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宇宙開拓記 ~人類は逞しい  作者: 杠煬
第五章 海の底へ

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気を付けて

お読み頂きありがとうございます。楽しんで頂けたら嬉しいです。

「来たぞっ!マリアナスネイルフィッシュだっ!」


大きな頭部に比べ薄く先細った体。

そして、頭部から生えた大きな胸ビレ。

その胸ビレを除くと、ちょうどオタマジャクシの様な外観を持つその魚は、二つの胸ビレと細い尾ビレを動かして泳ぎながら、アームの先に付けられた餌に喰らいつく。


その泳ぎ方と、とぼけたような顔の造形は、覗き窓にへばりついた者達に、興奮と癒しという相反する感情を生み出させていた。


「可愛い.....」

「動画なんかで見たことはあるけど、ホンモノは初めてだ。」

「今、水深何メートルかな?」

「7700メートルを越えたところだ。」

「最深記録よりは浅いな。」


まるでアルビノの様な白い魚。

最初一匹だけだったそれは、一匹また一匹と数を増し、いつしか二十匹近くにまで増えていた。

艦内がざわめき、あちこちでため息が漏れる。

それは正に、サーチライトに照らされた限定空間に出現した異世界であった。


.............................................


「うん?なんじゃ?」


群れなす白い魚に心奪われていた私は、そのうちの一匹が群れを離れ、こちらに泳いでくるのに気付いた。

その魚は、真っ直ぐに私の雇い主の覗き込む窓へとやって来た。

他の皆は、魚の群れの方に夢中で、気付いていないようだ。


窓を挟んで、彼女と魚がにらめっこをしている。


「所長に用があるんですかね?」

「しっ!少し黙っておれ。声が聞こえづらいわい。」

「......」


他の人ならば、「何を馬鹿なことを」と笑い飛ばすであろう。

だが私は、彼女の力を知っている。

この世界のことわりを垣間見ることのできる彼女の特殊能力ちからを。


「ふうむ。」

「......」

「分かった、気を付けることにしよう。」


その魚は、再びいそいそと餌の方に戻っていった。

難しい顔で考え込む彼女。

私は恐る恐る、話しかけた。


「何かメッセージでもありましたか?」

「魚の思考パターンじゃから、うまく言葉にはしにくいがのう。」

「ざっくり言うと?」

「餌のお礼に、我々に注意喚起をしてくれたんじゃ。」


我々はそっとその場を離れ、部屋の隅へ移動した。


.............................................


「何か危険なことでも?」


なにせここは、水深約8000近くの深海。

1平方センチメートル当たり、800kg近くの水圧がかかる過酷な世界だ。

万一のことがあれば、我々は皆、生きて戻ることは出来ない。

何が起きるのだろう?

海底火山の噴火が近いとか、大規模な地震が起きるとか。


場合によっては、これ以上の潜水を諦めて、浮上すべきかもしれない。

彼女が隣の部屋へ行き、その正体を明かせばよいのだ。

普段はすっとぼけたキャラではあるが、彼女は超の付く優秀な科学者であり、その発言には重みがある。

その彼女の言う事なら、科学者達もまさか嫌とは言うまい。


「ああ、いや、なんと言うかその......自然災害では無いようなのじゃ。」

「はい?」


まさかとは思うが、海の底に沈んだ船でもあるのだろうか?

もしくは、怪物でも住んでいるのだろうか?


「うむ、まさにそれじゃ。」

「......いま、何と?」


「あの白い魚が言うには、これ以上深く潜ると、アイツが起きるかもしれないとのことじゃ。」

「アイツ、とは?」

「そこまでは分からんかったわい。思考パターンが我々とは違い過ぎて、ざっくりとしたニュアンスしか伝わってこなかったのじゃ。」

「まあ、それでも十分凄いですけれどね。」


まったく、どこの世界に魚と意思疎通ができる変態がいるというのだろうか。


「誰が変態じゃ、誰が。」

「すみません、つい本音が。に、してもですよ、やはりこのまま浮上した方が良くないですか?何かあってからでは取り返しがつきませんよ。」

「ううむ......」

「どうしました?」


何をためらっているのだろう?

選択肢は一つしかない筈だ。


「いや、あくまでも魚の思考パターンでのニュアンスなのじゃがな、そこまで凶悪なモンスターがいるというわけでは無いようなのじゃ。」


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