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ロリっ娘で純粋すぎる俺の彼女が、本屋でコソコソしている。……ん? 大人な女性の誘い方? き、気のせいだよね?


「あ、あの……達哉くん」


「ん?」


 放課後。


 付き合って四ヶ月になる彼女、仲本玲美なかもとれみに声をかけられた。


 ちなみに俺の名前は長谷川達哉はせがわたつや


 高校二年生である。


「あの……今日は一人で帰りたいんです」


「……そっか」


 付き合ってからというもの、ほとんど毎日下校していたのだが……しょうがない。


「で、でも別に達哉くんが嫌だからとか、そういうわけじゃないですよ!」


「わかってるわかってる。気遣いありがとう、玲美」


「い、いえ! じゃあまた明日、達哉くん」


「おう」


 手を振って、せっせと教室を出て行く玲美。


 その後ろ姿に寂しさを覚えながら、俺も鞄を持つ。


「おっなんだ達哉、もしかして仲本さんにフラれちゃった⁈」


「黙れ橋本」


 ……そういうこと言うな。





 暇だったので、最寄りから少し離れた、比較的大きい本屋に寄ることにした。


 ふらふらと書店を散策。


 ふと、あるコーナーの一角にて、見知った姿が見えた。


「(……玲美?)」


 黒くて毎日ちゃんと手入れされていることが分かる、艶やか長い髪。


 中学生と言われても信じるほどの背丈に、幼い小さな顔。


 それに比べて大きくてまんまるとした瞳。


 間違いない、俺の彼女だ。


「うーん……」


 何やら熱心に悩んでいる様子。


 しかし、明らかに周りを気にした様子で、ちらちらと周囲を見ていた。


「(な、なんか俺の彼女がコソコソしてる……)」

 

 それにしても、なんで俺を誘ってくれなかったんだろう。


 本屋なら放課後、よく一緒に行くのに。


「(俺の目の前だと買いづらい本でも買うのかな……いや、男じゃあるまいし)」


 女子でも買うのかもしれないけどさ。

 

 まぁなんにせよ、彼女が近くにいて声をかけない理由はない。


 ちょっとしたサプライズ精神で、驚かせようと思い、ひっそりと近寄る。


「うーん……よしっ」


 玲美はそう意気込んで、もう一度周りを見渡し、誰もいないことを確認して一つの本を手に持った。


 その本のタイトルが、たまたま視界に入る。


「(……え? 大人な女性の誘いかた?)」


 …………は?


「(……いやいや何かの見間違いだろ俺。玲美に限ってそんな本を買うわけが……)」


 もう一度、今度はよく目を擦って本を見る。


 しかし、やはりその本のタイトルは『大人な女性の誘いかた』だった。


 ……え、どゆこと?


「さてと、レジに持っていきますか」


 スキップするほどご機嫌な様子でレジに向かう玲美。


 俺は咄嗟に隠れ、そんな玲美を観察する。


「(ま、まぁ本のタイトルはあれだけど、きっとそういうんじゃないんだろうなうん。そうに違いない!)」


 あの控えめで大人しく、未だに十秒以上目を合わすことができない玲美だ。


 何段階も飛ばして急に誘う、だなんて、ありえない。


 そう思っていたのだが……。


「あっ、そうだ忘れてた! こうしないと……」


 玲美は近くにあったファッション雑誌を二つ手に取り、例の本をサンド。


 そんな玲美の行動に、俺は戦慄する。


「(さ、さ、サンドイッチ回避術……だと⁈)」


 この回避術は主に、後ろめたい本を買うときに用いられる。


 つまり……これは完全な黒!


