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夜明けの君 2  作者: 蓮織
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遭遇:過去

 ユキさんが失踪して最初の年、バンドとしては事務所に所属したばかりで、なにかとバタバタした。動画配信をしたりライブをしたり、やることは今までと変わらなかったけれど、なんとなくやりたいことに対してメンバーとのズレを感じ始めていた。

二年目、静馬とギターがやり合ってギクシャクするようになった。原因が何だったかは、もうほとんどぼんやりしている。

俺は一応バンドのリーダーでもあったから、何度か二人と話し合いを重ねたけれど、平行線のままだった。

三年もせずに解散してしまった時には、流石に落ち込んだ。

その後だ、エビちゃんから提案を受けたのは。


『涼くん、役者もやってみない?』


 もちろん、音楽を続けながら。

凹んでいる俺のために、マネージャーとして精一杯寄り添ってくれた彼の提案を、考えるまでもなく受け入れた。

やれることは何でもしようと。

21歳で演技を始めて、ワークショップに通い、オーディションを受けては落ち続けた。

お客さんに見たり聞いたりしてもらう以前の段階が、とてつもなく難しいのだと、そこでまた盛大に叩きのめされた。

エキストラも多数こなしながら初めて掴んだ役は、アイドルもののミュージカル。所謂2.5次元と呼ばれるジャンルのものだった。

今までやってきた歌を、評価してもらえたらしい。

その世界の先輩たちに色んなことを教えてもらいながら稽古に励んだ。ぶっちゃけキツくて、何度か家で泣いた。

役者はこんな凄いことを毎度板の上でやってるんだなと尊敬するのと同時に、新人の自分がどこまでついて行けるのか不安でしかなくて。それは今もまだあるけれど。


「涼は、色んなことを考え過ぎない方が上手くいくと思うよ」


 そう言ってくれたのが、その時初めて一緒に仕事をした慎さんだ。


「考え過ぎない、ですか?」

「もちろんキャラクターは愛して研究する。その人物になるためにはってのは大前提だけど」

「はい」

「涼は計算でそれをやるより、自分の中に落とし込んで、抜き身のままやる方がいいんじゃないかな」

「……」

「音楽やるときと、似た感覚を引っ張ってきた方が上手くいくんじゃないかってこと」

「違う人間の感情を、歌う、みたいな……?」

「そうそう、そんな感じ」


 その言葉がなんとなく引き金になって、随分と役に馴染めた気がした。

初めての大きな舞台を終えてからは、少しずつオーディションにも受かるようになった。

人気アニメの舞台の役をやらせてもらえる事になって、そこからありがたいことに忙しくしている。

 稀に、音楽を思うようにできないことへの憤りみたいなものはあって。

舞台は観てもらえても、音楽まで興味を持ってもらえるかは別なのだ。好みが分かれるというのもあるけれど、このままずっと役者に重点を置き続けてしまっていいのか、悩んだりもした。


「稽古場から出て行け!」


 そんな悩みを抱えている時に一度だけ、演出家から怒鳴られた事がある。

稽古に身が入っていなかった自覚もあるし、迷いが大きいゆえに色んなことが手に付かなくなっているのもわかっていた。

殺陣もあって、集中していなければ危険な現場で、ろくに集中できていない人間が注意を受けるのは当然のことだ。


「申し訳ありませんでした」


 誠心誠意頭を下げて、落ち着くためにも一度稽古場を出た。

その時も共演していた慎さんが、フォローに出てきてくれたのが申し訳なくて何度も謝ったけれど、抱えている悩みを打ち明けることはできなかった。

安定した演技もできないような新人が、どの口で迷っているだなんて言える。



 そんな時だった。プロメテウスと現場が被ったのは。

今回のようにバッタリ龍臣さんと鉢合わせて、気まずさからお互いに口をパクパクさせていた。


「……どうも」

「あぁ……」


 ガッツリ意識し合っていたものの、会話をするのはこれが二度目くらいで、挨拶もろくにできないまま口を閉ざしてしまう。

龍臣さんは煙草を吸いに出てきたようで、手に握られた箱を確認して、また首を絞められるような息苦しさを感じた。

ベリーのような甘い香りの、それ。

ユキさんの骨張った長い指が被って、思わず眉間に皺が寄る。


「あー、その……役者やってんだな」

「……音楽も、続けてます」

「そうか」

「……」

「……お前も、ユキがどこに行ったか知らないんだな」

「は?」


 何を言ってるんだ、この男は。

ザワザワと全身の血が沸騰しそうなほど、一瞬にして怒りが駆け巡る。

胸ぐらを掴みそうになって、咄嗟に彼の横の壁に手をついた。


「誰が、どの口で何を言ってるんですか」

「……悪い、失言だった」

「っ、もしあの人がどこにいるか知ってたとしたって、アンタに教えるわけがないでしょう」

「そうだな……」


 悔しかった。

いろんな思いがぐちゃぐちゃになって、苦しくて、そんな時にこの男と鉢合わせて、腹が立って。

龍臣さんの言う通り、俺はユキさんがどこにいるか知らないどころか、連絡すら絶たれてしまった人間だ。

頑張ると言ったくせにバンドは解散して、音楽に全てを捧げることもできない中途半端なままの自分。焦燥感が首を絞め続ける中、会いたくもなかった人に真理を突かれて、ドロドロに溢れ出るモノを抑えるのに精一杯なのに。

壁についたままの拳を痛いほど握りしめて、唇を噛んだ。


「おい龍臣ー。え、誰」

「…… 」

「おう、どしたきら?」


 向かい合って無言でいたら、スタジオから出てきたメンバーのきらさんがギョッとした顔をしていた。


「なに、どう言う状況?」

「あー、ちょっとな」

「……失礼します」

「あ、おいっ」


 輝さんに会釈をして踵を返すと、龍臣さんの焦ったような声が後ろから聞こえる。それを無視してズンズン進んで行くと、反対側から歩いてきた小柄な人影が、こちらを見上げて歩みを止めた。


「あれ、君」

「……あ、」


 朝緋さんだった。

今日はどうしてこうもプロメテウスの人間と出会ってしまうのか。


「君、綾瀬涼くんやんね?」

「え、あ……はい」


 何故俺の顔と名前を朝緋さんが知っているのか、困惑しながら返事をすると、彼は苦笑をこぼしながら首を小さく傾けた。


「あぁ、急に声かけてすんまへん。僕、プロメテウスの朝緋言います」

「いや、はいっ、存じてます!」

「ふふ、ありがとお」

「あの、なんで……俺のこと……」


 朝緋さんとはこれまで顔を合わせたことも、仕事を一緒にしたこともない。この日初めて会ったはずなのに。


「最近注目の2.5次元俳優さんで、特集されてへんかった?」

「あ、雑誌の……」

「うん、目を引く人やなぁと思って。あとは…ええと、龍臣くん関連で、名前聞いたことあったから」

「あ……」


 そうか。この人も、ユキさんと関わりがあった人なのだ。


「音楽も、やってはるんよな?」

「……はい」

「配信とかしてはる?」

「え、あ、動画の配信とかなら」

「ホンマ? 見に行ってみよ」

「ありがとうございます」


 もやもやと、言葉にならない違和感みたいなものが喉元に引っかかっていた。

嬉しいはずの言葉なのに、心の底から喜べない。

だって、この人もユキさんの曲を……。

そんな思いは、彼にも見抜かれていたんだろう。

優しく笑いかけながら、またねと気遣うように去っていった後ろ姿を、どんな顔で見送ればいいのか、わからなかった。



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