円香の不調
お読み頂きありがとうございます。新章です。
「有難うございました。」
「はいよ、ご馳走さん。」
料金を払って店を出る。
お気に入りのトマトピザを平らげ、腹は満ちている。
だが、プッカの顔には「満足」ではなく、「心配」の二文字が貼り付いていた。
「大丈夫かな、円香のやつ.....」
誰に言うともなく、一人呟く。
ここ数日、そして今日も、円香が店に来なかったのだ。
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二日続けて店に来なかった時点で、電話で話をした。
「ごめんね。仕事が忙しくて。うん、そのうちに店にも行けると思うから。」
少し元気が無いように感じたが、その時はそれほど気にはかけなかった。
むしろ、鬼の霍乱ってやつか?などとからかったものだ。
だがその後も円香は店に来なかった。
仕事上がりのビールを生きがいにしている、あの円香が。
店のシェフに聞いたところ、一応食べてはいるらしい。
毎朝、開店前に顔を出し、サンドイッチをテイクアウトしていくそうだ。
レタス、トマト、そして薄く焼いた卵焼き。
肉は入れないでくれとのこと。
恐らくそれだけが、一日分の食事。
「今まで当店でお召し上がりいただいていた量からしても、随分と食が細くなっておられるようです。余程ご体調がすぐれないのでしょうか?」
とのことだ。
知り合って結構経つが、円香が食事と酒を疎かにしたことは無い。
事態は、思った以上に深刻なのかもしれない。
「女の部屋を男が訪ねるなんざ、ちょいと問題があるが、そうも言ってられないよなあ.....」
少し遅い時間だが、売店で栄養ドリンクを買い、プッカは円香の部屋を訪ねた。
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「......はい?ああ、プッカ。来てくれたんだ.....」
インターホンを鳴らすと、しばらくして円香の声がした。
さらにしばらく待つと、玄関の鍵がガチャリと鳴り、ドアが開く。
嬉しそうに、円香が顔をのぞかせた。
頬の肉が落ち、顔色も悪く、げっそりと痩せている。
その様にプッカは目を見張った。
「おいおい、大丈夫か?いや、大丈夫じゃないな。これ飲んで寝てろよ。」
と、栄養ドリンクを差し出す。
それを受け取りながら、円香は弱々しく微笑んだ。
「ありがと。まあ立ち話もなんだし、入ってよ。散らかってるけどね。」
「いや、さすがにこんな時間に女の部屋へは.....」
「いいから、いいから。私とあなたの仲じゃない。」
「どんな仲だよ.....」
躊躇うプッカを強引に引っ張り込む。
だが、円香の目の輝きと、手を握る強い力に、プッカは少し安堵する。
「まあ、思ってたよりは元気そうだな.....」
部屋は散らかっていた。
「助かるわ、有難うプッカ。最近食欲が無くて、掃除する気力も無いんだ。」
「病気か?どこか悪いのか?」
「ううん、そういうわけじゃ無いの。ただ、頭痛、眩暈、吐き気が酷くてね.....」
ベッドに腰掛け、栄養ドリンクを少しずつ飲みながら円香が話しかける。
目の前では、プッカがてきぱきと部屋を片付けていく。
「掃除ぐらいなら任せてくれ、だけどなあ.....せめて下着ぐらいは脱ぎ散らかさないでおけよ.....」
散らばった洗濯物を集めながら、プッカは呆れる。
「いいじゃない。私の下着に触れるなんて、役得ってもんよ。」
「じゃあ、どれか一つ貰ってもいいか?なるべく匂いの付いてるやつ。」
「ダメに決まってるでしょ、このヘンタイ!」
「そのヘンタイに洗濯をさせてるのは誰だよ.....?」
軽口をたたきながら、プッカは本題に入る。
「それで、最近どうしたんだ.....?仕事で行き詰まってるのか?」
「うん、まあ、行き詰ってる訳では無いんだけどね.....ちょっとしんどいのは確か、かな.....」
「俺で良ければ、相談に乗るぞ。」
「ありがと。でもそういうわけじゃ無いんだ。本当に、唯しんどいだけの仕事なの.....」
「.....食事も出来ない程にか?」
円香は微笑むが、プッカは心配で仕方が無い。
食欲の無い円香なんて初めてだ.....
「ふふっ....安心して、つわりとかじゃないから。」
「ば、馬鹿っ!そ、そんなことは考えてないっ!」
「ん?ホントにぃ?」
からかうように言った後、嬉しそうにポツリと言う。
「でも、心配してくれて有難う。この仕事、もうすぐ終わると思うから。」
「何か手伝えることがあったら.....」
「じゃあ、お粥さん作っておいてくれる?」
「分かった。本当に無理するなよ。だけど、ちゃんと食べるんだぞ?」
「うん、ありがとね.....」
(つわり、か.....私も、いつかあなたと.....)
思わずそんなことを考えてしまい、円香は顔が火照るのを感じていた。
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