緊急時全環境対応用万能人型駆動機関
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「......所長?どうされました?」
彼女は私の問いには答えず、大きく「パァン!」と柏手を打った。
部屋に響くその音に、皆がびくりと反応したそのタイミングで、彼女は大声をあげた。
よそ行きの笑顔で、にっこりと笑いながら。
「皆さーん!大丈夫です。アレは私達に危害を加えるつもりはありませんから。」
乗客の一人が反論する。
「何でそんなことが分かる?」
「言ってますよ。『遊ぼうよ♪』って。」
はい??
「でもまあ、なんにせよこの潜水艦は大丈夫です。とても頑丈に出来てますから。私ちょっと、遊んであげてきますね。カワムラ君、行くぞい!」
「使いますか?あれを。」
彼女は、いつもの度の入っていない黒縁メガネをかけたまま、隣の部屋のドアをノックした。
応えを待たずに隣の部屋へ入り、そこにいた科学者達に挨拶をする。
「邪魔するぞい!」
「どうも、お邪魔します。」
科学者達は、一瞬きょとんとし、そして皆一様に顔を輝かせた。
「あれ?」
「ユイ博士じゃないですか!それにカワムラ教授も。何故ここに?」
「ちょうど良かった。何なんでしょうあれ?」
こちらの部屋では、ドクターユイは、超の付く有名人。
(蛇足だが、私は「元教授」であって「教授」ではない。今は所長の助手だ。)
わらわらとこちらに集まってくる。
「皆、話は後じゃ。例のモノを使うぞい。カワムラ君はここで待機、フォローを頼む。」
「承知しました。お気をつけて。」
「うむ。行ってくる。腕が鳴るのう!」
彼女はそう言うと、腕をぐるぐると回しながら部屋を突っ切り、さらに奥の部屋の、厳重に閉められていた扉を開けた。
そこは小さな部屋で、右の壁際には小さな机があり、その上にはゴーグルのついたヘルメットが幾つか置かれていた。
彼女はその中から、自分の頭に合うサイズのヘルメットを選んでかぶり、顎の下でベルトを締めて固定する。
「搭乗!」
そしてそのまま、部屋中央に大きく口を開けたシューターへと飛び込んだ。
「ひゃっほーい!!.......いてっ!おケツを打った.....」
楽しそうな声が響いてきた。
このシューターの先には小型格納庫があり、そこにある機体の操縦席につながっている。
緊急時全環境対応用万能人型駆動機関の操縦席に。
もう1度、扉をしっかりと閉める。
そして私は、特殊回路をオープンにすると、彼女に呼びかけた。
「こちら母艦です、聞こえますか?どうぞ。」
「こちら緊急時全.....ええと、以下略じゃ、聞こえておるぞい。」
「気密状況を確認願います。」
「ハッチ及び、各メンテナンスハッチの気密を確認。」
「こちら母艦、機体を格納庫から気密室へ移動させて下さい。」
「了解。」
機体内に真空状態でセットされた「石」には、前もって十分なエネルギーが蓄えられている。
彼女は操縦席で、それを運動エネルギーの形へ変換し、機体を気密室へ移動。
私はモニターを見ながら、手元の端末を操作し、気密室の扉をしっかりと閉じる。
「注水します。」
「了解。」
少しずつ外の海水が流れ込み、気密室を満たす。
「各部異常無し。ハッチオープン願います。」
「了解。ハッチオープン。」
「よし、ゆくぞい!」
潜水艦後部の一際大きなハッチが開き、彼女を乗せた機体がゆっくりと飛び出す。
そして、潜水艦の長い巨体を飛び越え、静かに海底に降り立った。
潜水艦へ近付きつつある、黒い球体の前へと。
.....................................................
その人型をした機体は、全長が約5メートル。
水圧に耐えるために、ボディも手足も丸みを帯びたがっしりしたデザインで、まるで力士の様に見える。
黒い球体は、いきなり目の前に現れた機体に驚いたように動きを止める。
まるで、様子を伺っているようだ。
今のうちだ。
「尻尾を出すぞい。」
「了解。水温が低いので、少し深くまで掘らないといけませんよ。」
「了解じゃ。テイル射出!」
機体のお尻の辺りから、先端にドリルの付いたワイヤーが射出され、海底を穿ち地面へ潜り込んでゆく。
「おや、どうした?」
黒い球体が、ぶるぶると震えたかと思うと、濃縮されて凝るように縮み、同じ程の大きさの人型の塊になった。
まるで、同じデザインに合わせたかのようだ。
「ふむ。どうせ遊ぶなら同じ土俵で、ということかのう。」
彼女の呟きが聞こえる。
「よし、地熱を捕らえました。これでエネルギーを随時補充できます。」
「待たせたの。さあ、遊ぼうか♪」
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