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宇宙開拓記 ~人類は逞しい  作者: 杠煬
第六章 再び宇宙へ

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大胆不敵な仮説

「大胆不敵な仮説?どんなのだい?」

「まあ、ちょっと待ってよ。」


そう言うと円香は、鰻重をかき込み、幸せそうに頬張る。

プッカも負けじと、出汁茶漬けをサラサラと勢い良く流し込んだ。


「......ふう、ご馳走様。」

「実に美味かったな。満足、満足。」


〆を食べ終え、手を合わせると、空の容器をカウンターへと戻す。

シェフの一人が気付き、慌ててやって来る。


「ああ、どうもすみません、有難うございます。いま、お茶を淹れますね。」


.......

.....

...


「で、改めて聞くが、どんな仮説なんだい?」


大きな湯飲みに淹れてもらった熱いお茶をすすりながら、二人は話を続ける。

厨房の奥では、引き続きシェフ達が、明日の仕込みを続けている。

もう少し、ここにいてもよさそうだ。


「今回の件で分かったんだけれど、ルルイエの檻の形状には、ある一定の法則性があるの。」

「法則性?むしろ不規則の極みって感じだったけどな。幾何学的に狂ってるぜ、あれは。」

「そうね。数式化には苦労したわ。」


円香は苦笑する。

そのせいで、彼女のセクションでは皆、著しく体調を損ねたのだから。


「なにせランダムに変化する項が複数あって、さらにその項の変化の仕方を数式化しようとすると、またランダムに変化する項が内包されている。そんな感じで、数次に渡ってさかのぼって数式化していったの。最終的には二進法、十二進法、六十進法で規則的に変化する数十項にまで行きついたわ。」

「聞いているだけで頭が痛くなってくるな......」


プッカは顔をしかめてお茶をすする。


「まあね。実際のところ、海底にあった現物オリジナルは少なからず浸食を受けていたから大変だったわ。苦労して出来た数式に則って復元はしてみたものの、ひょっとすると厳密には違う部分もあるかもしれない。」

「そこのところは、海底の現物オリジナルを置いて行った地球外生命どこかのだれかさんの確認が要るわけか。」

「そういうこと。まあ、完璧に復元できている自信はあるけどね。」


と、円香は笑う。


「で、その数式をユイが見ていて気付いたらしいんだけど.......」

「ふむ、ここでようやく、最初の話題になるわけだな。で、ユイ博士の大胆不敵な仮説ってのは?」

「一言でいうなら、魂の特異点、ね。」


.............................................


魂の特異点。

その言葉の意味が分からず考え込むプッカに、円香は尋ねる。


「7歳までは神のうち、って言葉知ってる?」


それなら知っていると、プッカは答える。


「ああ。医療の未発達だった昔、幼い子供の死亡率は今よりもはるかに高かった。7歳になるまでは子供は神様のもの、つまりいつでもあの世に戻される可能性があったってことだ。」

「そうね。いつ神様に呼ばれるか分からない。だから七五三っていう風習ができた。もう大丈夫っていうお祝いの意味もあったのね。」

「で、そのこととあの狂気じみたかごに何の関係があるんだ?」

「それよ。あなたが今言ったかごっていう言葉。」

「ん?」

「あれはね、幼い魂のゆりかごなの。」


.......

.....

...


「どんな生物であれ、生まれたばかりの生命は、常に死と隣り合わせにあるわ。」

「確かにな。概して体も小さくて弱い。餌だって、生まれてすぐ自力で摂らなきゃいけない生き物だっている。」

「そうね。そういうフィジカルな面ももちろんあるわ。でも、ユイが今回立てた仮説はもっとスピリチュアルな観点からなの。」

「スピリチュアル?おいおい、なんだか宗教じみてきたな......」


プッカの顔色が曇る。

彼にとって、その手の話は不愉快なようだ。


「ううん、そうじゃないの。ルルイエの檻を形成する数式から推察された、これでも純粋な科学なのよ。」

「そうなのか?」

「まあユイのことだから、多少、一足飛びなところはあるんだけどね......」


円香は苦笑すると、喉を湿らすようにお茶を一口飲み、さらに説明を続ける。

二人が話し終わるまでには、もう少し時間がかかりそうだ。


だが、湯飲みのお茶は、まだ十分に残っている。



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