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宇宙開拓記 ~人類は逞しい  作者: 杠煬
第一章 宇宙からの石
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ドクターユイ

わしのへや はいるな!


そう書かれたドアをノックする。

「はいってます。」

間の抜けたボケが返ってきた。

「トイレじゃ無いんですから。」

一応ツッコみつつ、ドアを開ける。

清潔に保たれた部屋の中央には大きな机があり、その前に置かれた大きなひじ掛け椅子には、この部屋の主がちょこんと座っている。


何やら熱心に読み耽っている。今月の最新論文のようだ。

彼女はドクターユイ。私の雇い主だ。

艶やかな黒髪をショートボブにカットした、妙齢の女性だ。

いつも黒縁のメガネをかけているが、これは度が入っていない。

喋り方もわざと声のトーンを落とし、言葉使いも男性の様にしている。

本人曰く、科学者としてのイメージが重要なのだとか。

実は彼女は、科学者としての仕事以外にも、二足目のわらじを履いているのだが、まあこれについてはそのうちに。


「失礼します、所長。月からの荷物がとどきましたよ。」

「ありがとう。そこへ置いておいてくれたまえ。ところでカワムラ君、今日のおかずは何かね?」

「餃子ですよ。ニンニクは抜いた方がいいですよね?」

「よろしく頼む。明日はメンバーと稽古の日じゃからニンニク臭はまずいのう。」

可愛らしい声で重々しく頷くと、論文の続きを読みはじめた。


「えーと、ふんふん。おやぁ?」

何やら小難しい論文のようだ。少し興味が湧いて聞いてみた。

「何に関する論文なんです?」

「二鎖型界面活性剤のミセル界面における反応速度論。」

「ちょっと拝見しますね。」

ざっと目を通す。

「どうやら、親水基の極性の違いが肝のようですね。」

「さすがはわしの師匠、理解が早いのう。」

「理解力なら、所長にはかないませんよ。この論文の書き方がムダにひねくれているだけです。」


少し補足をする。


彼女は元々、私の生徒なのだ。

私は以前、ある大学で教鞭をとっていた。

彼女はその時、私のゼミにいたのだ。

宿題もこなさず、遅刻も多く、決して真面目な生徒ではなかったが、当時から彼女は、理解力と直感力がずば抜けていた。

調合の難しい実験をさせてみたりすると、ほとんど失敗せず正解にたどり着くのだ。

例えばA、B、Cの3つの試薬を任意の比率で混ぜ合わせて、最大の効果を得ようとする。他の学生達が何回も試しているなか、ほぼ初回で最適処方を見つけ出すのだ。

「声が聞こえるんです。正解はこうだよ、って。」

当時、彼女はこう答えた。

つまり、知識や情報ではなく、もっと深いところで世界が理解出来ているのだろう。


自分の娘よりも年下のこの少女に、私は敗北感と嫉妬心、そしてそれ以上の尊敬の念を抱いたものだった。

やがて彼女は博士号を取得し、私は定年で退官することとなった。

私は彼女に、大学に残らないかと聞いたことがある。

「ありがとうございます。でもその前にやりたいことがあるんです。」

そう言って彼女は大学を去った。


退官後、私は趣味の料理と庭仕事、ついでに家事全般にのめり込んだ。

