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ビスマルクの残光  作者: 八島唯
第2章 バイエルンの夜の霧
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おとぎの世界のお城

 白い塔がいくつもそびえ立つ。おとぎ話の世界から抜け出たような、古めかしい城。しかし、城門のそばにはいくつもの大砲や戦車がところ狭しと並んでいた。

「フランスのシュナイダーCA1、ドイツのA 7V......まさに多国籍軍といった感じですね」

 ナージがその戦車を眺めながら諳んじる。

 馬車が場内に誘導される。中庭には、ナポレオン時代のものかとも思われるような軍服を着た兵士が居並んでいた。音楽隊による演奏。そして儀仗隊による儀礼が続く。

 馬車を降り、この不思議な歓待を三人は受ける。一人スーツをまとった中年男性が恭しく口上を述べる。

「これは。お待ちしておりました。ドラーク王国第一王女リーディエ=ホーエンツォレルン=スタニェクさま。独立外交官二等公使安芸峻一朗閣下そして一等書記官ナジェージュダ=名津=ベルナーシェクさま。陛下が謁見の間にてお待ちです」

 これまた時代がかった口調ですらすらと言葉を述べる男性。

「外の近代的な武器に比べて、中の備えは時代がかっていますね」

「陛下は野蛮なものを嫌われます。とは言え、物騒なこの時代あのようなものを置いておくだけで賊を寄せ付けない効果がありますので」

 リドールの独り言に対して中年男性は答える。

 リドールは疑問に感じる。なぜ第一世界大戦時の最新兵器を、このような山奥の一個人が所有できるのか、と。

 その男性の後を兵士に囲まれる形で、城の中へといざなわれていく。

 バロックともロココとも言えないその雰囲気。いうなればどこか、別の世界の夢のお城の中を探索しているような感覚に三人は支配されていた。

 ファンファーレとともに大きな扉が開く。『謁見の間』らしいその部屋は、天井がどこまでも高くまるで聖堂のような趣すらあった。絨毯の上を進む四人。両側には色とりどりの宮廷人たちが居並ぶ。その衣装は時代も地域もバラバラであるように思われた。

 大きな玉座が目の前にそびえる。中世の国王が座っているようなゴシックの雰囲気のある玉座である。その玉座には――男性が座っていた。豊かな髭を蓄え、足下の客人を見下ろす。

 そしてゆっくりと口が開かれる。

「ようこそ我がファルケンシュタイン城へ」

 重々しい声が謁見の間に響き渡る。

 それを合図にしたように、一斉に家臣が頭を下げた。

「私がこの城の城主にしてバイエルン王国の国王ルードヴィッヒ二世である」

 リドールはその名前を思い出す。

 今から五〇年前に『狂王』と呼ばれ配位された挙げ句、不審の死を遂げたバイエルン国王ルードヴィッヒ二世=ヴィッテルスバッハの存在を――

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