表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙開拓記 ~人類は逞しい  作者: 杠煬
第四章 娯楽だって大事

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/60

わしのへや はいるな!

お読みいただき有難うございます。楽しんで頂けたら嬉しいです。

「お早うございます。」


今日は昼過ぎからの出勤だが、何となくそんな挨拶をしてしまう。

ダイニングへ行くと、この研究所の主が遅めの昼食中だった。

彼女はドクターユイ。

艶やかな黒髪をショートボブ(以前、おかっぱと言ったら怒られた)にした、妙齢の女性だ。


「ご苦労様、カワムラ君。」


もごもごと口一杯に頬張りながら返事をする。

いい匂いがすると思ったら、鰻重ではないか。


「おや、豪勢ですね所長。何か良い事でもありましたか?」


そうたずねながら、郵便受けに溜まっていた手紙のたぐいをドサリとテーブルの上に置く。

大抵いつも半分以上は不要なDMダイレクトメールなのだが、三分の一程度はちゃんとした仕事の依頼だったりするため、きちんと確認をする必要がある。

私がここで働き始める以前は、割と報酬の良い仕事を受け損ねることもままあったようで、それは今鰻を頬張っている、私の雇い主のズボラさ故であった。


「誰がスボラじゃ、誰が。」

「すみません。つい本当のことを。」


心の声を聞かれてしまった。


「いやなに、以前話した新曲の売れ行きが思いのほか良くてのう。セルフお祝いじゃ。自分へのご褒美じゃよ。」

「ああ、パラサウロロフスの憂鬱、でしたっけ?.....まさか売れてるんですか?.....アレが?」

「何じゃその思いっきりの疑問形は。」


私も興味があったので、発売直後にネットで聞いてみたし、歌詞も確認した。

だが、正直なところ、私には理解の範疇をはるかに超えていた。


「まあ、先月から始まったアニメの主題歌になっているから、というのもあるがの。」

「それはそれで凄いとは思いますけど.....」


おや?

それはそうと、お重がもう一つある。


「私は、昼食を済ませてきましたが.....」

「これもわしの分じゃが?」


.....ですよね。



.............................................



彼女は二つ目の鰻重に取り掛かる。


山椒の小瓶を手に取り、鰻にパラパラと振りかけ、目を閉じて香りを嗅ぐ。

で.....

蓋を取った肝吸いのお椀にも、山椒を振りかけた。


「肝吸いにも山椒をかける人は初めて見ました。」

「いやなに、わしのひい爺ちゃんがこうやってたらしい。」

「美味しいんですか?」

「オツなもんじゃよ。」


ほう?

今後試してみよう.....


手紙を開封し、中身を確認してゆく。

その中の一通に、先日申し込みをしたツアーの抽選結果が来ていた。


「所長が行きたがっておられた例の深海探索ツアー、当たってますね、なんと私の分まで。」

「そうかっ!やったのう。」


嬉しそうに、照りのある鰻をはぐはぐと喰らう。

タレのかかった白米をわしわしとかっ込む。

見ていて気持ちの良い食べっぷりだ。

やはり、彼女は若い。

羨ましくも微笑ましいことだ。


「身バレするといかんから、マスクとサングラスで変装せねばのう。ファンにサインなどねだられたりしたら、他のお客に迷惑じゃからな。」

「そっちの世界では、所長、そこまで有名人ではないでしょうに。」

「.....何か言ったか?」

「いえ何も。しかし、所長なら一般参加枠で申し込まなくても、調査チームでも枠があったと思いますけれど.....」



そもそも今回の潜水艦は、彼女が基本設計を行い、月基地の円香さんに頼んでブラッシュアップしたものなのだ。

思いっきり当事者であるのに、処女航海で一般人として参加する意味が分からない。



「まあ、どのみち一般参加枠の方は余ると思っておったし、調査チームに入ったりしたら仕事をせねばならんじゃろうが。わしは今回、新曲のインスピレーションを得るために行くのじゃからな。」


話しながらも彼女は、瞬く間に鰻重を平らげる。


「ベフッ!」


とても淑女とは思えないような擬音。

彼女の親御さんが聞いたら、さぞや嘆くことだろう。


「ほっとけ!...それにじゃ、わしが今一番興味があるのはコイツじゃからな。」


シーハ―と爪楊枝を使いながら、彼女は空になった重箱を持ち上げてみせるのだった。


気に入って頂けましたら、ブクマ登録、ご評価、ご感想など頂けますと大変励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