急がねば
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そこは、地球から何10万光年も離れた場所。
寿命の尽きかけた恒星と、新たに用意された若い恒星の回りを周回しながら、その2つの恒星を生命活動のエネルギー源とする幾つかの惑星が存在した。
まだ地球人類が知らぬ宇宙の隣人達。
その彼等により、ある会話がなされていた。
「〽◎◆〰〖▲※の移動が確認された。」
「ということは。」
「うむ。ルルイエの檻から出られたようだ。」
「ならば。」
「ふむ。迎えに行かねばな。」
「そうだな。」
「現地の生命に迷惑をかけていなければ良いが。」
「ルルイエの檻から出られた時点で、その可能性は低いのではないか?」
「だが、現地の生命の判断基準、価値基準が我々と異なる可能性はある。」
「あの惑星の調査はなされたのか?」
「ルルイエの檻を設置した時のみだ。」
「その時は?」
「脊椎らしき神経束を持つ生命が生まれ始めていた。」
「ふむ。時間経過を鑑みるに。」
「平行進化をしていると仮定すれば、知的生命が出現し始めているのは間違いないだろう。」
「そうだな。」
「何にせよ、迎えに行かねばなるまい。」
「改めて教育をせねばな。」
「そうだな。」
「行くとしようか。」
「急がねばな。」
「うむ、急がねば。」
「急がねば。」
「急がねば。」
「急がねば。」
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地球最深部の探索の結果は、世界がひっくり返る程の騒ぎを引き起こした。
それはそうだろう。
未知の深海生物を期待して行ったら、地球外生命(?)と遭遇したのだから。
惜しむらくは、ライデン君がまだ子供(?)だったことだ。
そのため、地球外生命の実体やその場所等についての情報は、ほとんど得ることができなかった。
だが、ライデン君の存在そのものは、我々地球人に大きな希望と一抹の不安を与えた。
地球人は、この無限の宇宙において、孤独な存在ではない。
そして、まだ見ぬ隣人達とは、はたしてうまくやっていけるのだろうか?と。
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「まあ、しばらくは何も起こらんじゃろうがな。」
私達は今、無事の生還を祝い、昼食の鰻重に舌鼓を打っている。
今回の深海探索でインスピレーションを得たのか、無事に新曲も書き上がり、ご機嫌の彼女が鰻重を奢ってくれることになった。
私は、しれっと特上を頼んだ。
「うむ、美味い!」
彼女は早くも、2つ目の鰻重を頬張っている。
若さゆえの旺盛な食欲は、少し羨ましい。
「しばらくは何も起こらないって、何故です?」
そう言いながら私は、大盛のお新香を箸でつまむ。
出前についてくるお新香では量が少ないと彼女が言うので、別途私が用意したものだ。
柚子風味の白菜の浅漬けと、昔ながらの塩のきいた梅干し。
季節の野菜を浅漬けにしたものは、冷蔵庫に常備している。
梅干しは試作品だ。
軌道エレベーターの建設現場の近くにあったお弁当屋。
そのお弁当の梅干しの美味しさに感動し、その味を再現すべく試行錯誤している最中である。
「ライデン君に聞いたのじゃが、彼は随分と昔から地球にいるようじゃ。それこそ、鰻が産卵のためにルルイエの檻にやって来る前からのう。恐らく、脊椎動物がこの地球に誕生する前からいるのじゃろう。」
「ふむ、それで?」
「ルルイエの檻から出られたら、すぐに迎えに来ると言われていたそうじゃ。」
「おや、それは大変だ。歓迎の準備が必要ですかね?好戦的な相手でなければ良いのですが。」
呑気に鰻重など食べている場合ではない。
最悪の事態も想定しておかないと。
「話は最後まで聞け。つまりじゃ、ライデン君のお仲間達も、とんでもなく寿命が長い可能性がある。」
「成程、それは確かに。」
会話をしながらも、彼女は瞬く間に鰻重を平らげる。
「ベフッ!」
淑女とは思えぬ擬音が聞こえた。
なんだか以前にも、同じ感想を抱いた気がする。
「ほっとけ。で、な。じゃから彼らはとんでもなく気が長いはずなんじゃ。」
「ああ、そういうことですか。」
シーハ―と爪楊枝を使いながら、彼女は結論付ける。
「すぐに来るとはいっても、数100年単位のスパンじゃよ、きっとな。」
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