物騒な物体
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目が覚めると、応接スペースのソファーに寝かされていた。
傍らには円香がいる。
「あ、目が覚めたのね。大丈夫?」
「あ、ああ。」
返事をして身を起こすと.....ううむ、大丈夫じゃないな。
まだ眩暈がする。
「もう少し、寝ていた方がいいわ。」
「いや、もう大丈夫だ。」
無理をして起きると、青白い顔で端末を叩いている円香の上司のデスクへ。
ちくしょう、足元が覚束ないぜ。
「おやプッカさん、もう大丈夫ですか?」
「ええ、先程は不躾な口をききまして申し訳ありませんでした。」
「いえいえ、お気になさらず。それだけ円香さんを大事に思ってくれているということですから。それよりも、本当に大丈夫ですか?もう少し横になっておられた方が.....」
「平気です。それよりも教えて下さい。ありゃあ一体、何なんです?」
俺は隣の部屋へ続く扉の方を指差して言った。
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さっきチラリと見た、扉の向こうにあったもの。
俺はそれを目にした瞬間、あまりのおぞましさに意識が飛んでしまった。
名状し難き恐怖。
闇の深淵から這いのぼる様な恐怖。
そういったものを具現化したようなあの形状は、たった一瞬見ただけなのに、今も俺の記憶に焼き付いている。
思い出したくもないが、はっきりと思い出せてしまうのだ。
歪な柱状のものが複雑に絡まり合った、まるで籠のようなそれ。
全体の大きさは縦横奥ゆきがそれぞれ3メートル程だったか。
一つ一つの柱が何の法則性も無いかの如く、あるところでは膨らみ、あるところではへこみ、あるところではたわみ、あるところでは捻じれ、あるところでは歪んでいた。
そして直感的に理解してしまったが、あの一見無秩序な柱状のものには、それなりの法則性が感じられたのだ。
幾何学的に狂った、それでも存在の奥底を貫く法則性が。
ようやく、ここ数日の円香の、そしてこの部屋にいる人達の不調の原因が分かった。
あんなもの毎日目にしていたら、そりゃあ体調も悪くなる筈だ。
で、結局、あれはいったい何なのだ?
円香の上司は、ゆっくりと一言ずつ、俺の問いに答えてくれた。
「あれは、ルルイエの檻、と呼ばれるものです。」
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話には聞いたことがある。
円香の友人のユイ博士が、先の深海探索で遭遇したという地球外生命。
それが閉じ込められていたというのが「ルルイエの檻」だった筈だ。
成程、あんなもんの中に閉じ込められていたら、生半可なことでは抜け出せやしないだろう。
というか、普通の人間があの中に閉じ込められたなら、間違いなく発狂するだろうな.....
「じゃあ、あれがその?深海から引き揚げてきたんですか?」
「いえ、あれは縮小スケールで復元したものです。現物はまだ、海の底ですよ。我々の仕事は、映像に記録されたデータをもとに、あれを復元し、コピー品を幾つか作る事なのです。」
「.....何のために?」
思わず声が固くなる。
あんな物騒なもの、何の用途があるというのだろう?
正直、軍事用だとしか思えない。
この世界から、戦争は無くなった筈なのに。
いまさら兵器の開発なんて。
円香には、そんな仕事をして欲しくない。
「心配いらないわ、プッカ。そんな怖い顔をしないで。」
円香が俺達の方へ近づいてきた。
なにやら楽し気な笑みを浮かべている。
「円香.....だがあれは.....」
「あなたの考えていることは分かるわ。大丈夫、あれは平和利用のためのものよ。次長、この人に格納庫を見せても?」
にこにこしながら、円香は上司に許可を取る。
「構いませんよ。プッカさん、格納庫へ行ってみてください。但し、他言無用に願いますよ。」
「よし、じゃあ行きましょうか。」
円香は俺の手を取り歩きだした。
おいおい、まだ少し足元がふらつくんだって.....
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