 あの控えめで大人しい玲美が、『大人な女性の誘いかた』というHow to本を買ったのだ。


「ふふふーん♪」


 わが子を抱くかのように、大事そうに本を抱えて店を出る玲美。


 ……うそん。





 翌朝。


 玲美が俺の席にやってきた。


「達哉くん。おはようございます」


「あ、あぁおはよ、玲美」


 心なしか、玲美の目の下にクマがあるように見える。


 そのクマから、推察されること。



 ――徹夜であの本読んだんじゃね⁈



 ただ挨拶を交わしただけなのに、冷や汗が出てきた。


「(……ま、まぁさすがにないだろ。玲美に限って……なぁ?)」


 俺は未だに、現実を受け止めきれずにいた。


「玲美、クマすごいけど……どした?」


 恐る恐る聞いてみる。


「あっ分かります? 実は昨日の夜……本を読んでまして」


「ブッ‼」


「た、達哉くん⁈ 大丈夫ですか⁈」


 玲美が背中を擦ってくれる。


「だ、大丈夫だ……ありがとう」


「い、いえ。彼女としてのことを、したまでですから……」


 頬をぽっと赤く染めながらそう言う玲美。


「(……そうだ。この言葉を言うのに、こんなにも照れている玲美が、誘おうと夜な夜な勉強したわけがない。うん、きっとそうだ)」


 そう思って、立ち上がる。


「そういえば、達哉くん。今日のデートなんですけど……」


 今日は前々からデートしようと約束していたのだ。


 だが、昨日のこともあってプランを考えられていない。

 

「ごめん玲美! 実はどこ行くか決められてないんだ……」


「あっ、ならちょうどいいです! 実は……」


 どうやら今日は玲美が決めてくれるようだ。


 また猫カフェかなぁと、ほのぼの思っていると……。



「私の家、来ませんか?」



「ブッ‼‼」


 本日二回目の吹き出し。 


「だ、大丈夫ですか⁈」


「だ、だ、大丈夫……ほんと、大丈夫だから」


「で、でもすごい辛そうですよ⁈」


「そ、そんなことないよ? ほんと、元気元気」


「な、ならいいんですけど……」


 元気とは言ったが、不意打ちをモロに二発顔面に食らった状態なのでかなり気が動転している。


「(これはもしや……誘われてる⁈)」


 その可能性が再浮上してしまった。


「それで、私の家でもいいですか?」


 どうしようかと思案する。


 しかしながら、俺はまだ現実を受け止めておらず。


「(別に家に行くからといって、必ずしも誘ってるっていうわけじゃないよなうん。考えすぎだな俺)」


 その結論に至った。


「おう。じゃあお邪魔させてもらおうかな」


 そう言うと玲美は安心したように頬を緩ませる。


「ほんとですか⁈ よかったです!」


「俺も、玲美の家に行くの楽しみだよ」


「はい!」


 この無邪気で、下心など微塵もなさそうな表情。


 俺の心配は、やはり杞憂だったようだ。


 俺も安心して、胸を撫でおろす。


「それにしても、ほんとによかったです」


「どうして?」



「一日中家に私だけしかいない日、今日くらいしかなかったので」



「ブッ‼‼‼」


「た、達哉くん⁈」


 ……う、嘘だよね?


