イルカちゃん
お読み頂きありがとうございます。楽しんで頂けたら嬉しいです。
円香は仕事が速い。
先週試作を頼んだところだというのに、もう出来たという。
私は仕事が終わると、取る物も取り敢えず駆け付けた。
「いらっしゃい、待ってたわよ。」
格納庫の片隅にそれはあった。
小型とはいえ、地球を走るマイクロバスぐらいの大きさはある。
「小型のクジラちゃんだから、さしずめイルカちゃんってところね。」
「うん、そう思えば、この大きさでも可愛いわね。それにしてもこんなに早くありがとう。いくらかかったの?」
「こんなところね。」
「オッケー.....ちょっとまってね.....よし、入金っと。」
「はい、確かに。まいどあり♪」
端末を操作し、今回の試作の材料費を支払う。
ざっと、3か月分のお給料ぐらいだった。
いや、婚約指輪かよっ(古いネタだねぇ)!
決して安くは無かったが、今後のことを考えれば大したことは無い。
制作費は先日の大ジョッキで、お礼は今からの大ジョッキだ。
「この大きさなら、ギリ二人は乗れるわね。今度一緒にどう?」
「いいわね。大きさはご注文の通りよ。使い方を教えるわね。とは言っても、ほぼオートだから難しいものでは無いわ。」
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次の休日、私はさっそく試運転を行うことにした。
まずは格納庫の窓の近く、日の良く当たるところにイルカちゃんを置いて、表面に取り付けられたソーラーパネルでたっぷりと充電をする。
ちなみに、慣習的に「充電」とは言うけれど、電気をバッテリーに蓄電するわけじゃないから。
ソーラーパネルで発電された電気は、エネルギーとしてロス無く「石」に蓄えられるのよ。
この蓄えられたエネルギーを運動エネルギーとして使えば、推進力になる。
無論、電気エネルギーとして使うことも可能。
使われている「石」の大きさは、老眼持ちならば(私を含む....ほっといてよね)悲鳴をあげる程に小さい。
だって、砂一粒程の石があれば、巨大なクジラすら動かせるのよ。
通常の内燃機関やバッテリーとは比べ物にならないほど、超々小型化と効率化が実現しているの。
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蛇足だけれど、今回のように、「石」をパーソナルに使うことができるのは、月基地を始めとして宇宙で勤務する者の特権。
地球ではまだ、自動車も鉄道もモーターとバッテリーで動いているの。
宇宙開拓に関して「石」の使用が優先される理由は二つ。
第一に、常に命の危険と隣り合わせであるという事。
いつでも新鮮な水と空気が供給できるからね。
第二に、今回、私が頼んだこのイルカちゃんのように、「石」の新規用途開発が期待されているから。
必要は発明の母ってことかしらね。
けれどもね、新しい物を生み出す時には、いつだって心の余裕が必要不可欠。
あ、言ってなかったかしら?
このイルカちゃんは、私の楽しみのための秘密兵器。
宇宙開拓では、こういうの公私混同とは言わないの。
娯楽だって、大事なお仕事のうちなのよ。
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ある程度の充電ができたら、主電源を入れて、物資を積み込む。
鼻歌交じりに台車でガラガラっと運び込むのは、お酒と食料。
イルカちゃんの中には少し大きめの冷蔵庫が設置されている。
ここへ、お酒と食料を入れていく。
特にビールは、キンキンに冷やしておかないとね。
その後はホースをつないで、イルカちゃんに備え付けのタンクに水を入れる。
これは飲料可能な上水をたっぷりとね。
タンクが満タンになったところで水を止め、イルカちゃんの中に入る。
うん、もう皆さんお分かりですね。
中にあるのは、大きくて立派な浴槽。
湯沸かしのスイッチをON!
タンクから供給された水が暖められ、浴槽へお湯が満たされてゆく。
うふ。
うふふ。
うふふふふふふふふふっ。
時は満ちた。
正式名称「バスドルフィン」の処女航海が始まるわ♪
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