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ビスマルクの残光  作者: 八島唯
第2章 バイエルンの夜の霧
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白い城

 朝早くに宿を出た馬車はゆったりとした坂道を登る。いくつかの農家の脇を通り、段々と起伏の激しい丘が目の前に広がっていった。はるか彼方にはオーストリアとの自然国境となる険しい山の影も見える。

 馬車には小さな二本の旗がはためいていた。一つはトリコロールカラーのフランス共和国国旗、もう一本は紋章が象られたセドラーク王国の国旗であった。昨日まではなかった国旗を疑問に感じながらも、馭者のナージは馬車を走らせる。

「もう少しで着きます」

 駿一朗がそう『王女リーディア』に告げる。そこに着けば新たな手がかりを手に入れることができるだろうという説明。そのためにも『王女リーディア』の姿をして欲しい――皇太子リドールが駿一朗から説明されたのはそれが全てであった。

 馬車が揺れる。道がだんだんと荒れてきたらしい。そして、止まる。

 ナージが馬の手綱を固定し、駿一朗のほうを向く。

(人の気配が――そして火薬の匂いも)

 手振りとアイコンタクトでナージはそう告げる。峻一朗はうなずくと馬車を降り、路上に降り立つ。

 トランクから銃を取り出す。普通の拳銃よりも大型のそれを、天に掲げゆっくりと引き金を引いた。

「耳を」

 ナージがリドールの耳を塞いだその瞬間に大きな発射音と、それに続いていくつもの小さな火球が天に花開いた。

 信号弾――リドールは理解する。

 少しの沈黙の後に、路地の向こうから激しい音が聞こえてくる。それは鋼鉄の塊――戦車の姿である。

「菱形戦車マーク V か。これはまたまた珍しいものを」

 戦車はその向きをゆっくりと馬車の方に向ける。そしてゆっくりと踵を返して、馬車を先導するように動き始めた。

「あの後を追うように」

 そう言いながら峻一朗は馬車に飛び乗った。

 戦車が道なき道を切り開き、その後を馬車が続く。ふと、リドールが空を見やると大きな鳥のようなものが頭の上をかすめていった。

「三枚翼の複葉機――フォッカー Dr.Iですね。空から我々を監視しているようです」

 峻一朗の説明。これから行く先の相手の所有物に違いないことは明らかであった。

 いつの間にか切り立った崖に馬車は進む。ゆっくりと二台の車は進み、その崖が開けたときに――彼らの目の前に新たな風景が広がっていた。

 それは白い城。

 いくつのもの塔が建物から伸び、まるでメルヘンの世界に迷い込んだようにさえ見えるその城にリドールは見覚えがあった。

「ノイシュバンシュタイン城......?」

 ノイシュバンシュタイン城。それはバイエルン国王ルードヴィッヒ二世によって一九世紀に建設された『メルヘンのお城』である。何度かリドールは写真でその城の姿を見たことがあった。しかし、場所が違う。ここにその城があるはずが――

「そのとおりです。王女陛下。ここにあるのはノイシュバンシュタイン城ではなく――」

 峻一朗はリドールの心の中を読むようにそう説明する。

「この城は幻の四番目の城”ファルケンシュタイン城”。バイエルン元国王ルードヴィッヒ二世陛下の夢の結果であります――」

 馬車はゆっくりとその城のそばに近づいていった。

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