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宇宙開拓記 ~人類は逞しい  作者: 杠煬
第二章 地道な発展
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慣性と感性

「落下スピードの低下....物質変換波が作用したわけではないですよね?」

「違うじゃろうな。」


ここからは推論を組み上げる楽しい時間。

だが、ピーマンの残りも少なくなってきた。

確か冷蔵庫に魚肉ソーセージがあったな.....

カレー粉で炒めようか??

おやつじゃなくて食事になりそうだが。


「これはあくまでもわしの勘じゃが、おそらく石は、位置エネルギーを吸収することができるはずじゃ。」

「ええと、ちょっと待ってくださいよ。」

物理の基礎知識を、錆び付いた頭のどこかから引っ張り出す。


「専門用語はやめて分かり易くの。ただでさえ、わしらが出てくる話は理屈っぽくて分かりづらいのじゃから.....」

「誰が言っているんです?」

二人とも酔ってきたようだ。


要するにこういうことだ。


高いところにある物質は、下に落ちることができる「エネルギー」を持っている状態である。この「エネルギー」のことを、位置エネルギーと呼ぶ。

この物質を下に落とすと、地面に近付くにつれてスピードが上がる。

動いているわけだから、この物質は運動エネルギーを持った状態になる。

つまり、位置エネルギーがゼロになる代わりに、その全てが運動エネルギーへと変わるわけだ。


「で、その位置エネルギーを吸収するということは...」

「物質が下に落ちた時の運動エネルギーも小さくなる。じゃからスピードが落ちるのじゃな。」


お分かりいただけただろうか。


ビルの上からビー玉を落とせば、地面にぶつかる時のスピードはかなりのものになる。

だが、位置エネルギーが吸収され小さくなれば、例えば数センチの高さから落とした時と同じぐらいのスピードにしかならないわけだ。



..............................



「で、そこから先の議論が進みませんね。」

「進むのは酒ばかりじゃな。」



二人とも酔いが回り、食べ尽くしたピーマンに次いで、現在は炒めた魚肉ソーセージにマヨネーズをつけて食べている。

魚肉ソーセージを玉ねぎと炒め、醤油とカレー粉で味を付ける。

誰にでもできる簡単レシピである。


空き缶の本数は、とうに数えるのをやめた。

思考は同じところをぐるぐると回り、世界もぐるぐると回り出した。



あれからいくつかの仮説を立ててはみたものの、全て彼女の琴線に触れるものでは無かった。

彼女の直感が、どの仮説も間違いだと告げていたのだ。

ふむ。

非科学的と言われようが、私は彼女の直感を信じている。



科学とは自然界に存在する法則を見付けること。

誤解を恐れずに言えば、神の領域に足を踏み入れること。

それは神の声を聞くこと。

つまりは芸術の一種なのだ。

彼女の直感とは、自然界の法則の持つ美しさが分かるということなのだろう。


「いやあ、照れるのう。美しいだなんて、そんな本当のことを....」

「所長のことじゃありませんよ。」



「....ああもう、やめやめ。やめじゃ。酒が抜けてから考えよう。わしは寝るぞい。」

「どうぞ。その方がいいですね。」

「寝る前にシメのラーメンを食べよう。」

私はずっこけた。


彼女はキッチンの戸棚をゴソゴソやって、大盛のカップラーメンを二つ取り出す。

今朝、出勤前にコンビニで買っておいてよかった。

「私は結構ですけどね。」

「わしが二つ食べるんじゃが。」

....でしょうね。


薬缶にお湯を沸かしていると、今度は冷蔵庫をゴソゴソやっている。

「えーと、卵、卵...と。」

取り出した卵を二つ、テーブルの上にのせた。

「冷えた卵だとスープがぬるくなるからの、まずは常温に戻しておくのじゃ。」

なるほど。


おっと、その前に。

「待ってくださいよ。スープが飛び散りますから、先にデータを片付けましょう。ちょっとこれ持ってて下さい。」

テーブルの上に置いてあった石と卵二つを彼女に渡し、データを片付け始める。

「むにゃ?もうできたのかの?」

「まだです。立ったまま寝ないで下さいよ、落としますよ。」


振り向いてそう言ったまさにその時、彼女の手から石と卵が落っこちた。


「あ、ごめ...!!!」

「!!!」


一瞬、酩酊のせいかと思った。

だがそれは、そこで起こったことは見間違いでは無かった。


石と二つの卵は、ゆっくりと、ふわりと床に降りたのだ。

卵は二つとも割れなかった。



「...分かったぞい...」

彼女の呟きが、はっきりと聞こえた。


彼女の感性が世界を捉えた。

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