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お読み頂き有難うございます。楽しんで頂けたら嬉しいです。
大凡のところは理解した、といった顔で、それでもプッカは尋ねる。
「もう一つ、分からないことがあるぜ。」
「何かしら?」
「何故俺達は、ルルイエの檻を見ていると気分が悪くなるのか、ってことだ。」
「ああ、それはね.....」
いつの間にか、鰻の骨せんべいもほとんど無くなっていた。
プッカに促され、最後の一つを摘まんだ円香は、それをポリポリと噛みながら話を続ける。
「ルルイエの檻が、魂の値を引き上げるってのはさっき言ったわよね。でもそれは、かなり未発達な魂のことなの。私達人間ぐらいに脳が発達した生物だと、相対的に魂の値を引き下げるだけなのよ。」
「成程.....完璧に理解できた.....と思う。」
お茶を飲み終え、二人は立ち上がる。
「どうも、ご馳走様。」
「旨かったよ。鰻が正式メニューに載る日が待ち遠しいな。」
シェフ達がにっこり笑って見送ってくれる。
「毎度、有難うございます。今後ともよろしく御贔屓に。」
「今度は是非、肝焼きも召し上がって下さいね。」
「いずれトマト煮込みにも挑戦しますので。」
満腹の二人は店を出た。
「さて、帰ってひと眠りするか。円香はどうする?」
「私も帰るわ。飲んで食べてそして寝る、これが一番充実した人生ってもんよ。」
「ふはっ!間違いないな。」
二人は互いの部屋へと戻った。
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プッカは今、地質学者として月で採れる鉱物の調査をしている。
同時に、アステロイドベルトから運ばれてくる小惑星の成分を逐一調べ、リストを作成している。
「いずれ、太陽系全ての鉱物分布を明らかにしてやる。」とのことだ。
円香はこれから、宇宙空間に浮かぶ巨大な居住区の設計にかかる。
ラグランジュ点にいくつかのスペースコロニーを浮かべ、テラフォーミングされた火星と共に、人口増加に対処する。
「火星には負けられない、どこよりも住みやすい環境にするわよ」と意気込んでいる。
地球を飛び出した人類は、まだまだどこまでも進んでいく。
ゆっくりと、しかし着実に.......
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わしのへや はいるな!
そう書かれたドアをノックする。
「はいってます。」
間の抜けたボケが返ってきた。
「トイレじゃ無いんですから。」
一応ツッコみつつ、ドアを開ける。
清潔に保たれた部屋の中央には大きな机があり、その前に置かれた大きなひじ掛け椅子には、この部屋の主がちょこんと座っている。
てっきり録り溜めたアニメでも見ているのかと思ったら、チラシの裏にものすごい勢いで鉛筆を走らせている。
辺りには、同様に書き散らされたチラシが何枚も散らばっている。
私は、雇い主の邪魔をせぬよう、そっとそれらのチラシを拾い集め、右上に走り書きされた通し番号に従って並べてゆく。
しばらくの間、鉛筆の音と「むう」だの「うん」だの「ありゃ」だのといった呟きだけが聞こえていた。
「よし!こんなもんかの。」
満足そうに鉛筆を置き、彼女は私の方を見る。
何かは知らないが、一段落ついたようだ。
「お茶でも淹れましょうか?」
「そうじゃな......いや、濃い目のコーヒーを頼むぞい。清書したらキッチンへ行くからの。」
そう言うと彼女はすぐさま、先程のチラシの内容をノートにまとめ始めた。
.......
.....
...
キッチンでコーヒーの用意をする。
とはいっても、インスタントにお湯を注ぐだけだ。
菓子皿にはいつものアイシングクラッカーをたっぷりと盛る。
「ふう、できたぞい。」
「こちらも用意できましたよ。」
「うむ、すまんの。熱ちっ!」
彼女はクラッカーをポイポイと口に放り込みながら、コーヒーを啜る。
その間に私は、手渡されたノートを眺める。
先日発見されたルルイエの檻。
その復元にあたって円香さん達のチームが導き出した数式。
その数式を出発点として、理論展開がなされていた。
幾つかの不確定項を含むものの、魂や思考、記憶といった概念が数式化されている。
成程.....
ここがこうなって......
......うん?
「所長、この式はまさか?」
「ふっふっふ.....人の記憶の分析と再構築のための数式じゃよ。まだ八割方しか出来ておらんがのう。」
「いや、それにしてもですよ......これをうまく使えば......」
「そうじゃ!人の生きてきた記憶を記録し、コピーすることが出来る。」
恐らく彼女も私と同様、今朝のニュースのことを考えていたのだろう。
火星において、元素変換装置を用いた物質転送の可能性が示唆された。
ある物質の元素を2カ所で順次変換することによって、物質を転送するという概念。
そこにこの数式を応用すれば......
「そうじゃ!人が遠く離れた場所へ、簡単に移動することが出来る!」
「!」
興奮して体が震えてきた。
「まあ、まだまだ未完成の理論じゃからな。あと何年かはかかるじゃろうて。カワムラ君、これからまだまだ忙しくなるぞい。」
「もちろん是非、お手伝いさせてください!こんな面白い事、他の人に任せられませんよ!」
隠居のつもりで始めた家政夫だが、まだまだリタイアは出来ないしするつもりもない。
私は、元教え子で現雇い主の女性に、改めて尊敬の念を抱いた。
まったくこの人の才能には恐れ入る。
神か、もしくは悪魔なのだろうか?
「いや、美の女神に決まっておろうが!!」
この話をもちまして、一旦終了とさせて頂きます。
少しお休みを頂いてから、同じ世界で続編を書く予定です。
これまで駄文にお付き合いいただき、有難うございました。
心より感謝申し上げます。




