七行詩 801.~810.
『七行詩』
801.
心が風邪をひいた時
何が温めてくれるのか 私はよく知っている
身を休め 眠る間だけが
貴方と居られる時間であるから
せめて今だけは休みなさい、と
自らを寝かしつけるのも
たまにしか味わえぬ 楽しみの一つかもしれない
802.
自分らしさも 音楽も
彫刻のようでなくてはならない
年輪を重ねた 木を削り
より尖らせて 削ぎ落として
一つの姿を 残さねばならない
完成までにかかる日々こそ
最も尊いものである
803.
透き通る癒しの水のような
心や声の持ち主が
私の歌を 歌っても意味がないのです
時に濁り 喉に詰まらせて 味わった
命の水である貴方
砂漠に一人 置き去りにされても
貴方の居た証を 歌い続けるのは 私です
804.
美しい食器が棚に並んでも
私は最近 食すことができず
また少しずつ 痩せてゆく
あたたかいスープを飲みましょう
栄養や 優しさの溶けた一口が
私を生き長らえさせる
母の温もりを 思い出させる
805.
ああ、美しい思い出たちよ
どんな真実より美しい
私だけに 見ることが許された幻
誰かが居れば よかったのかも知れない
けれど 貴方が居てくれたではありませんか
今もこうして 私に筆を執らせるのは
変わらず貴方でいてくれることが 嬉しいのです
806.
私の身分が 貴方と同じであったなら
私にもう少し 財があったなら
こんなに美しい羽を持つ
蝶を捕まえておけるのでしょうか
いつか 幾千本のバラが咲く 庭に貴方と訪れたい
そこで自由に翔る貴方を
私だけが いつまでも見つめていたい
807.
道行く全ての人たちに
気づいて欲しい 愛して欲しい
あの方の 最も輝ける姿を
胸を張るよう 言ってやってください
私の言葉だけでは届かないから
足を止めた皆の 合唱に混じり 声援を送る
私の声は 貴方には聞こえますか
808.
人の心や 愛情など
機械なら 真っ先に捨ててしまうような
煩わしいものだというのに
時に自分を犠牲にしても 人は守ろうとする
それは 人にしかない強さである
いつか 世界が機械に支配されても
私は奪い返すことより 貴方を連れて 逃げるでしょう
809.
他の誰かを追うならば それは私とは別人で
変わってしまった私の吐く
言葉を知ってしまうのでしょうか
登りつめた丘で 貴方に出会い
二度と戻れぬ高さから
転がり始めた岩のように
私はこのまま 地に落ちるまで 転がり続けたい
810.
不思議なものです
貴方は決して 私を支える人にはならないのに
貴方の存在に どれほど支えられているのか
手紙を書くことは許されない
だから私は 貴方がくれた歌に
命を吹き込み 歌い続けて
いつか風が 届けてくれることを願いましょう