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げんとげん  作者: 長月十伍
Ⅲ;原罪 と 顕現
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Track.3-11「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」

 大海原の上に帆を張った巨大なガレオン船の甲板にて、三つ目巨人たちをまさに掃討する最中にある調査団――間瀬奏汰の調査チーム4人と、民間企業の4人による8人は、船尾上空に突如開いた(ゲート)に目を丸くした。

 しかし直後無線式インカムに響いた奏汰の『準備は整いました。各自急ぎ(ゲート)内へ急行してください』という指示に従い、巨人たちを甲板ごと吹き飛ばすと、(ゲート)内へと駆け抜けていく。


 見渡す限りの砂漠を霊視が齎す霊銀ミスリルの輝きを頼りに彷徨っていた8人も、そして廃墟と化した山村を調査していた8人も同様だった。

 眼前に(ゲート)が開き、奏汰から最深域へと向かうよう指示があり、(ゲート)へと足を踏み入れていく。


「どういうことだ?何故(ゲート)が?」


 そして魔術学会(スコラ)にある講堂の一つ――奏汰が今回のPSY-CROPS(サイ・クロプス)掃討に向けて対策本部を設置するため借用していたものだ――に集まる調査員面々の前で、奏汰は狼狽を隠し切れなかった。


「Dチーム、Eチーム!――ダメだ、通信も阻害されている」

「間瀬の旦那、こりゃひょっとしてピンチって奴ですかい?」


 中空に浮かぶ複数の空間投影モニタを眺めながら歯噛みする奏汰の元に、腰に日本刀を差した和装の男が歩み寄る。壮年ながら確たる強者の雰囲気を纏っている。


「……そうかも、しれません」

「一体、どういう状況なんですかい?」


 四方月(ヨモツキ)龍月(リュウゲツ)――古来よりこの日本における異界からの幻獣・異獣・異骸の侵攻や魔女の討伐に関わる“退魔士”として機能してきた四方月宗家の先代当主にして、日本全土に張り巡らされた異界侵攻迎撃のための防衛機能“暦衆(こよみしゅう)”を纏める長である。

 四方月家に対し、日本において斬術・方術の普及に尽くし、また古くより台頭する魔術士同士の連携に寄与した一族、と魔術学会スコラは高く評価している。


 そんな龍月は短く刈り込んだ頭をボリボリと掻きながら奏汰にやんわりと詰め寄った。

 奏汰も思考をフル回転させてはいるが、俄かに起きた異常事態(イレギュラー)に狼狽以外の動作を選べない。


「おそらく、ですが――通信をジャックされました」

魔術学会スコラの通信魔術とやらは、それほどまでに脆弱なのか?」


 講堂の窓際で壁に背を預けていた、黒い修道服に身を包む成年が呆れた声を上げた。

 アンリ・クリストフ・ヴンサン――フランス系カナダ人フレンチ・カナディアンの痩せこけたこの祓魔士(エクソシスト)は、今回集められた調査団の中で唯一言術を専門とする魔術士だ。

 傍らにいる、同じく修道服に身を包む幼い少女が緊張した面持ちで強い言葉を放つアンリを見上げている。


「いえ――魔術迷彩を三重に掛け、霊銀ミスリル信号に二重の暗号化を施しています。万全を期している筈だ」

「ヴンサンの旦那、今は仲違いの時間とは違うんでは?それを受けてどうするかを論じる時間で無いかい?」

「ミスター・ヨモツキ、俺達は互いに雇われた身だ。依頼主(クライアント)に不備があればこの先命を落としかねない、違うか?」


 アンリは引かず、むしろ真っ向から言葉を突き出す。龍月はふむ、と頷くも、すぐに顔を上げて焦りを浮かべる奏汰を見下ろした。


「間瀬の旦那、判断してくれますかい?」

「くっ――」


 奏汰の焦りは、モニタの向こう側で開いた(ゲート)が、一体どの座標に通じているかが判らないことが最も大きかった。

 本来ならば最深域へと至る座標を見つけた調査団から連絡を受け、その座標を特定して各調査団へと通達、全員で最深域へと乗り込む算段だったのだ。

 ゲートは開いたが、しかしどの調査団もそれを見つけてなどいない。ゲートが勝手に開いたのだ。罠と考えるのが普通だ。


 そしてもう一つ。Cチーム――火山地帯を進行した奏汰の調査チーム4人とクローマーク社チーム“FLOW”の4人だ。その眼前に現れた自称“異端審問官インクィジター”の言術士。

 異端審問会(インクヮイアリィ)がすでに潜伏捜査に乗り出しているという情報など何処にも無かった。


 何もかもが怪し過ぎる――しかし考えても埒は開かない。奏汰は深呼吸をひとつすると、顔を上げて全員を振り返る。


「――当初の予定とは大幅にズレますが、外部からの強制接続を試みます。今ここにいるメンバーを6チームに分け、そのうち5チームをそれぞれの異界に送ります。5チームは各異界に開いた(ゲート)の先へと侵入後、既存の調査団と合流し脱出、或いは最深域への座標を特定し突入してください」

「チームの分け方は?」

「再編成は行いません。それぞれのリーダーが率いる4名ひとチームで突入してください」

「了解」

「ちっ、分かったよ」


 口々に毒を吐きながらも、雇われた魔術士たちは強制接続の時を待った。ここにいる魔術士たちはベテランだ。準備などすでに終えており、呼吸を駆使して早くも体内に霊脈を作り始める。


「間瀬さん、強制接続準備完了です」

「よし、始めてくれ」


 号令が下り、接続を失っていた五つの金属板(ポート)が新たな転移門(ゲート)を開く。


「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」

「勘弁してもらいたいものだな」

「せめて愉しい時間があればいいのだが」


 腰に日本刀を差した和装の集団が(ゲート)へと入り、異界へと消えていく。

 続いてアンリ率いる法衣の集団も異界入りを果たす。

 そうして待機していた5チームが異界へと侵入したのを見届けた奏汰は、監視を続けながら部下に通信に対する外部接触の有無・ジャックの原因究明を命じた。



 そして火山洞の奥で(ゲート)へと踏み出した航は、転移した先で声を上げる。


「おい、どこ行った!?」

「四方月さん、やられましたね……」


 愕然とする航たち。その面々の中に、芽衣と茜、心、そして真言マコトの姿は無かった。

朝方5:00より、新作読み切り公開です。

芽衣と“白い少女”の過去を紐解く、異なる世界線の物語。

「殺<アイ>されたいコと愛<コロ>してくれコ」

お楽しみいただけますと幸いです。


また、並行して茜・心の過去スピンオフを書き始めました。

書き終えましたら公開しますのでお待ちください。


→次話5/31 0:00公開です。


宜候。

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