ところが、娘が嫁ぎ、妻と二人暮らしの小さな我が家では、家事はたちまちのうちに済んでしまう。

暇を持て余し、私は家政夫として働き始めた。

そして2年後、私はある小さな研究所に家政夫として勤めることになった。

全くの偶然だった。

そこの所長が、彼女だったのだ。


所長とはいっても、彼女1人だけの小さな研究所だ。

彼女には別の収入源があるため、この研究所での仕事は趣味に近い。

ジャンルを問わず気ままに実験や発明をし、論文を執筆し、特許を取っている。

本来、食事の準備と掃除、そして庭仕事が私の仕事なのだが、時々、彼女の仕事の手伝いもする。

私としては、彼女の科学者としての才能が存分に発揮されることは大きな喜びであるから、家政夫としての本来の業務ではないが、むしろ積極的に手伝うようになっていた。

いつしか私は、彼女の助手ということになっている。


この研究所では、時々、他の研究機関からの相談も受ける。

先程の小包も恐らくその類いだろう。

「どれ、荷物を開けてみるか。」

論文を読み終えると、彼女は小包を開封し始めた。

「どなたからの依頼です?」

キッチンへ行って餃子の準備をしようかと思ったが、私も一応、彼女の助手である。

なので、仕事の依頼内容は把握しておきたい。

「月基地からの依頼じゃな。先週、円香からメールが来ていた。地質学者のプッカさんという方が新種の鉱物を発見したらしい。」

「ということは、分析依頼ですかね?」

「そうなんじゃが、ことはそう単純ではないらしい。」

月基地からは、これまでにも突然変異の農産物や、未知の岩石といって分析依頼がきたことがある。

しかしながらこれまで、それらが本当に新種であったためしは無い。

一見不可思議な物質であっても、彼女はたちまちにしてその本質を明らかにしてしまう。

結局のところ、品種改良の副産物であったり、複雑な鉱物のブレンドであったりしたのだ。

だが今回は、依頼者の名前に聞き覚えがあった。

「円香さんって、確か所長のご友人ですよね?」

「うむ。学部は違うがの。円香は機械工学が専門じゃったからのう。」

「で、プッカさんとは?」

「大方、円香の彼氏じゃろ。」

彼女の直感力は、大変優れている。


「さてと、こいつか!」

厳重に包装された小包の中から、さらに厳重に密閉されたバイヤル瓶が現れた。

瓶の中には、薄い空色をした岩石の欠片が入っている。

瓶の蓋を開けると、手であおぎながら匂いを確認する。

「無臭じゃな。」

次に彼女は、岩石の欠片をピンセットでつまみ、電灯の光にかざした。

気のせいか、やや青みが増したような気がした。

「綺麗ですね。」

「お世辞を言っても、給料は上げんぞ。」

「この石のことですよ。どこの鉱山です?」

「月の石ではない。月に落っこちた隕石なんじゃと。」

「月由来の鉱物では無いんですね。じゃあ今回は、いわゆる新種かもしれませんね。」

「宇宙からの贈り物じゃな。ロマンチックじゃのう。」

「分析はどうされます?まずは蛍光X線など?」

「いや、それは月基地でやっておる。」

「で?」

「さっぱり分からんかったらしい。」

「ということは、本当に未知の元素かもしれませんね!」

私は餃子のことを忘れて、思わず身をのりだした。


再び、補足しよう。

我々を囲むこの世界は、いや、我々自身を含めたこの世界は、全て元素から出来ている。

