手段と目的
いつもお読み頂きありがとうございます。
新章です。
月と、その次に火星でも見付かった「石」。
ただの隕石だと思われたそれは、人類がこれまでに出会ったことの無い、不思議な性質を持っていた。
一つは元素変換。
吸収したエネルギーを特殊な波長のエネルギー波(物質変換波と呼称)に変えて放出し、周囲の元素を別の元素に変換する。
当初ランダムに起こると思われた元素変換には、その後の研究によって独自の法則性があることが判明した。
現在では、与えるエネルギーを調整することで、任意の元素へと変換させることが可能となっている。
なお、そのエネルギー調整のためには複雑なプログラムが必要であり、特殊ポリマー等の新素材開発のため、今もなお研究が続けられている。
そしてもう一つは、エネルギーの保存。
「石」を真空中に保持すると、吸収したエネルギーを物質変換波として放出することが無く、そのままエネルギーとして保存することができる。
特筆すべきは、位置エネルギーのチャージ(石を落っことすだけでよいのだ)と、他の物質の運動エネルギーのチャージ(何かを石にぶつけるだけでよいのだ)が可能ということ。
さらに、この蓄えられたエネルギーを運動エネルギーとして取り出すことが可能ということ。
これにより人類は、超々高効率な、しかも超小型の推進機関を得ることができた。
この「石」のもたらした恩恵により爆発的な産業革命が起こり、人類の宇宙開拓は大きく進展することとなった。
そして今では、「石」と言えばこの特殊な石のことを指し、これ以外の通常の小さな岩石については、わざわざ「ただの石」「普通の石」などと呼ばねばならなくなった。
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軌道エレベーターのてっぺんから、地球を見渡す。
青い惑星。
俺の生まれ育った水の星だ。
なんて美しいのだろう。
だが、俺は知っている。
この世には、もっと美しいものがあることを。
アンタは知っているかい?
ダイヤモンド?
違う!
黄金?
違う!
愛?
違う違う!
そうじゃない!
そうじゃない!
特別に教えてやろう!
この世で最も美しいもの。
それはな、
どこまでも続く、二本のレールさ。
真っ直ぐに、時に曲がり、時に上り、時に下り、時に交わる。
地面の上を、地面の中を、海の底を、街の中を、山の中を、川の上を。
同じ幅で並び、列車を走らせる。
それがレールだ。
人類の発明した最も偉大で、最も美しいものだ。
レールが無けりゃ、列車だって車と同じ。
レールがあってはじめて、列車はどこまでも走っていける。
そう、二本のレールは目的地とロマンを繋いでいるんだ。
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で、だ。
人類は今、宇宙へ大々的に進出している。
今俺が昇ってきた、この軌道エレベーターだってそうだ。
宇宙空間まで届くこんな塔が、世界中に建造されつつある。
月には基地があり、火星はテラフォーミングの真っ最中。
地球の周りには、人が住める人工のコロニーを作る計画だってある。
だが、足りないじゃないか!
何が、だって?
レールだよ、レール!
レールのことだよ!
火星にはようやくリニアが建造されたが、まだまだだ。
人類の進出するところ、必ずレールがあるはずなんだ。
「はじめにまずレールありき!」
基本を忘れちゃいけねえぜ。
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俺は考える。
月や火星は今後、必要に応じてレールが敷かれていくだろう。
人が住んで、それでレールが不要なんてことは無いからだ。
だが、それだけじゃつまらない。
あんな美しいものを、必要な分だけしか作らないなんて。
そもそも「必要」って何だよ?
レールはそこに存在するだけで価値があるんだ。
レールがそこにあること、それこそが「必要」なんだろうが。
手段と目的を取り違えちゃいけねえよ。
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だから俺は同志を募った。
予想はしていたが、たくさん居たぜ。
それこそ世界中にな。
すでに根回しは済んでいて、レールの建造自体は決定している。
これから順次、取り掛かることになる。
で、どこにレールを敷くのかって?
決まってるだろう?
この宇宙空間さ。
全ての軌道エレベーターのてっぺんを、美しいレールで繋ぐのさ。
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