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宇宙開拓記 ~人類は逞しい  作者: 杠煬
第五章 海の底へ

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レプトセファルス

お読み頂きありがとうございます。楽しんで頂けたら嬉しいです。

濃密な水の重さと冷たさが、辺りを単なる暗闇以上の暗黒へと変える。


他の乗客達も窓の外を覗き込み、皆一様にうめいていた。

ライトで照らされても尚、黒々とした中央の歪んだ球体を、まるでイバラの様に取り囲むいびつな無数の柱。

灰白色のその柱も、単なる円柱ではなく、ふくらんだりへこんだり、また微妙に曲がっていたりしており、またその太さもバラバラだ。

その様は、見ている者をして不快にさせずにはおかないデザインであった。


「ずっと見ておると、なんだか酔ってくるのう。」

「確かに。なんと言うか、絶妙に気持ち悪いですね。」


皆、同じ気持ちらしく、顔に不快の2文字を浮かべながらも、それでも好奇心には逆らえずに窓に貼り付いているのだった。


「ん?何か光ったぞい。」

「本当ですか?どこです?」


私達の会話に混ざるように、あちこちから声が上がる。


「ホントだ。キラキラしてる。」

「ライトを反射しているのかな?」

「なんだか増えてきていないか?」


つられて私も窓を覗く。

あの柱の形状、やはり気持ちが悪い。

じっと見つめているのが苦痛に感じる。

うちの所長は「非ユークリッド幾何学的」と評したが、むしろ「幾何学的に狂った」と表現したいところだ。

ぐっとこらえて我慢して見つめる。


......本当だ。

無数の柱で形成された隙間に、これまた小さな光がきらきらと輝いているのだ。


「魚のようじゃな。無数におるわい。」


彼女がぼそりと呟く。


「え?こんな高い水圧下で魚が生存できるのでしょうか?」

「現にいるのじゃから、認めるしかあるまい。生存は可能なんじゃろう。どんな魚か気になるのう。カワムラ君、隣の部屋へ行ってカメラをズームするよう伝えてくれ。」

「承知しました。」


だが、私が行くまでもなく、部屋に備え付けのディスプレイ画面にそれが映し出された。

隣の科学者達も、あれに目がくぎ付けなのだろう。


それは、葉っぱの様な形で全身が透き通り、目だけが黒かった。

大きさは数センチといったところか。

そんな無数の魚の群れが、その身をくねらせて泳ぐ度に、ライトの光を反射してきらきらと輝いて見えたのだ。


「やはりな。レプトセファルスじゃ。」

「何ですかそれは?」


その疑問に彼女が答える前に、他の乗客が叫んだ。


「ウナギの稚魚だっ!マリアナ海溝で産卵するのは知られていたが、まさか最深部にまで潜っていたなんて。」


うん?

ウナギの稚魚?


「所長、ウナギの稚魚って、確かシラスウナギって言うんじゃありませんでした?もっとこう、細長くて......」

「レプトセファルスは、シラスウナギの前の段階じゃ。あれらが成長してシラスウナギになる。わしらが美味しくいただいておるウナギは、たとえ養殖されたものでも、天然のシラスウナギを捕まえて育てておるのじゃ。」

「人工孵化とかは?」

「成功例はいくつかある。じゃが、十分な採算が取れるまでには至っておらん。」

「へえ......」

「で、マリアナ海溝で孵化するらしいことは分かっておったのじゃが......まさかあの、なんとも気持ちの悪い物体の隙間にいるとは......酔わんのかのう?」


複雑に絡み合った、不快な空間。

その中でくねくねと泳ぐレプトセファルス。

ウナギの寝床という言葉に、違う意味が付加されそうであった。


「それにしても気になるのは......」

「ええ、真ん中のあの球体ですね......」

「回りの不快な柱達は、まるで、あの球体を閉じ込めるための、なんだか檻のようにも見えるのう......」


ふと、嫌な予感がした。

乗客の一人が叫ぶ。


「おい!あれ!あの真ん中の丸いヤツ、動いてるぞ!!」


つられて私もそれを凝視する。

ああ、気分が悪い。


「何じゃあれは?」


そのいびつな黒い球体は、今は球体ではなかった。

ぐにゃりぐにゃりとうごめき、ぶるぶると震え、そして無数の黒い粒に分かれたかと思うと、不快の檻の隙間から、ポコリポコリと外へ出ていく。

そして、その黒い粒々は、再び一塊の球体に戻りながら、我々の方へ近寄ってきた。


「見ろ、こっちへ来るぞ!」

「ヤバくないか?この潜水艦は大丈夫なのか?」

「逃げなきゃ!早く浮上しましょうよ!」


乗客達が軽くパニックになる中、私の雇い主は目を閉じてなにやらブツブツと呟いていた。


「......所長?」



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