いわば、世界を構成する最小の単位だ。

コップ一杯の水があったとしよう。

この水を半分に分ける。

さらに半分に分ける。

この作業を繰り返して、どんどん半分にしていくと、最終的にこれ以上分けることの出来ない粒になる。

これが、水の分子だ。

水の分子は、水としてはこれ以上分けられない。

水ではなくなるが、水分子は、さらに水素と酸素に分けることができる。

これが原子だ。水素原子と酸素原子だ。

厳密には定義が異なるが、この原子のことを元素と呼ぶ。

つまり、世界を構成する元の素材なのだ。

原子は、更に原子核と電子に、そして更に細かく分けることができるのだが、専門的になりすぎるので省略する。

すでにいくつもの元素が判明しており、この元素の組み合わせで、この世界のほとんどのしくみはかなり解明されてきた。

もしここに、全く新しい元素が加わるというのなら、全く新しい世界が訪れるということになる。

胸踊ることになる。


「これはわしの直感じゃが、まあ、新種の元素というのは間違いないじゃろう。」

彼女の直感がそう判断するのならば間違いないだろう。これは楽しみだ。

「肝心なのはその正体じゃな。月での分析結果がまあ、カオスなんじゃ。」

分析データを見てみると、なるほど、彼女の言う通りだ。


ある時は鉄が検出される。

次に測定するとカルシウムが検出される。

更に確認すると硫黄だとなる。

測定方法によって異なるデータが出るならまだ分からなくもない。

だが、同じ測定方法で毎回バラバラな結果が出ているのだ。

「なるほど、さっぱり分からなかったというのはこういうことですか。」

「しかも、最初に見つかった時には燃えていたらしい。気密服の必要な月でな。」

「つまり酸素が検出された可能性もあると。」

「そういうことじゃ。おやぁ?」

岩石の欠片を見つめる彼女の目が妖しく光った。

「どうされました?」

「いや、さっきからこいつの色が少しずつ変化している気がしてたんじゃが。青みが増してきておったんじゃ。ところが今一瞬、赤くなってのう。」

最初、私も青みが増したように感じたが、気のせいでは無かったようだ。だが、赤くなったようには見えなかったが。

「赤くなりましたか?」

「ほんの一瞬じゃがな。見えなかったか?」

「見えませんでしたよ。ちょっとした光の加減ですかね?」

「ふーむ。」

彼女は黙り込むと、月から岩石サンプルと共に送られてきた分析データを眺める。

「資料はこれで全部かの?」

小包の箱を確認すると、底に薄桃色の小さな封筒があった。

「所長に親展ですよ、円香さんから。」

「可愛らしいお手紙じゃな。」

ペーパーナイフで丁寧に開封すると、折り畳まれた便箋を取り出した。


「ふむ。この岩石が採集された際の出来事がまとめてあるのう。」

読み進めるにつれ、笑みが広がる。

「何が書いてあるんです?」

「いやなに円香の彼氏がな、この岩石を見つけた後、月基地まで帰る際にえらい目にあったらしい。」

「別段、微笑ましいことでは無い様ですが?」

「これ自体はな。いや、円香がファームシープのプログラム変更で助けたんじゃと。恐らく共に困難を乗り越えることで、二人の距離が縮まったのじゃろう。昔っから機械おたくで男っ気が無かったからのう。良いことじゃ。」

