野営
必死に歯を食いしばって声を出さないように泣いているその子供を見てドクンと鼓動が跳ね上がる。
ああ……この子だ。
まさか出逢うとは思っていなかった。
出逢えるとは思っていなかった。
出逢ってはいけなかった。
私では幸せにしてあげられないから。
内心の動揺を押し隠し話しかける。
「もう大丈夫だ。魔物はいない。出てきたらいい。」
子供はびくりと肩を震わせたが動くそぶりはない。
怯えてるのだろう。
あの光景を見ていたなら仕方ないことである。
相変わらず鼓動はうるさく、そんな自分にいら立ち思わずチッと舌打ちが出た。
それが聞こえたのか子供はまた身体をビクッと震わせる。
怖がらせてしまった!!その事に動揺し頭が真っ白になってゆく。
だが子供を相手にしたこともないリイネにはどうすればいいのかわからなかった。
子供どころかほとんど人も相手にしたことがないリイネにはハードルが高すぎたのである。
しかしこのままここに留まることはできない。いつ血の匂いを嗅ぎつけて魔物が現れてもおかしくないのだ。
意を決しもう一度、今度は怯えさせないようにとそっと話しかける。
「だ、大丈夫か?」
ゆっくりと子供がこちらを向いた。涙で潤んだ紫のアメジストのような瞳がこちらを見つめる。
ようやくこちらを向いてくれたことに少しホッとしつつ言葉をつづけた。
「ここはまだ危険だ。魔獣が来る前に離れたほうがいい。」
そう言いながらゆっくりと手を差し出す。
しばらく考えるような仕草をした後、おずおずと子供はリイネの人差し指をそのぷくぷくした手で握った。
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子供と手をつなぎ、最初に休憩しようとしていた大木の元へ戻った。
歩きながらちらちらと子供の様子をうかがう。漆黒の髪には可愛らしい犬か狼の耳がついている。
ぼろぼろの貫頭衣のお尻からは同じく漆黒の豊かな毛並みのしっぽが怯えを現すかのように下げている。
そんな姿ですら愛しくて抱きしめてほおずりしたくなる。
そんな状況ではないと自分に言い聞かせるが、本能がずっと呼びかけるのだ。
自分のものにしろ。誰にも見せるな。その声一つ、仕草一つすべて私のものだ。と。
頭の中での理性と本能のせめぎあいなどおくびにも出さず、野営の準備を始める。
マジックバッグから必要な物を黙々と取り出すと、テントを設置し火の魔法で火をおこしその前に敷物を敷くと子供を座らせて手早く干し肉のスープを作った。
「食べれるか?無理なら果物もあるからそれを食べるといい。」
子供の前にスープと果物をそっと置く。スープの中には大きめの野菜とかなり小さくカットした干し肉が入っている。まだ肉を見ては思い出してしまうかもしれないので、だしを取るだけにし、できるだけ細切れにした。そして果汁いっぱいのオレンジ。
子供がゆっくりと手を伸ばすのを確認してリイネも食べ始めた。
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