 その場を『実は喘息持ち』という嘘で乗り切った。





 放課後。


 結局玲美の家を訪れることとなり、玲美に案内されるがまま玲美の家にお邪魔した。


 すぐに玲美の部屋に行く。


「結構綺麗にしてんだな」


「きょ、今日は達也くんが来るので、綺麗にしたんですよ」


「そ、そっか……ありがと」


「いえいえ。じゃあ私は飲み物を取りに行ってきますね」


「おう、わかった」


 玲美が二階に降りる。


 どこに座っていいのか分からず、キョロキョロとしていると一人にしては大きめなベッドが目に入った。


 ……ゴクリ。


「(……いやいや、きっとそんなことはないだろ! まさか……ねぇ?)」


 あの玲美が誘っている、という可能性は正直排除できない。 


 しかし俺の中の玲美のイメージが、完全にその可能性を否定したがっていた。


「(ま、まぁ、やっぱりないよな、うん。きっとそうに違いない)」


 よって最終的にその結論に至り、安心して床に腰を下ろした。


 すると扉が開く。


「お、お待たせしました……」


「おぉ玲美、ありが……ふぁっ⁈」


 玲美がなんと――ドエロいネグリジェを着ていたのだ。


「れ、玲美⁈」


「た、達哉くん! お水です!」


 玲美が俺の目の前にグラスを差し出してくる。


「んあぁ、あ、ありがと」


 情報処理が追い付いていない中、グラスを受け取る。


 しかし、何やらグラスがしゅわしゅわと泡立っていた。


「(……って、これ絶対ビールじゃねぇか⁈)」


 玲美の方を見てみると、玲美が顔を真っ赤にして俺と同じ中身のグラスを持っていた。


 そしてグビグビと、グラスの中身を飲んでいく。


「れ、玲美さん⁈」


「んっ、んっ……ぷはぁ!」


「って飲み干してる⁈」


 凄まじい飲みっぷりだった……。


「(って、そんな場合じゃねぇ!)」


 もしかして本に『酒を飲むべし』とか書いてあったのか⁈


「玲美、それお酒……」


「こ、これはジュースですよ!」


 慌てたように缶を出してくる。


 それは有名な炭酸飲料だった。


 ……すごくビールに似た。


「な、何だそうなのか……」


 俺は安心してジュースを飲む。


 確かに普通のジュースだった。


「びっくりしたよ。玲美が急にお酒飲み始めたのかなと思って……って、玲美⁈」


 玲美が俺の手を引っ張り、俺のことをベッドに押し倒した。


 影で薄っすらとしか見えないが、心なしか玲美の顔が真っ赤なように見える。


「(え、へ、え⁈)」


 俺の心は大混乱していた。


 玲美の非力な力で、為すすべなく押し倒されてしまったのだ。


「た、達哉くん……」


 妙になまめかしい声でそう言う玲美。


「(これマジなの⁈ ほんとにマジで誘われてんの⁈)」


「達哉くん……」


「(今度は耳元で囁いてきたんですけど⁈ ってかさっきより密着してるんですけど⁈ 温かい吐息が、耳にかかってるんですけど⁈)」


「達哉くん……!」


 玲美の覚悟が決まった顔を見て、確信する。

 

 

 ――俺、間違いなく誘われてる。



「……玲美、もしかして昨日、『大人な女性の誘いかた』って本買った?」


「へっ⁈」


 さっきまでの蕩けそうな表情とは打って変わって、いつもの幼い表情を浮かべる玲美。


 その反応で、確信はさらに強まった。


「……買ったんだな?」


 もう一度問う。


「……は、はい」


「そうか」


 驚きを隠せない。

 

 玲美は慌てて、


「で、でもほんとに違うんです! こ、これは、その……」


「目、完全に泳いでるけど?」


「えぇ⁈ い、いや、で、でもですね! これはち、違うんですよ……!」


「何が違うんだ?」


「う、うぅ……ご、ごめんなさい」


 目に涙を浮かべて謝る玲美。


「いや別に攻めてるわけじゃないんだ。ただその……俺もびっくりしてな」


 まさか控えめで大人しい玲美が誘ってくるとは……思ってもいなかった。


 しかし、もしかしたら俺が知らないだけで、玲美は案外肉食なのかもしれない。


「ご、ごめんなさい……その、私、達哉くんとこれからもずっと一緒にいたくて……」


「う、うん……」


 ちょっとマズい。


 玲美に乗っかられてるこの状況で、そんな可愛いことを言われるのは非常にマズい。


「達哉くんの恋人なんだって、確かに思いたかったんです……」


「お、おう……」


 マズイ、ほんとにマズい。


 俺のエクスカリバーが伝説の勇者の手によって……。



「私、達哉くんと繋がってるんだって、そう思いたかったんですっ‼」



 ・・・。


「た、達哉くん⁈ ひゃ、ひゃっ!」


 今度は俺から、玲美を押し倒す。


 そして一言、



「……誘ったの、お前だからな」


 

 俺はゆっくりと、顔を真っ赤にした玲美の口を塞いだ。


 その後は……言うまでもない。



                       完

最後まで読んでいただき、ありがとうございます(o^―^o)ニコ


面白かった! という方は、よろしければ評価やブックマーク等の応援お願いします

執筆のモチベーションにとてもなりますので、ぜひ!


また、12月22日から2021年が終わるまで毎日一本短編を投稿していく予定なので、ぜひお気に入り登録してお待ちいただければなと思います。



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[良い点] 最高です! 玲美ちゃん可愛い〜!
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