それで笑っていたのか。

「でな、その際に不思議なことが起きておる。手紙によると、急激な酸素とバッテリーの消耗があったらしい。」

「それもこの岩石の影響なのでしょうか?」

「恐らく無関係ではないじゃろうな。ふーむ。」

彼女は再び黙り込むと、分析データを解析し始めた。


私はとりあえず、先に餃子を作ることにし、ダイニングキッチンへ移動する。


この研究所は、彼女の自宅を兼ねている。

だが彼女はもう1つの仕事柄、外食が多く、キッチンはあまり使うことがない。料理は割りと得意なようだが。


缶ビールがその容積の半分以上を占める、巨大な冷蔵庫から材料を取り出す。

キャベツをみじん切りにし、塩を振ってしばらくおく。

それを布巾に包んで絞り、水を切ったら、豚挽き肉と合わせ、塩、おろし生姜、味噌、ゴマ油、さらに粗みじんにしたピーマンを加えて良く練る。

彼女はピーマンが大好物。なので、あまり細かくはせず粗みじんにして存在感を増しておく。

皮は市販品を使う。

やや小振りに1つ1つ、丁寧に包んでゆく。

フライパンに油をひき、餃子を円形に並べてゆく。

強火で焼き目をつけたら、片栗粉をといた水を入れて蓋をする。

餃子が十分に蒸され、カリカリの羽根ができたら完成だ。

ご飯とスープをよそい、焼き目と羽根を上にして皿へ盛り付けたところに、彼女が入って来た。

「いい匂いじゃ。」


「ちょうど良かった、今お呼びしようと。」

「いい匂いがしてきたからの。」

「何か分かりましたか?」

冷蔵庫から缶ビールを取り出し、グラスと共に差し出す。

「ありがとう。ボンヤリと見えてきたものはある。じゃが、決め手となるデータに欠けるのう。」

彼女はそう言うと、グラスに注いだビールを一息に飲み干した。

「まあ、もう少し考えてみるとしよう。うむ、旨い!」

餃子の羽根を噛み砕く咀嚼音を聞きながら、食後のお茶を用意する。

「お食事が終わられましたら、先程の続きを教えてくださいよ。」

私の分も湯呑みを用意し、菓子皿にアイシングクラッカーを盛った。


「要点を整理してみよう。」

クラッカーをぽいと口に放り込みながらそう言うと、彼女はペンをとり、大きめのノートの新しいページを開いた。

「最初に月で発見された時、燃えていた、と。」

「それから、酸素とバッテリーの消耗があったというのも岩石が原因でしょうか?」

「そうじゃろうな。あと、分析しても毎回違う結果が出る、と。」

丸っこい綺麗な字で丁寧に書いてゆく。

書きながらも彼女は、頻繁にクラッカーを齧る。みるみる減ってきた。

「色の変化も気になるのう。青みが増し、赤く光った、と。」

「もう一度、分析結果を拝見しますね。まず鉄、次がカルシウム、そして硫黄と。もう一度測ったら何が出ますかね?」

「どうだかのう。再現性が無いとは難儀な話じゃ。」

「これは蛍光X線分析をしたんですね。他の分析方法はしていないんですか?」

「月にはまだまだ物資が少ないからのう。あまり大がかりな分析機器は置いてないんじゃ。」

「なるほど。どのみち定期便は行き来してますから、今回みたいに地球で調べた方が合理的ですね。」

「そういうことじゃ。カワムラ君、クラッカーおかわり。」

私は立ち上がると、菓子皿にアイシングクラッカーを多めに盛り付けた。


「所長は、この岩石が新種の元素だとお考えなんですよね?」

「まあ、の。」

クラッカーをもぐもぐしながら彼女は答える。

「だとすれば、鉄になったり、カルシウムになったりするのはどういうことでしょうかね?」

「あくまでわしの仮説じゃが、周りの気体などを変容させる触媒として働くのじゃろうな。」

「あ、そういうことですか。」


うっかりしていた。なぜその可能性に思い至らなかったのだろう?

つい、私もつられてクラッカーをつまむ。

触媒とは、それ自身は変化せず、他の物質を変化させる物質のことだ。この岩石自体は変化せず、例えば回りの酸素を硫黄に変えたりしていたのか。

今までは、この岩石が様々な元素の特性を持つと思い込んでいたのだ。


「でも、しかしですよ、所長。」

「そう。元素の組み合わせを変えて異なる分子を作る触媒はある。じゃがこいつは、元素そのものを変容させるのじゃろうな。」

「だとしたら、とんでもないことですよ、これは!」

沸き上がる興奮を押さえるべく、喉に詰まりかけた乾いたクラッカーをお茶で流し込んだ。


しつこいようだが、補足する。

古の化学に錬金術という思想があった。

賢者の石という触媒で、水銀と硫黄から金を作ろうとしたのだ。

だが現代化学により、その実現は不可能であることが証明されている。

一方でその化学により、炭からダイヤモンドを作ることは可能となった。

先程の、元素を思い出して頂きたい。

この世界を構成する最小のものだ。

現代化学は、水銀、硫黄、そして金がそれぞれ別々の元素であることをつきとめた。

同じ様に、炭とダイヤモンドはどちらも炭素という元素で出来ていることをつきとめた。同じ元素が形を変えただけなのだ。

元素を組み換えて、様々な物質を創造することはできる。だから、炭からダイヤモンドが作れるのだ。

そして、水銀の元素、硫黄の元素は、金の元素に作り替えることは出来ないのだ。出来ないはずなのだ!


