒後には俺のシャツをぎゅっと掴んでいた。


「大好きだよ、ユキさん」


 だから、今からたっぷりわからせます。

満面の笑みで頬を撫でたら、彼はほとんど諦めた顔をしていた。




「はいはい、オレも」

「投げやり!」

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