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夜明けの君 2  作者: 蓮織
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世間話


「日本酒イケる?」


 カウンターからそんな声をかけられて、思わず顔を顰めた。


「なにナチュラルに飲もうとしてんですか」

「いやー、いい酒が手に入ってさー」

「人の話聞いてます?」

「話する時は酒が欲しいじゃん?」


 しれっとお猪口と徳利を持って出てきた龍臣さんは、白いダイニングテーブルの上にそれを置いた。

部屋は、イメージしていたものとは随分異なっていた。

スッキリと片付いたテーブルの上に、フローティングフラワーが置いてある。

奥のリビングにはガラスのローテーブルと、白いソファ。シックな壁面収納のテレビラック。

全体的に、清潔感を感じる明るい色合いを好むようだった。


「もっと生活感無いと思ってました」

「あー、よく言われんなそれ」


 つまみにと出された小鉢には、しらたきのたらこ和え。そしてグラスに入った野菜スティックに味噌らしき小皿が添えられている。

待ってなにこれ。この人こんな小洒落た器使うの。


「ま、生活感みてーなもんが出てきたのはこの数年かもな」

「花とか、飾るような人だったんですね」

「あっても、悪くはねーなって」

「……綺麗だと思います」

「こーゆーの、気分がちょっと落ち着くしな」


 穏やかに微笑んでカップに浮かぶ椿を見つめる顔は、ほんの一瞬、ユキさんと重なって見えた。


「ほい、どーぞ。これ地元でしか出回らない酒でな、すげー美味いんだわ」

「地元って、石川でしたっけ」

「そー。知り合いの酒屋の店主がいい人でさー」

「……え、これなんの時間?」

「世間話の時間」


 俺のツッコミはさっきから笑顔で躱され続けている。

一体なにがしたいんだこの人は。

お猪口に入った酒をクイっと呷ると、龍臣さんは満足気にお代わりをしていた。


「まぁ聞けよ」

「はぁ……」

「いつもちょこちょこ話すもんだから、そのうち限定入荷の酒とか取っといてくれるようになってな」

「あぁ、はい」

「これが手に入った時に、地元が一緒だって知ったわけよ」

「……いや本当になんの時間ですか」

「世間話の時間」


 やはり間髪を入れずに同じ答えが返ってくる。

龍臣さんの意図がわからないまま、注がれた酒を一口飲み下した。

爽やかな果物に似た、スッキリとした甘みが広がる。


「あ、美味しい」

「だろー?」

「……それで?」

「ん? あー、いや、地元っつってもあっちは能登の方で、こっちは金沢なんだけど」


 それから龍臣さんは、本当に取り留めもないことを話し続けた。

数分その店主について話をすると、もう一口酒を含む。


「俺はさ、最近そうやって自分の世界が広がってるような気がしてんだよ」

「……はぁ」

「別に大勢と交流を持とうとか、そう言うことじゃなくて、外に意識が向くようになったっつーか。自分で世界を閉じてたんだなと」

「……」

「俺の世界は、ユキで完結してたから」


 穏やかな瞳で、なんて苦しい言葉を吐き出すんだ、この人は。










「だから俺は今、ユキのいない人生を、やり直してる途中なんだ」







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