「あのぅカワムラ君、1人で盛り上がっとるとこに水を差すようで悪いんじゃが、理屈では元素自体の変容も可能じゃよ。」

「分かってますよ。」

思わず赤面する。


元素を構成する陽子、中性子、電子の数さえ変えられれば元素自体も変えられる。だがしかし、とんでもない量のエネルギーが必要で、実際にはほぼ不可能と言っていい。

「でも、こんなに簡単に元素変容ができるなら、これはまさに!」

「そう、まさに賢者の石じゃな。」

やはりこれはとんでもないことだ。

私は改めて、小さな岩石の欠片を見つめた。

「だとすると、問題は。」

「フム。再現性の確認、つまり元素変容のメカニズムをつきとめることじゃな。」

「これからどうします?」

「明日、思い付く限りの条件を色々と変えて再分析を頼む。わしは終日留守にするが、分析機器は自由に使ってくれたまえ。」

「承知しました。夕食だけご用意しますね。」

「簡単なツマミだけでよいぞ。」

そう言うと、彼女はノートを閉じた。

明日は忙しくなりそうだ。


翌日、私は朝からひたすら分析を行った。

途中、分析機器の調子が何度かおかしくなりその調整に時間を取られたため、あまり多くのデータは得られなかった。

日が暮れるまでひたすら分析を行い、最後にきんぴらごぼうと、ピーマンの唐揚げを作っておいた。

帰る前に、ふと思い付いて、今日の分析データにもう一度目を通す。

何か奇妙な感じがした。

岩石サンプルを眺める。

何だ?何なのだ?

何かが引っ掛かる。

もやもやしたまま、私は研究所を後にした。


翌朝、研究所へ出勤すると、彼女はすでに起きていた。

「おはようございます所長。早いですね。」

通常、朝食が昼食を兼ねる時間に起床する彼女には珍しいことだ。

「おはようカワムラ君。いやなに、昨夜は寝とらんのでな。お腹がすいたわい。」

見れば、机にはビールの空き缶がいくつも転がり、彼女も酒の匂いをさせている。

話しながらも、その目は、昨日私が測定したデータに集中している。

「えーと、ここと、ここ、そしてこれもか。」

なにやら呟きながらペンでチェックを入れている。

「何か分かりましたか?」

「自然現象をよく観察すると、一見無秩序なようでも、ちょっとしたリズムのようなものがあるんじゃ。ところが、このチェックを入れたところでそのリズムに変化が現れておる。この時点で何か起こらなかったかの?」

もう一度、分析データを眺める。

一瞬だが、法則が見えた気がした。

その正体が知りたくて、思わず椅子に腰掛け考える。

「あ!」

思い出した!

昨日、分析機器の調子が何度かおかしくなった。

都度調整を行ったのだが、彼女の言う変化は、その直後に起こっているのだ!


「なるほど、分かってきたわい。」

だし巻き玉子と、茄子の味噌汁の朝食を平らげ、彼女は言った。

目の前には、大きなノートが開かれ、要点をまとめている。

「どうなっているんです?」

「ふむ、分析機器の基本は、物質にX線などのエネルギーを与え、それに対する反応をみるのじゃが、この岩石はそのエネルギーを過剰に吸収するのじゃな。」

「それで?」

新しい缶ビールをプシュんと開け、彼女はごくごくと喉を鳴らす。

「過剰な吸収により、分析機器の調子は悪くなる。恐らく、月で岩石を持ち帰る際、急激なバッテリーの消耗があったそうじゃがこれも同じことじゃろう。」

「近くのエネルギーを吸いとるのですか?で、どうなるんです?」

彼女の言わんとするとこれが今一つよく分からない。

「このエネルギーがある程度蓄えられると、回りの物質を元素変換させるのじゃ!」

「あ!」

「分かったかの?」

「月への衝突エネルギーで酸素を作ったので燃えた!バッテリーの電気でボンベの酸素が二酸化炭素になった!」

「そういうことじゃ。測定する度にそのエネルギーを吸いとって別の元素を作るから、結果が一致しないのじゃ。」

腑に落ちた。

「あとは、与えるエネルギーと変換元素の法則を見つけるだけじゃな。カワムラ君、しばらく忙しいなるぞい!時給ははずむからの。」

「無論、お手伝いします。こんな面白いこと他の人には任せられませんよ!」

そう言うと、私達はこれからの実験計画を練り始めた。



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